第194話 ニュートの秘策


 俺の体内には魔力が集められ胸の部分が普段の倍ほどにまで膨れ上がっていた。


 「ニュートの体が膨れ上がったーーーッ! 一体何をしようというのかーーーッッッ!!!」


 これは、先の戦いで、バハルから奪い取った技。それに俺の特徴を加え、さらなる進化を遂げた技でもある。この技なら確実に奴を追い詰めることが出来るはずだ。


「喰らいやがれっ! 蛇人族の怒りを!」


 胸いっぱいに貯められた魔力を呪いへと変換させる。どす黒いオーラが俺の周りを覆い尽くし、口から解き放つのはブレス。


 それも、炎のブレスではない。猛毒と呪いの込められた漆黒のブレスなのだ。


「ニュ、ニュートがブレスを吐いたーーーーーッッッ!!! それも黒い、瘴気を帯びたブレスですッッッ!!!」


 吐き出された漆黒のブレスは勢い良くギガースにぶつかっていった。


「あああッッッ!!! ギガースに、どす黒いブレスが直撃した〜〜〜ッッッ!! ギガースの体が暗黒に染め上げられていくーーーッッッ!!! 一体どうなってしまうんだーーーーーッ!」


 思った通りだ。あのギガースって奴は、基本的に相手の攻撃を躱さないのだ。これまでも、躱す必要が無かったんだろう。何せあの大柄な体躯と馬鹿げた回復力を併せ持っているのだ。グレンに首を斬られても死なないし、その攻撃を躱すことも絶対にしない。だからこそ、俺のブレスは必ず当たる。俺はこの点を確信していた。


『ほぅ、これは毒か……。なかなかいい技ではないか!』


 グレンは感心したようにつぶやく。


『そうだろう? これであの馬鹿げた回復力を上回る毒のダメージを与えられそうだ。クックック。どうする? 止めは相棒に譲ってもいいぜ? この状態であれば、奴を倒すことも不可能ではないはずだ』


『ニュート、オレはますますお前のことが気に入ったぞ!ならば、みているがいい! 我が剣術の真髄を』


 再び体の主導権がグレンに戻っていく。


 巨人は俺のブレスをマトモに喰らったため、今ももがき苦しんでいた。


「グオオオオッッッ!!!」


 巨人の叫び声が舞台に響き渡る。俺の吐き出したブレスによって黒いヘドロのようなもの体中にへばり付き、毒を浸透させていくのだ。奴はマトモに喰らったため、目にもヘドロが食いついていた。今は目を見開くことすら出来まい。


 この隙にグレンが走り出した。


 もがく巨人の背後を一直線に駆け上がっていく。その剣が斬る先は首、胸、腹、股間などの正中を尽く斬りつけ、グレンは着地した。


 だが、巨人は全力でもがき、魔力を全て回復へ注いでいった。


 グレンの神業のような剣さばきが巨人に次々と襲いかかる。それも全てまともに入っていくのだ。だが、それをものともしないほどの回復力を巨人は見せたのだ。


『くっ、悪あがきを!』


「ギガースが、苦しそうにもがいています! あぁーっと!!! ギガースが自らの体を掻くように毟り始めた!」


「よく見てくださいッ! ギガースは自分の体を掻きむしり、回復させていますッ! それによってニュートの吐いた毒と侵された肌ごと毟り取って回復していますッ! 執念すら感じる凄まじい回復力!」


 ヤロウ、毒のついた肌ごと毟るとはな……。簡単には勝たせてくれんか。


 巨人の肌は元の色を取り戻していく。グレンの攻撃も全ての傷が元通りになってしまった。


「グッフォフォ、今度はこちらの番だな。よくもこれまで好き勝手してくれたものよ。ワシの強さ、思い知るがいいッ!」


 巨人は怒りに目を吊り上げ、赤く光らせた。そして、口の端を吊り上げ、ニヤケた嗤いを浮かべながら、俺を見下してくる。


 何処までもおめでたい奴だ。俺の攻撃はまだ続いているというのに……。


 巨人がゆっくりと歩き出す。


『ニュートよ、どうする?』


『どうした? 奴の回復力に自信が無くなったか? グレンよ』


『奴はオレの剣を持ってしても倒しきれぬ。どうしたものやら……』


『なぁに、関係ないさ。先程の攻撃、あれを繰り返してくれればいい』


『どうにかなるのか?』


『あぁ、俺が仕込んだのは毒だけじゃない。そろそろ面白くなってくるはずだ』


『そうか……ならば突き進むのみッ!』


 グレンはまた駆け出していく。


「またギガースが動き始めましたッ! ニュートも駆けていきます! あっ、ギガースのストンピングッ! 巨大な足がふってくるッッッ! しかし、ニュートは難なく躱していきますッ!」


『むっ?! こ、これは……』


グレンは驚いたように声を上げた。


『どうだ? 面白くなっているだろう? おれの呪いが効いてきたのさ』


 ギガースの動きは明らかに以前より遅くなっていた。ニュートの呪いは生命活動を弱くする呪い。それはギガースといえど、例外ではなかった。


「ニュートが猛攻をしかけていくーーーッッッ!!! ギガースは動けませんッ! まともに喰らっていくーーーーーッッッ!!! まるでカカシのように立ち尽くすッ!!! どうしたんだギガースッ!!!」


「こ、これはいくらギガースでも危ないですよ! ギガースは先程とは違い、傷を抑えることも出来ていませんね!」


「一体ギガースに何が起こったと言うんだ〜〜〜!!! 棒立ち! ひたすら棒立ちになっています!」


「もしかしたら、さっきのニュートの毒が回っているのかも知れませんね! ちょっとここまで動けないというのは普通ではあり得ませんからね!」


「な、なるほど。毒ですか! となるとここからはニュートの独壇場になる可能性がありますッ! ギガースにチャンスはあるのかッ?」


 解説者がなにやら勘違いをしているようだが、それならそれで問題はない。むしろ誤情報を流してくれれば、次の試合も楽になるというもの。


 ニュートは口角を吊り上げ、巨人を切り刻んでいくのだった。


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