第151話 最後の一撃
「アンタなんか、チリ一つ残してあげないんだからねっ!」
イヴリスの上空に舞台よりも大きな魔方陣が急に現れた。
そして、辺りは天気の色を一瞬にして失い、暗闇に包まれる。その暗闇の中、上空に出現した魔方陣が妖しく光を放ったかと思うと、中から現れたのは炎を纏った巨大な塊。その塊からはプロミネンスと呼ばれる真紅の炎の雲がかかっており、巨大な炎柱が縦横にほとばしる。
「こっ……! これはーーーーーっ!!! 普通のメテオではないーーーっっっ!!!」
「た、たたた、太陽ですっ!!! なんと! イヴリスは太陽を生成し、落とすつもりですね!!! こんなこと、出来るはずがないんですが! さすがイヴリスという所でしょう! 大悪魔恐るべし!!!」
絶叫する解説者。だが、ジークは唯一人、空を眺めながら自らの詠唱を完成させていく。
「ふっ、何を降らせようと結果は変わらん。絶対吸収の力、思い知るがよいわ」
ジークがヴォルグスネーガを上空へ構えた。すると、その剣の先に黒い点が出現する。そして、重ねて出現させていた魔方陣からも次々と黒い点が現れていき、それらが一つに重なる。
そうして出現したモノは巨大なブラックホール。周りの空気が歪み、竜巻のように渦を巻きながら黒い点に向かって吸引を開始した。そして今、イヴリスの太陽から立ちのぼった巨大な炎の柱を瞬時に飲み込んでいく。色の濃かったプロミネンスも吸い込まれていき、その色を薄くしていく。
「さぁ! ここで両者の最高の魔法がぶつかり合うーーーっ!!! 勝つのはどちらだーーー!!!」
***
「ちょ、ちょっと! そんな魔法なんてアリ? 太陽を出現させるなんて……、あの娘、どれだけ魔力持ってるのよ!!!」
キュイジーヌは目を見開いて驚く。俺は魔法についてそこまで詳しくはないが、途轍も無いことをしているのだけはわかる。
だがそんなキュイジーヌのことを構うことなく、俺は席を発った。
「すまんが、後は一人で観戦していてくれ」
一言だけ残し、部屋の扉を開ける。
「あ、ちょ、ねぇ! どこ行くのよ? 二人の対決見なくていいの!?」
驚くキュイジーヌの声を背中に受けながらも俺は振り返ることなく外へ出るのだった。
***
はぁっ、はぁっ、はぁっ。
呼吸はすでに上がっており、素早く動くことはもう出来ないだろう。それに……、これほどの魔法を発動させるため、翼も回復させることが出来ない。それでも……、目の前のジークを倒したい一心で自らの最強の魔法を発動した。隕石を落とすメテオの上位魔法、フォーリングサン。その威力は極大魔法である、メテオの遙か上をいく。だが、問題なのは消費MPの多さだ。いくらMPの自然回復量の多い悪魔族であっても、一発放つだけでほぼ枯渇してしまう。よって、この魔法を防がれた場合、自動的に私の負けは確定してしまうのだ。
なるべくなら使いたくなかった。この魔法は奥の手としてとっておきたかったのだ。それが、まさか……1回戦で使うハメになるとは……。自らのくじ運の悪さを今になって恨んでしまう。
例えばだが……ブッピーが最後に放った技、黒い剣を胃の中で溶かし込み、それを吐き出す攻撃は厳密に言うと魔法攻撃ではない。よってあの魔力を吸うブラックホールに飲み込まれる事はなかっただろう。ブッピーならばあの難きジークを打ち倒すことが出来たかもしれない。もし、私がズールと対戦したならば、この魔法で跡形もなく消し去ることも出来たはず。
だが、運命は皮肉にも私にとって最悪の相手を選んだ。
アイツの出現させたブラックホールは最初に出していたものよりもさらに大きく、勢いもあり、私の魔法、フォーリングサンを勢いよく飲み込んでいく。
「届けっ! 届けっ、届けーーーーーっ!!!」
最後の魔力を振り絞り、太陽の落下を早めていく。
だが……、
「ジークのブラックホールがイヴリスの落日を吸い込んでくーーーッッ!!!」
私の想いは……、届かなかった。ジークのブラックホールはより勢いを増して渦を巻くように、私の太陽を飲み込んでいく。
そして……、
「た、太陽が……、全て飲み込まれてしまったーーーッ!!! わ、我々はとんでもないものを目撃しております!!! これが歴史が変わる瞬間とでもいうのかーーーッッッ!!!」
解説者の絶叫が私の胸を抉る。もう、残りMPはなく、近接戦闘でもジークには適わない。
私に出来ることはもう……。
「どうやら……、ワシの勝ちのようじゃ。どれ……、貴様の首を刎ねて終わりとするか」
ジークは剣を構えた。あの黄金に光る神剣がこれから私を殺すんだ。そう思うと抵抗する気力も起きなかった。震える足は私の体重を支えきれず、その場にペタンと女の子座りで腰が地面に落ちる。
ジークの姿が消えた。リッチのくせに剣のほうが得意なんて、いくらなんでも反則すぎよ。もう私の目はもうジークを追うことも出来ない。なにこかも諦めて目を閉じた。このまま私は消えてしまうんだ。
だが、耳をつんざくような金属同士がぶつかる音が鳴り、いつまで経っても私は無事なままだったのだ。
ギィィィィィィンッッッ!!!
え? 一体、何が起こったというの?
恐る恐る目を開ける。そこに立っていたのは……。
「REN……、どうして?」
RENは手に剣を持ち、ジークの放った一撃を受け止め、神剣と聖剣が火花を散らしていた。
「貴様……、ワシの邪魔をするのか?」
「勝負はもうついた。無駄な殺戮はやめてもらえないだろうか? その剣を収めて欲しい」
私はその光景を疑った。RENとは契約してほしくて近づいてはいた。だけど、私を庇ってくれる気配なんてなかったし、私に気があるようにも見えなかった。当然、さっき出会ったばかりなので仲間というわけでもない。どうしてRENが私を助けてくれたのか、どれだけ考えても全く心当たりが浮かばないのだ。
RENはジークの剣を弾き返した。それと同時にジークは大きく弧を描くように後方へ飛び退いた。
「あぁぁっっ!!! なんと! 召喚獣ではない第三者の介入により、この試合、イヴリスの反則負けとなりましたーーーっっっ!!!」
会場の観客達は一言も発することなかった。舞台で何が起こったのか、わからずに、驚きを持って静まりかえるのだった。
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