第2話 魔王と勇者、ドッヂボールとサッカーをする
勇美が俺を睨んでニヤリと笑う。
「ふっふっふっ……魔王よ、ついに決着をつけるときがきたな」
その笑み、なんとなくだが勇者よりも魔王にふさわしくないか?
あと、Tシャツ&ブルマ姿で言っても様になっていないぞ。
そんなツッコミをするまもなく、勇美はボールを持った右手を振り上げた。
「いくぞ!」
勇美が叫び、俺に向かってボールを投げつけた。
すさまじいスピードだ。
躱すのは難しいか。
地面を転がれば避けられるかもしれないが、それだと外野の誰かに当てられそうだ。
しかたない。真っ正面から受け止めてやろうじゃないか、勇者殿!
俺は身構えてボールを受け止める。
ズシンっと重いボール。影陽の肉体では吹っ飛ばされそうになるが、なんとかキャッチ。
勇美が「ちっ」と舌打ちした。
「なかなかやるな、勇者殿!」
外野のクラスメートたちが「あの2人、また魔王とか勇者とか言ってる」と呆れているが、いまさらである。
この数ヶ月で、勇美がおれのことを『魔王』と呼ぶのは、クラスメート達は何度も聞いているからな。
最近は俺の方も開き直って、彼女のことを『勇者殿』とか言っちゃっているのだ。
ここまでぶっちゃければ、むしろ双子がふざけて言っているとしか思われないようだ。
……と、説明が不足していたな。
今は体育の授業中。
もっといえば、クラスメートが赤組白組に分かれてドッヂボール中である。
試合が進み、それぞれのチームに残った内野は、赤組が勇美、白組が俺。
つまり、すでに勇者VS魔王の1対1対決になっている。
「だが、これまでだ! 俺の一撃で倒す!!」
「ふっ、来るがいい。魔王よ!」
今度はこっちの番だ。
俺は振りかぶって勇美にボールを投げつける。
が、勇美もキャッチする。
なかなか勝負がつかないな。
だが、なんというか、楽しいな。
童心に返って遊ぶのは気持ちが良い。
いや、これは授業であって遊びじゃないが。
「おーい、こっちにもボールを投げろよ、勇者さん!」
相手チームの外野が勇美に言うが、彼女は無視して、俺を狙う。
うーん、どうやら外野にボールを渡すつもりはないらしい。
……さて、どうするかな。
試合の残り時間は3分ほど。
このままじゃ引き分けだ。
「いくぞ、勇美!」
俺は叫んで、彼女の足下を狙う。
正確には、勇美より少し前の地面を狙った。
「ふふふっ、魔王め。狙いがはずれたな! ワンバウンドではそもそもアウトにならんぞ」
勇美は笑ってボールを拾おうとした。
が、ボールは地面に着地した瞬間、軌道を変えて跳ねる。
「なに!?」
軌道を変えたボールは白チームの外野へ。
外野のそらの胸の中に丁度ボールが収まる。
「はははは、油断したな勇者殿! 地面の石に気づかないとはまだまだだ!」
そう、俺が狙ったのは地面の石ころ。
ボールをバウンドさせてこっちチームの外野に跳ねるようにしたのだ。
さすがにそらの胸に飛び込んだのは偶然だが、いずれにしても大チャンスだ。
「そら!」
俺が叫ぶと、そらは小さくうなずいた。
「ごめんね、勇美ちゃん」
言ってそらは勇美にボールを投げつけた。
勇美は「ちっ」と舌打ちする。
方向的にキャッチするのは難しいと判断したのだろう。とっさに体育着を汚してまで校庭を転がって避けたのは大した判断力だ。
しかし、そらの投げたボールはそのまま白チームの内野にいる俺のそばへと転がってきた。
俺はボールを持ち上げて、地面に転がったままの勇美に投げつける。
さすがにこれは彼女も取れず、試合は白組勝利となったのだった。
試合終了後、ボールを片付ける俺に、勇美が言ってくる。
「くぅぅ、卑怯だぞ!」
「何がだよ?」
「1対1の戦いだったはずなのに!」
「いや、ドッヂボールで外野と協力するのは普通だろ」
俺がそう言ってやると、そばにいたそらも「だよねー」とうなずく。
「俺はそらを信頼していたからな」
「うん、ありがと!」
俺とそらはハイタッチ!
「くぅぅぅ、来週のサッカーでは負けんぞ!!」
……などと言っていたのだが、翌週の体育の時間は……
チームわけ後、勇美が悔しげに言った
「くっ、まさか勇者と魔王が手を組むことになるとはな」
サッカーで俺と勇美は同じ白チームになってしまった。
ちなみに、今回はそらは赤チームだ。
冒頭、俺は勇美にボールをパス。
勇美はニヤッと笑う。
「魔王! お前はそこで見ていろ」
言って勇美は1人ドリブルでゴールへと駆け上がる。
おいおい、無茶苦茶だな。
案の定。勇美の回りには赤チームの選手が群がってくる。
中にはサッカー部の子もいる。さしもの勇美も苦戦中だ。
俺はゴール近くまで駆け上がる。
「こっちだ!」
と、叫んではみたものの、あの意固地な勇者殿がおれにパスを出すはずもないだろうなぁ。
相手チームも勇美のそういう性格をこの数ヶ月で知っているから俺はノーマークなんだろうし。
が、勇美は俺を確認すると舌打ちしながらも言った。
「ちっ、しょうがないっ。受け取れ、魔王」
勇美は俺に向かって長距離パス!
その狙いは流石の正確さで、俺の足下にボールが転がってくる。
俺を阻むのはゴールキーパーのそらのみ。
「悪いな、そら!」
俺は思いっきりシュート!
そらはとても対応できず、俺はゴールを決めたのだった。
「ナイスパスだったぞ、勇美!」
俺が言うと、勇美は腕を組んで「当然だ」と大いばり。
「いや、そこはナイスゴールとか返せないのか?」
「ふん、私のパスが良かっただけだ」
まあ、それは否定しないけどな。
いずれにしても開始早々、1点をゲットした……と思ったのだが。
木島先生が俺たちに言った。
「はいはい、ナイスパス、ナイスシュート。でも無得点よ」
『な、なにぃぃ!?』
「授業の前に、オフサイドの説明したわよね?」
あ……
「と、いうことで0対0のまま再開。いいわね、勇者さん、魔王さん?」
しまったぁぁぁぁ!!!
結局、この日のサッカーの試合はサッカー部の子たちが大活躍して、赤チームの勝利で終わったのだった。
試合が終わり、今日も片付け中。
「くそっ、あんな簡単なトラップにひっかかりおって! 魔王なんぞを信じた私が馬鹿だった」
「悪かったよ。相手の半分以上がサッカー部だったんだししょうがないだろ」
「さすが魔王。イイワケだけはいっちょ前だな」
などと言い合っていたのだが。
そらがやってきて言った。
「なんか、最近2人って仲良くなったよね?」
「まあ、事故直後に比べればそうかもな」
勇者殿もだいぶ性格がまるくなったしな。
そう思ったのだが。
「違うよ、事故の前よりも仲が良いじゃん」
え、そうなの?
「なんていうか、事故前の勇美ちゃんって丸木くん以上に近づきがたい優等生ってかんじだったもん」
ふむ。いまの勇美は体育以外劣等生もいいところだけどな。
しかし、そうか。
事故前の双子以上に、俺と勇者殿は仲良くなったのだろうか。
なんだか不思議な話だな。
勇美が顔を真っ赤にして反論する。
「わ、私はこんなヤツと仲良くなった覚えはない」
「はははっ、勇美ちゃんってば照れちゃって。どうみても仲良しじゃん。結婚しちゃえば?」
「じょ、冗談ではないっ!」
うわぁ、本気で恥ずかしそうだ。
なかなかにカワイイな。
だけどさ。
「いや、そもそも双子は結婚できないから」
ため息交じりにツッコんだ俺の声は、はたして2人の耳に届いたのだろうかね。
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