こぼれゆくものたち
桐月砂夜
2022年8月
一頁目
思い出が 押し花であるなら
どれを 見つめようか
どれを あやめようか
⌘
このつめには 多くの記憶が やどっている
切っても 切っても
わたしがここに 居るかぎりは
⌘
交際をしていた ひとより
ひとり想っていた ひとの 誕生日ばかり
おぼえているなんてね
⌘
突き刺さる いたみがあるなら
突き刺さる よろこびもある
どちらも 刺々しい
⌘
ばかにされてもいいって思うのは
きっと自分がわたしをばかにしているからだ
⌘
泣くのがきらいだ
直前におなかを蹴られるような
あの感覚がきらいだ
だって何もみえなくなる
なにも
⌘
手を伸ばしてつかむ 幸せがあるなら
手を払ってしまう そんなものだってあるよ
⌘
やさしくしたいけど そこにはいけないの
⌘
日差しに目を細める いつかの夏を想う
いまよりも ずっと暑かった気がする
考えると 涙が出そうになるから
わたしのあの夏は もう此処に
永遠に来ることはない
⌘
なにをたべたか おぼえていない
きていた 服すらも
あなたが そこにいたことしか なかった
そのほかには なにも なかった
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