第9章 勇者RENの冒険
第116話 勇者RENの旅立ち
俺は新たに誕生した聖教国、その城に案内されていた。
玉座の間の扉が兵により開かれていく。
前にここで起こった茶番から早1ヶ月が過ぎていた。
この部屋は、元シュヴァルツヴァイン公爵の近衛兵で固められている。今や、現聖王の近衛兵としてキリッと整列した状態で、威厳すら感じる。
両脇の兵たちが剣を上に掲げ、俺の前には剣の道が出来上がり、その中を歩いて行った。
「よく参られた! ソウ殿よ!」
以前は暗さも含んだ声だったが、今は晴れ渡ったような明るい声をかけられた。
俺は、膝を折り、頭を垂れる。
「元気そうでなによりです。陛下」
「ソウ殿。どうかそのような態度はとらないでくれ。君こそ新聖教国の立役者なのだから」
本来であれば、王がこのようなことを言ってはならないのだろうが、ここには、事情を知る者しかいない。公爵に続いて王城を走り抜けた者たちが今は近衛兵としてガードを固めているのだ。
「いえいえ、今や聖王陛下なのですから、堂々としてもらわねばなりませんし、俺は一介の冒険者。この場では対等には話せませんよ」
聖王は少し残念そうに眉を寄せた。
「ふぅむ、ワシはどうも堅苦しいのは苦手なんだがのぅ……」
「ソウ様の言うとおりですわよ。お父様」
聖王の隣には娘のメティが控えていた。今や王女として、聖王を支えている存在なのだ。
「ソウ殿。そなたは冒険者として暮らしていると聞くが、貴族の地位や土地には興味はないかのう? もし望めば望むだけものを授ける用意があるのじゃが……」
「はっはっは、私がそんなものに興味を示すわけがないでしょう。私の望みは自由。それだけですよ」
「そうじゃろうな。じゃが、ワシとしても何か受け取って欲しいと思っておるのじゃが……、散々考えても、そなたに相応しい報酬というのがさっぱり思いつかんのじゃ」
聖王は額に手を当て考え込んでしまった。
「難しく考える必要はありませんよ。どうです? 今日にでも一杯。一緒に飲み交わしてくれればそれで充分です」
聖王は半ば呆れたような顔つきで、
「全く欲のない男じゃ。望めば娘だろうと、次期王位だろうと譲るつもりなのじゃがのぅ。娘だってまんざらでもなさそうなんじゃが、どうじゃ?」
「お父様!」
隣からメティが突っ込んでいるが、メティも本気で止めない所を見ると少しは脈有りなのかな? まぁ、王族と俺じゃあいくらんなんでも釣り合わない。俺は自由が好きなんだ。最後まで自由でいれることが俺の望みなのだから。
「すみませんが、俺は自由に暮らすつもりです。ま、新しい聖王が平和をいかにして築いていくのか。のんびり見せてもらうとしますよ」
結局、聖王からの褒美は”一晩だけ一緒に飲み交わす”権利となるのであった。
***
聖教国は生まれ変わった。名実ともに。
亜人種への差別の禁止。隣国との国境を越えた貿易の開始。奴隷制度の廃止。矢継ぎ早に出される政令はこの国を根本から変革するものだった。
真ん中に位置する聖教国にとって、貿易は欠かすことの出来ない産業へとなっていくのだが、それはまだ先の話。
聖教国が傭兵制度をやめてしまってからは各国の戦争気運も次々に縮小したようで、いい影響を与えたようだった。
***
「自由貿易協定か。いいもの創ってくれたな」
勇者RENは一人、旅に出ていた。
先の戦いではアルティメットハンターズの面々に多大な迷惑をかけてしまった負い目や、彼らとの実力差もあり、一緒にいるのは
リーダーからはありがたくも残念に思われたが、俺は強くなりたかった。今一度、自分を見つめ直すいい機会だ。
ちょうど俺はこの世界の極一部、聖教国のことしか知らない。他の国々がどうなっているのか、興味もある。それに、レベルは7800を超えたあたり。ソウが言うにはカンストしてからが本番、そこからいかに加護やスキルを増やし、自分の剣技を磨き抜き、魔力を鍛えていくか、そこが勝負の分かれ目になるという。
「あいつは今頃、何をしているのだろう」
気にはなるが、俺は俺にしか出来ないことをやっていくしかない。幸いにも剣は先の戦いの前にスミスさんから完璧に修理をしてもらったうえ、鎧の呪いがかかっていないスペアを譲ってもらう事が出来た。リーダーからは選別にアイテム袋をもらったので、普段はあの派手な装備はしまってある。
旅に出る前にみんなから祝福までもらったおかげで色々なスキルが増えたようだが、今の俺には使いこなせていない。これも今後の課題ということだろう。
俺は地味なグレーのローブを羽織り、スミスさんの鍛冶場で貰った安物の剣を腰に提げ、旅に飛び出した。
目指すは西。山岳地帯がそびえているが、それを超えた所に海に面した国があるという。
山岳地帯にはグリフィンや、ワイバーン、ドラゴン達が多く棲息しているという。一人で山を越える人間などいない、などと言われたが、それこそ俺の望む所だ。
俺は期待に胸を躍らせながら、山脈に続く小道へと入っていくのであった。
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