第157話 一回戦第五試合 ヴァンパイア代表 キュイジーヌ VS ドワーフ代表 バッジ
「さぁ、本日の会場は晴天に恵まれ、絶好のトーナメント日和となりました! これから果たしてどのような戦いが始まるのか、今日も非常に楽しみですね! 実況は私、リサと解説はローファンさんに来ていただいております」
「よろしくお願いします。はい、昨日に引き続き解説をさせていただくローファンです。本日の第五試合から第八試合も盛り上がること間違いなしです! 目玉のカードだらけと言っていいでしょう!」
「ところで、ローファンさん、本日はどの戦士に注目してますか?」
「注目の戦士ですか……、なんといっても我らが先輩ルシフェル先輩でしょう! その強さは天使界ではもはや伝説となっております。最近姿を見ないなぁとは思っていたんですが、まさかこのトーナメントに参加しているとは思いませんでした! その他にもドラゴン族代表バハルや巨人族代表ギガースも注目の選手ですね。数々の伝説を残してきた二人がどんな戦いを見せてくれるのか期待しましょう!」
「さぁ、会場も盛り上がって参りました! いよいよ一回戦第五試合の準備ができたようです」
「東の方角! ヴァンパイア族代表キュイジーヌ!」
「さぁ、やってきたのは太古の吸血鬼キュイジーヌ! 今まで会うことすら許されなかった吸血鬼の王、果たしてその実力やいかに?」
「いやー、彼女は美人ですね。長い金色の髪、整った顔立ち、透き通るような白い肌、その全てが男を魅了してやみませんね」
キュイジーヌの入場とともに、会場の男たちからは歓声があがった。
「確かにキュイジーヌは同じ女性である私から見ても魅力的に見えます! ですがローファンさんはたしか、ミリィ推しだと思ったのですが?」
「いやいや、私はそれだけ守備範囲の広い男というだけですよ。それはともかく、キュイジーヌの入場が終わったようですよ」
「強引に話を変えられましたか……、次の戦士の入場ですね」
「西の方角! ドワーフ族代表バッジ!」
「さぁ、西の方角からは岩山の国、ガンダーウルフからやって来ましたドワーフの代表! バッジですね! 相変わらず大きな樽のようなものを背負っております! そしてその中には、大量の武器が入っているのが見えます! そのほとんどが聖剣に匹敵するほどの武器であることは間違いありません!」
「現在、彼以上の聖剣や魔剣のビルダーはいないと言っても過言ではないでしょう! 世の中に出回っている聖剣や魔剣の70%は彼の製作であります! そして、その武器を扱う腕前の方も彼は超一流だと聞いています!」
「これは期待してしまいますね〜、バッジの持つ聖剣がヴァンパイアを討つことができるのか? それとも返り討ちにあってしまうのか? さぁ、バッジの入場が終わりました! 二人とも視線が外れない! 凄まじい形相で睨みあっております」
「それでは第5試合、レディ……、ゴーーーーーーーーッ!!!」
***
私は苛立っていた。昔から欲しいものは全て手に入れてきた。それこそ王の座でさえも力尽くで奪いとったのだ。そこからは、望めば望むだけのものが手に入った。美食に囲まれた優雅な暮らし、私を彩る煌びやかな宝石たち。誰も私に意見するすることができず、私のなすがままだったのだ。この数万年もの間、私は我慢などしたこともなかった。
それがどうしたことだろう? 先に声をかけたはずのRENには見向きもされず、あろうことか悪魔族のイヴリスに取られてしまった。RENがイヴリスを助けに入った時、私は屈辱と怒りにまみれた。
「彼は私が最初に見つけたのに……」
RENもRENで全く私を寄せ付けず、見向きもしてくれなかった。これほどの屈辱、長年を生きてきて初めてのことだった。
それだけに、まだイヴリスに対して負けを認めるわけにはいかなかった。
「必ずRENを取り返してやるんだから……」
私は舞台で前に立ちはだかっているバッジを睨みつけた。
「今日の私は機嫌が悪いの。手加減はしてあげられないから早めに降参してほしいわ」
目の前の男はずんぐりとした体型で、魔獣の皮を継ぎ合わせた鎧を着ていた。髭は真っ白で長く、顔はシワが深く何十本も生えている。そのみすぼらしい姿からは、強者の威風は全く感じられない。
私はこんなところで時間をつぶしている暇はない。一刻も早くRENの元へ行きたいんだから、すぐに楽にしてあげるつもりだ。
バッジは何を考えているのか全く読めず、ただただ私を睨みつけている。
私は炎の上級魔法、フレアーを唱えた。もちろんただ唱えるだけではない。すぐにバッジを楽にして、火葬場に運ぶ手間すら省いてあげるつもりなんだから。右手の五本の指、そのすべての指先の上に大きな炎をともした。
「あーっと、キュイジーヌの右手に五つの炎が出現しました! これは多重詠唱でしょうか?」
「そうですね。しかし、あの小さな炎の一つ一つに濃密な魔力を感じます! 恐らくは上級魔法なのではないでしょうか? それを五つも多重詠唱したということは、凄まじい威力が期待されますよ!」
「上級魔法が五つですか! これはたまりません! バッジ、いきなりのピンチでしょうかーーーッ!?」
ふんっ、私がただ多重詠唱するわけがないじゃない。
解説者のレベルの低さにうんざりしつつも、私は右手を握りこんだ。
五つのフレアーが右手の前で混ざり合っていく。そして、一つのより濃密な魔力を秘めた、青紫色の炎に変化した。
「さぁ、あの世へお逝きなさい。クィンテットフレアーーーッ!」
右手から発射された炎はより大きさを増しつつ、凄まじい轟音と共にバッジへ向かって飛んでいくのだった。
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