美少女騎士(中身はおっさん)と下っぱ吸血鬼 その05
「ウーィル、あぶない!」
ヴァンパイアの不死身の肉体を、その再生力よりもはやくバラバラにしていくウーィル。
その背後、ブルーノが叫んだ。ウーィルの死角、ついさっき関節技で引きちぎられた腕が、単独で動いているのだ。警官から奪い取った拳銃をウーィルに向ける。
パンッ!
乾いた音が反響する。
キンッ!!
同時に金属音。振り向きざま、ウーィルが拳銃の弾を剣で斬ったのだ。
「拳銃なんてせいぜい音速以下の小さな金属片が飛んでくるだけだからねぇ。不意打ちでもない限り斬るのは簡単だよ」
「……うそ! ま、ま、魔導騎士って、みんなそうなの?」
女性警官が絶句したあと、ブルーノに問う。
「魔法で銃を無効化するくらいなら、僕もできますよ。もっとも、発射された弾を剣で斬ってしまうなんてまねは、彼女しかできませんが」
言いながら、実はブルーノも舌をまいている。小隊の隊員全員、確かに演習では銃を持った敵を相手に似たような事はやっている。しかし実戦で、しかも今のはほぼゼロ距離からの不意打ちだ。それをやすやすと斬るのか。彼女の剣は、すでにウィルソン先輩を超えているんじゃないか?
い、い、今のは切り札のつもりだった。それすらも、この少女騎士には通じないのか。
ついに首だけになったヴァンパイア。口をパクパクさせながら、必死に声をだす。
「なんだ、オマエ。その反射速度は? 本当に魔力で空間を歪ませているのか? 鋼鉄の船が大洋をわたり、飛行機が空を飛ぶこの科学技術の世の中で、非科学的なことやってるんじゃねぇよ」
「その科学万能の時代にのこのこと現れた自称絶対不死のヴァンパイアが、何を偉そうに」
淡々と彼の肉体を切り刻むウーィル。頭が、下半身が、腕が、足が、バラバラにされる。その肉片が集まり再生するたび、再びバラバラにされる。
「や、やめろ! 私は、真祖様にヴァンパイア化された由緒正しいヴァンパイアだ。人間共が文明を発展させる前から世界の支配者なんだぞ」
「変態のくせにえらそうな口をきくなと言っている。……さっきも言ったろう? オレはヴァンパイアにはちょっと詳しい。おまえがただの下っ端なのはわかってるんだよ」
かろうじて残っている顔半分がさけぶ。懇願する。
「ま、まて。私はたとえ灰になっても再生する。無駄だ。いい加減あきらめろ。あきらめてくれ」
しかし、ウーィルはきかない。
「灰も残さないよ。なんのために魔法使いがいっしょに来ているとおもう?」
目の玉だけを必死にむけた視線の先、もうひとりの魔導騎士がいた。青年騎士は、すでに魔法陣を展開している。あれは氷結の魔法? しかも、なんという凄まじい魔力。この少女の剣は、この魔法陣を展開する時間稼ぎだったというのか。
「……眠くなってきた。さっさと終わらせようぜ、ブルーノ」
「そうですね」
アクビしながらつまらなそうに剣をふるう少女。それを優しげに見守る魔法使い。発動寸前の巨大魔法陣の光を浴びながら、ヴァンパイアは声もだせない。
この私が、どうしてこんなことに。氷に封じられては再生できない。すでに手足もない。に、にげ、られない。
「ま、まって。おねがい。……仲間が犠牲になったの」
女性警官が、剣を振るうウーィルに哀願する。
ウーィルは動きをとめた。
公都警察の面子を立てて欲しいということか?
横に居るブルーノが頷く。正面で戦ったウーィルの意思を尊重するというのだ。
ふむ。 ……わかった。警察が封印はできるのか?
「こ、この聖櫃に封印して本署に持ち帰れば、……奴らの仲間について必ず証言させるわ」
この世の物とは思えないほど血まみれの現場に、多くの警官と数名の騎士が集まっている。魔導騎士小隊の任務はとりあえず終了だが、公都警察の仕事はこれからが本番だ。連続殺人事件の後始末とヴァンパイアの扱いについては、面子をかけている警察に任せておけばいいだろう。
警官達が殺された現場、女性警官が多くの警官に囲まれながら聴取されている。地面に座り込み、その様子をボーッと眺めているウーィル。本当に眠いのだろう。アクビ半分、身体はゆっくりと船をこいでいる。
「未成年はもう寝る時間です。ウーィル、帰りましょう」
ウーィルとブルーノも警察の事情聴取をうける必要があるだろうが、こちらは助けてやった側だ。明日にでも連中の方から駐屯地まで話を聴きにくるだろう。
「いや……、もう少しここにいる」
目をこすりながら、ウーィルは答えた。
「あの変態ヴァンパイア、封印が完全かどうかを確認したい。それに警察も、偉いさんはオレ達を煙たがるだろうが、現場の連中は仲間の最後についていますぐ話をききたいんじゃないかな。現場検証やら事情聴取やらもうしばらく付き合ってやろうよ。あの女性警官ひとりじゃ荷が重そうだ」
……ウーィルらしい。
ブルーノは、まったく意識しないままウーィルの頭に手をのせていた。まるで幼い子にするように頭を撫でていた。
「な、なにをするんだよぉ」
やってしまってから、そんな自分に驚いた。しかし、ブルーノはやめる気にはならなかった。
「まぁ、いいじゃないですか。お疲れ様でした、ウーィル」
ウーィルも、ブルーノの手を振りほどこうとはしない。
……そういえば、ジェイボス君がよく同じ様にウーィルの頭をなでていましたね。今なら、こうしたくなる彼の気持ちが理解できます。
「あ、ああ、お疲れ。まだ終わってないけどな。……おまえ変な奴だな、ブルーノ」
「ははは。まさに今、それを自覚してるところです」
「?」
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