第153話 変身



 ドライアドとは森の精霊。木々を管理し、森を維持する役目を担っている。そして精霊は形を持たず、様々なモノやヒトに変身し、侵入者を欺き、追い返す。


 舞台に上がったドライアドの戦士、グリーナは森の精霊の一人であった。森に暮らすモノたちを率いるモノ。それが意味するところとは……、


「あぁーーーっと、グリーナの身体が光に包まれていきます! 試合開始早々に、これは何事でしょうかーーー!」


「これは精霊魔法です! 恐らくは変身でしょう! 一体どんな変身を見せてくれるのか!」


 グリーナの身体がより大きく変化していく。ヒトの大きさを遙かに超え、ゴーレムの大きさを超えてもまだ成長は止まらない。やがて出現したその姿は、


「こ、これはーーーっ! ドラゴンです! 舞台にドラゴンがあらわれましたーーーッッッ!!! そ、それも普通のドラゴンではありませんね! ローファンさん、このドラゴンについて何か知りませんでしょうか?」


「このドラゴンですが、恐らくですがフォレストドラゴンでしょう。しかし、人里に近い所にいるような小さな個体ではありません! 森の奥深くに棲む上位種ではないかと思います!」


「えっ!? あれがフォレストドラゴンですか? 大きさが私の知ってるドラゴンの倍はありますよ? 本当ですか?」


「間違いありません! あの鱗はフォレストドラゴンが長い年月を生き抜き、より固く、より大きく進化したものです! 一万年以上もの時を生きたドラゴンは鱗に独特の模様が出てくるのですよ!」


 舞台に現れたドラゴンの鱗は緑一色ではなかった。緑、黒、紫といった色の線が年輪のように不思議な模様を描いていた。


「ということはその攻撃も期待出来るのでしょうか?! 対して、機械人形のミリィですが、ここまで目立った動きはありませんね」


「ここも私の森……、赦さない……。全て喰らいつくしてやる……」


 ドラゴンに変身したグリーナの目が少しずつ赤く光り出していた。


「えぇ、ですがミリィの視線はドラゴンから外れてませんよ。じっとグリーナを見つめていますね。あれ? グリーナですが、目が……赤く変化しておりますね」


「あぁーっと、これはドラゴンに変身したからでしょうか? ローファンさんはどう思われますか?」


「いや……、どことなく、ブッピーに似たような感じを受けますね。一体どうしたのでしょうか? 私にもよくわかりませんが……」


「グリーナは試合に相当気合いを入れてるのでしょうか? さぁ、一方のミリィにも動きが出ました! ドラゴンに変身したグリーナへ歩を進めていきます!」


 ミリィはゆっくりと歩き出した。グリーナの動きをじっくりと観察しながら、少しずつ歩いて行く。


「そのドラゴンの力の分析は終了したわ。残念だけど、私を倒せないみたい……。もう勝負は決まっているけれど、次の変身でもしたらどうかしら?」


「おーっと、ミリィが突然の勝利宣言です! まだ一合も交える前だと言うのに! 分析が終了とはどうしたことでしょうかーーーっ!」


「ミリィの分析というものが闘いにどれほどの影響を持つのか? こればかりは見てみないと分かりませんね」


 ミリィは自分の背中に手を当てたかと思うと、いつのまにか手にはショートソードが握られていた。


「ミリィが剣を握りました! あの剣で攻撃するようですね。さぁ、二人の攻撃の制空権範囲が重なり合う距離まで近づいてきました!」


 ミリィの身体が一瞬にして消えた。そして現れた時にはドラゴンの足に剣がヒットしているのだった。


 キィーーーーーンッッッ!!!


 硬いモノと硬いモノがぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響く。


「ミリィの攻撃がヒットしました! し、しかし……、どうやら切れてはいないようです!」


「クハハッ! 妾の鱗は特別製でねぇ。並の硬さではないのさ。残念だったねぇ!」


 グリーナは足を大きく上げ、ミリィを踏み潰すようにスタンピングする。


 ドズゥゥゥンッッッ!!!


観客席までもが揺れるほどの超重量級の一撃。だが、ミリィはすでに距離を取って離れていた。


「なんということでしょう! グリーナの変身能力でドラゴンの重量までもが再現されているようです! 私の席もグラグラッと縦に揺れました! 恐るべき威力の踏みつけです!」


「いやー、どういう仕組みの魔法なのか、さっぱりワケがわからないですね! これも精霊魔法ならではだと思います」


 ミリィは眉をハの字にし、顔をしかめた。


「思っていたよりもやるのね。だけどこれはどうかしら?」


 ミリィの剣から激しい音が鳴り始める。


 ヴィイイイイイイイイイイイ……。


 「ミリィの剣が激しい音を立てている! 一体、これはなんでしょうか? ローファンさん?」


「これは、剣を高速で振動させているのではないでしょうか? 見て下さい! あの刀身のまわりの空気! 震えているようにみえるでしょう?」


「え? た、確かに! ミリィの剣の形が少しブレているような感じに見えます!」


「これは凄いですよ! 人間ではあそこまで高速振動させることは不可能ですからね! いくら魔法を使ってもここまで高速に動かすことは不可能だと思います。果たして切れ味はどうなのか? 気になるところですね!」


 ミリィが再度、踏み込んでいく。そして……、


 ズバアアアァァァン!!!


 鳴り響く爆発音。ミリィは高速でドラゴンの後方にまで移動していた。


 二人の戦士は互いに背中を向けている。だが、ドラゴンが姿勢を崩し、前足の膝を地につけるのだった。


「あああーーーっと、ドラゴンの膝が地についております! そしてっ! 足から出血してますね!」


「ミリィの剣がドラゴンの鱗を切り裂いたんですね! いやぁ、あの鱗を切るなんて……、これはただごとではない威力ですよ!」


 グリーナはすかさず回復魔法を使用し、傷を癒やす。そしてコメカミをヒクつかせながら振り返ってミリィを睨み付けるのであった。



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