第118話 アレクサンドロスの街



 二人の案内の元、俺は無事に街に到着することができた。この街は部外者が入るにはお金がかかるそうで、本来であれば、この国のお金を持たない俺は入ることが出来ない所だった。だが、二人の紹介もあり、すんなり門を通して貰うことが出来て一安心した。


 そして、その女性の家に案内されたのだが……。


「デカいなぁ……」


 大きな建物が庭の奥にそびえ立つ。丁寧に手入れされている庭は見るものに清潔感を与え、白く塗られたレンガで重厚な造りの邸宅は歴史を感じさせる。そして出迎えるメイド達はみな同じ角度で礼をしながら出迎えた。


「き、貴族の方だったのですか」


 今頃になって気付いた。話し方や所作がしっかりしていたので気にはなっていたが……、この家を見てさすがに驚いた。これはさぞや名のある大貴族に違いない。


 場違いな感じを受けるし、なんだか、メイド達や執事さんの視線が痛く感じる。回収していた亡くなられてしまった方々を置いたらさっさと退散したい。


 そんな気分だったが、


「さ、REN殿。こちらへどうぞ」


「い、いや、旅で服も汚れていますので、私はこのへんで……」


「REN様っ! 是非、私の家でくつろいで下さい! REN様は私の命の恩人なのですから!」


「そうですとも。受けた恩に御礼をせねば、私どもの面目がたちませぬ。どうか、お休みになって下さい!」


 二人ともイキイキとした目つきで俺の両腕を掴んで離さないのだ。


 くっ、もっと早く別れるべきだった……、手遅れか。


 二人に気圧されたまま、俺は旅の泥を厩舎の隣にある井戸場で落とし、この大豪邸にお邪魔することになってしまうのだった。




「娘を助けてくれたそうだね。まずはありがとう」


 目の前にはゴリマッチョでダンディなおじさんが頭を提げている。その頭にはリンと同じ獣耳がついており、親子であることがわかる。


「いえいえ、通りかかっただけですから。それに助けられなかった方もいましたし」


「うむ。彼らの遺体を持ち帰ってきてくれたのも重ねて礼を言うよ。ありがとう」


 見た目がゴツくて強面で近寄りたくない雰囲気の人だが、しっかりした人なんだなぁ。


「それにしてもどうしてあんな所にいたのです?」


「ふむ。隣町にパーティーの誘いがあったのだ。充分な護衛をつけたつもりだったが、まさかグレイトウルフの群れが現れるとはな。奴らはこんな里の近くまで降りてくることはないはずだったのだが……、取りあえず、調査の依頼を冒険者ギルドへは出しておいた。調査結果は数日かかるだろう」


「なるほど……。仕事が早いですね」


「無論だ。私の名前はドルツ・フォン・アレクサンドロス。これでもこの街を預かっている領主をしていてね。治安の問題も私が解決せねばならん」


 街の名前と名字が同じということはこの街の代表者ということか。


「領主様でしたか」


 驚いた。やたら大きな邸宅だとは思ったが……。って、あれ? 俺の話し方……大丈夫かな?


「すみません、私は話し方などのマナーに疎くて」


「いや、気にしないでくれ。娘の命を救って貰ったんだ。今日はおつかれだろう。どうか、旅の汚れを落としてゆっくりしていってくれ。この街にいる間はいつまでここに滞在してもらっても構わんよ」


「それは、ありがとうございます。では失礼しますね」


 俺は執事の男に連れられ部屋に案内されてしまった。


 あぁ、こんな肩が凝りそうな所は早々に抜け出したかったが……仕方ないか。





 結局、領主の誘いに乗る形で一泊した俺は窓から朝日を眺めていた。


「さて、ベッドで寝た割りにはなんだか疲れがさらに溜まった気もするが、今日は街でも探索してみたいな……、ん?」


 ふと二階の窓から下を見ると、昨日出会った少女、リンと初老の男、ザッツが二人でなにやら庭に立っていた。


 ふぅむ、早朝から何をしているんだろう?


 俺はやることもないので、下に降りて聞いてみることにした。


「お恥ずかしい所をお見せしてすみません。実は……私も魔法が使いたい、と思いまして。ザッツにお願いして教えて貰おうと思ったんです」


「ん? ってことは今は魔法が使えない……ということ?」


 リンは頷いた。


「お嬢様は生来、魔力が低いようで……、何か簡単な魔法でもあれば、と思ったのですが……」


 ザッツは助けを求めるような目で俺の方を見てくる。


 まいったな。俺自身、この世界に来て、そんなに長いわけじゃない。せいぜい、以前の記憶もあるくらいってだけだ。何かいいアドバイスが出来ればいいが、全く思いつかないな。


「うーん、ちなみに、MPはどれくらいあるのかな?」


 MPがないとそもそも魔法が使えないからね。ここは確認しておかないと。


「えぇと、私のステータスではMPは3と出ています……」


「ふむ」


 3か。低いけれど、彼女はまだ子供なのだ。当然、レベルだって低いままなのだろう。と、言うことは、魔法の座学でお勉強するよりもレベル上げをしていった方がいいかもしれないな。


 俺はレベル上げの提案をしてみることにする。


「まだ、レベルも低いのでしょう? レベルを上げてからまた練習してみては?」


「「えっ?」」


 二人が驚いてこちらを見る。ん? 何か変なことでも言った?


「REN様。何も出来ない初心者がいきなり魔物を退治するのは難しいかと存じます。まずは練習して魔法の一つも身につけてから、冒険に赴くのが、一般的でございます」


「いきなり、レベル上げと言われましても……」


 む? 俺の常識では取りあえずレベルは上げておくってものだったのだが、やはりこの世界にはこの世界のやり方があるんだな。しかし……、


「もし、外が怖いようでしたら、俺が盾になってあげますよ。リンさんは後ろからナイフでも投げてくだされば大丈夫でしょう」


「え? そ、そんなことで、レベルって上がるんですか?」


「ふぅむ、そのようなやり方、初めて聞きますな。しかし、REN殿。いかにアナタがお強いとはいえ、お嬢様をいきなり外に出すわけにはいきません。ここは、まず私が行って、一緒にその方法をやってみせていただけませんかの?」


「あっ、ザッツ! それはずるいわ! 私だって外に行きたいのに!」


「俺は一人でも二人でも構いませんよ。報酬は、この街を案内してくれるってことではいかがでしょう?」


「ふむ、それくらい、いくらでも構いませんが……。本当に安全なのでしょうね?」


 ザッツは髭をつまみながら真剣な目で問いかけてくる。


「ま、なんとかなるでしょう。では散歩がてらすぐ近くの森の近くまで行ってみましょうか?」


 結局、3人でまた森の入り口まで行ってみることとなるのであった。



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