第211話 切断


「決まったようだな……後は止めをさすのみ」


 ニュートは吐き捨てるよに言うとゆっくりと歩き出す。


 オレは微かに目を開け、ニュートがこちらへ向かってくるのを確認した。


「ぐうううっっっ…………」


「ニュートのブレスがRENに炸裂したーーーーーっっっ!!! RENの体が入り口近くの壁にめり込んでいます!!! は、果たして……RENは立ち上がることが出来るのか〜〜〜〜〜ッ!!!!!」


「ニュートのブレスが見事に決まりましたね! 剣の腕前ではややRENが上回っていたように見えましたが……、ニュートはこの瞬間を狙っていたのでしょう!!! ニュートの作戦勝ちといったところですね!」


「あの全身が黒く染まってしまう猛毒が、今、RENの体を包み込んでいます! この猛毒を受けた相手は例外なく動くことがほとんど出来なくなっているのです! これは試合が決まってしまったかーーーーーッ!!!」




   ***




 解説者の絶叫をよそにイヴリスは唇を噛んでいた。


(何よ! 余裕ぶってたくせに! 負けそうになってるじゃないの!)


 せっかくの忠誠を誓った相手がすぐに殺されてしまってはたまらない。焦ったイヴリスは入場口から顔を出し、RENの様子を直接伺おうとした。


「まだ大丈夫だ……。我らの主を信じろっ!」


 嗜めるような口調で厳しく言い放ったのはズールだった。


「そう。RENはこの程度で死ぬような男じゃない……」


 振り向けばミリィも駆けつけていた。


「くっ……」


 RENを信じたいのは山々だが、今まで、あのブレスを直撃されて、まともに動けた者はいないのだ。


 RENに対して何もしてあげられない自分の無力さが恨めしい。腕を震わせ、イヴリスは叫んだ。


「RENーーーーーーーーーッッッッッ!!!!! アンタ、私と契約しておいて、負けたら許さないんだからね〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」




   ***




 イヴリスの声が耳に入った。


(好き勝手言いやがって……、だが……確かに負けるわけにはいかない)


 意識はかろうじて繋ぎ止めた。だが、手足が禄に動かない。


 視線をサッと動かし、自分の手足を確認すると、肌が真っ黒に染まっていた。


(そうか……これがニュートの呪い)


 キュアーの魔法を使用しても黒い色は全く浄化されなかった。


「うぐっ!!!」


 呼吸が苦しくなってきた。オレの思っていた以上に呪いの回る速度が早いのだ。


(これが今のニュートの力。ブレスと呪いをかけ合わせた最悪の攻撃……)


 今、こうして考えている最中にもオレの胸を侵食し、体の自由を奪い取ろうとしてくる。


(落ち着け……どうすればいい? この呪いを断ち切るには……)


 ふと、脳裏に浮かんだのはアルティメットハンターズのリーダー、リズから刀を受け取る時の言葉だった。


「いいかい? REN。この刀はね……この世のあらゆるものを斬るために制作したんだ。もちろん、そのまま振っていたんじゃそこらの刀と大差ない。だけどね、君が斬るものをしっかりイメージで掴み、斬るという意思をこの刀に込めることによって意思を疎通させれば、この刀は応えてくれる。そういうふうに作ってある。いつの日か、君の助けになるはずだ。まぁ、切れすぎるから使わないにこしたことはないけどね!」


 軽快に笑いながら刀を渡してくれたリズ。自ら魂を込めて打った刀は彼女の子供同然。その子供をオレに預けてくれたのだ。オレは彼女の期待に応える義務がある!


 その刀はまだ右手に握られていた。


 イメージしろ。オレの中に入り込んだ呪いを……。


 目を閉じ、意識を侵食される部分に集中し、そこに魔力を集め、具体的な呪いの大きさを計る。呪いで動かなくなっている部分は魔力が通らなかった。


 それゆえ、今、オレの体の中を進行してくる呪いの大きさを、今、ハッキリとイメージすることが出来た。


(ちっ、もうオレの体の半分を乗っ取ってやがる……。だが、そこまでだッッッ!!!!!)


 オレは呪いで動きの鈍くなった右手を動かし、刀の切っ先を自分の胸に向けた。


 遠くから見ていたニュートがオレの動きに気づき、眉を寄せる。


「こ、ここでRENが! 自分の刀を、胸に当てました!!! ま、まさか自害でもするつもりでしょうか???」


「わかりません! 一体何をするつもりなのか? 想像も及びません!」


 解説者たちも何が起こるのかさっぱりわからないようで困惑しており、さらに会場からも大きなどよめきが起こっていた。


 オレの胸に剣を突き立て、一息に胸の中に差し込んだ。


 刀がオレの心臓近くまで突き刺さり、一気に苦しさが増す。


「ぐうっ…………」


 うめき声と共に、口から大量の血が吹き出した。


(もう少し……もう少しだ!)


 刀の切っ先が心臓のギリギリそばまで切り裂いた。


 そして、ニュートの呪いがそこで進行を止めた。


(このまま、呪いを切り裂くっ!)


 一旦刀を抜き去ると、差し込んだ箇所から噴水のように血が溢れ出す。だが、オレは刀で体に入り込んだ呪いを切り裂くため、肩口から大きく叩き切った。


「ぐあああああっっっ!!!」


 襲い来る強烈な痛み。


 すぐさまヒールを重ねがけし、傷口は塞がっていく。


 はぁっ、はぁっと大きな息がオレの肩を上下させる。


(生き残った……生き残ったぞ……)


 ニュートの目が驚きに見開いた。


「オレの呪いを止めた? バカなッ!!!!!」


 ニュートは体を震わせていたが、やがて刀を握り直し、オレに斬りかかってきた。


「まさかオレの呪いを切り裂くとはな! だが、その消耗した体では最早戦えまい!!! 死ねぇっ!!!!!」


「ここでニュートが襲いかかった~~~~~! 万事休すか~~~!」


 会場がどよめいた。解説者は絶叫した。誰もがニュートの勝利を確信し、目を見開いた。

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