第143話 第二試合 決着
「土煙が晴れていくーーーっ! 果たして、二人は立っているのでしょうかーーーっっっ!!!」
実況の絶叫が試合会場に響く。会場の観客席は静まりかえっており、皆が試合の行方を見守っていた。
舞台の霧が晴れる。立っていたのはズールだった。
「あああーーーーっっっ!!! 立っていたのはズールですっ! ズールが立っていましたーーーっっっ!!!」
会場にどよめきが鳴り響いた。
「あっとーーー! ブッピーの生命反応が完全になくなっています! 完全に戦闘不能を確認!!! 勝者はズールとなりましたーーーっ!!!」
解説者からの勝者宣言により、観客からは割れんばかりの歓声が上がり、舞台に降り注ぐ。
ズールは声援を送る観客の方を向く事も出来ず、震える腕はやがて剣を手放し、その場に倒れ込むのであった。
***
「どうやら賭けは俺の勝ちだったようだな」
闘いの結末を驚きの顔で見ていたイヴリスはハッと我に返った。
「え、えぇ……そのようね」
「何でも言うことを聞いてくれる、ということで間違いないな?」
「そうね? 私を手籠めにしれくれてもいいのよ?」
この女は賭けに敗けたというのに、片目でウィンクをしながら強気の姿勢は崩していない。結局何が目的だったんだ? この女は……。
「いや、そんな事は考えちゃいないさ。少し考える時間をくれないか? 一人にしてもらえると嬉しいんだが」
隣であれこれ聞かれるのに解説していると、試合を見るのが疎かになってしまう。俺としては集められる情報は少しでも集めておきたいのだ。試合に集中し、敵となる者たちの情報は勝ち抜くための力となる。
「あら? 残念ね。じゃ、呼びたくなったらいつでも呼んでね? 待ってるわ」
イヴリスはそう言うと、おもむろに顔を近づけてきた。気付いたときには俺の唇に触れる柔らかな感触と甘い匂い、そして彼女の体温が唇から伝わってくる。
「……んっ……ふふふっ、アナタの唇もらっちゃった」
イヴリスはすぐに唇を離しながら俺に投げキッスをしてくる。
「ちょっとだけパスを造っておいたわ。これで念じてくれるだけで私に通じるから。いつでも呼んでね?」
俺は部屋を去って行くイヴリスを呆然としながら見送るのであった。
***
ズールはかろうじて繋いでいる意識の中、油断から生じた大けがに悔いる思いを募らせていた。
最後の局面、自分の左腕3本を失ったのは自分への過信にほかならなかった。ブッピーが剣を飲み込んだ際に、その次の攻撃がいかなるものになるのか? よくよく考えれば予想できたのだ。
ブッピーは自身の胃袋の中で、炎系の魔法を使ったのだろう。あの巨大な剣を溶かし、マグマのように煮え立った液体金属による飛び道具を放ったのだ。それは触れる者を情け容赦なく切り溶かす恐るべき一撃。その攻撃に気付いてさえいれば、躱すことに専念し、その後で極大魔法で討ち取ればこのような無様を晒すことはなかったはず……。
2回戦に進めたのはいいが、この腕では……。
ズールの頭の中を反省と後悔が何度も繰り返される。
「まだ闘いたかった……、特にあのRENとやら……どのような技を持っているのか興味の尽きない敵。出来ることならば闘いたい。だが、このままでは立ち上がることすら困難を極めてしまう」
絶望に頭が重くなるズールの頭上にまたあの光が輝いた。
間違いない。あの戦の神を名乗っていた奴だろう。
「よくぞあの激闘を闘い抜きました。ズールよ」
神は開口一番に我を褒める。しかし、嬉しい気分になどなれるわけがない。
「戦の神か……。すまんが我はこれまでのようだ。片側3本もの腕を失った今、闘いを続けることが出来ぬ。願わくばあのRENとやらと手合わせをしてみたかったが……、それも叶わぬだろう。次の試合は棄権するより他はなさそうだ……」
倒れたままの身体を起こすことも出来ず、下から神を見上げる。だが、神はニッコリと微笑んだままだ。この窮地だというのに、一体何を考えているのかサッパリ理解できない。
「ソナタは大会に出場するという大役を果たしてくれました。ですが、もう一つの申し出はまだ受けられてはいません。この機会にいかがでしょうか?」
我は神との会話を思い出した。コイツは俺に大会への出場を勧めてきた他、神の力の譲渡を誘ってきていたのだ。だが、自分の実力のみで闘ってみたかった事もあり、断っていたのだ。
「今更オマエの力をもらったところでどうしようもあるまい? それよりも早く腕の良い治療師はいないのか? いまならまだ傷口は塞がっていない。腕を元に戻せる者はここにいないのか?」
傷口が完全に塞がってしまえばそこから生きた腕を生やすことが出来なくなってしまう。我の心配はそこにあったのだが……。
「なぁに、私の力を受け継いでくれれば、腕の回復など造作もないこと。次の試合にも充分に間に合います。どうか、ご検討いただけないものでしょうか?」
むっ? 力を受け継げば腕が治るだと? それほどの力だというのか?
「それは、回復魔法が使えるようになる、ということか? それに次の試合……、本当に間に合うのか?」
神は眉毛をピクリと動かし、猶もニッコリとしたまま答える。
「回復魔法ではありません。まぁ、軽い再生能力というスキルです。今から休養すれば次の試合は万全の姿で試合を迎えることが可能です。いかがです? アナタが今、本当に欲しいスキルではありませんか?」
そうか……、我には無い新たなスキル。それがあればRENと闘える!
「わかった。では我にオマエのスキルをくれ。頼む……」
神はより微笑みを深くし、口は逆三日月の形がより大きくなる。そして、ズールの肩に手を触れ、白い輝きを増してズールへ力の委譲を行うのであった。
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