九頁目



なにもいらない

なにもいらない

なにもいらない

そんなこころが

ほしいだけ



 ⌘



月夜はいつも雨が降る

あの雲の向こうの

光を想う

向こうからの光が

此処に届くことを信じて

この雨のように



 ⌘



夢のなかにあったお香に惹かれて

わたしはその香りを求める

目が覚めてもそれを

ずっと探している

ほんとうに何処かに

それはあるのではないかと

すこしだけ期待して



 ⌘



あめにぬれるのは きらい

なにもかも くっつきすぎる

それがかわいても なお

なにかが はなれない気がする



 ⌘



ああよかった

まだ此処にあった

あのあったかい場所が

なくならなくてよかった

欠けてしまったのに

わたしはそう言い続ける

やたら美しかった花が

目の裏にこびりついて

あの色が

抜けないくせに

知らないふりをして

わたしは言う

ああよかった

まだ此処にあった

扉の向こうには

もう何もないのに


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る