第95話 ミウ
「ふーん、確かにそのロッドは凄いな……。でも肝心の君の腕があと一歩足りない、と言ったところだね」
あれから何度も打ち合ったが、目の前に立つ女は涼しげな顔をしたまま、受け流される。かといって反撃してくるわけでもない。
遊ばれている? この私が?
怒りがふつふつと腹に込み上げてくる。
私はミウ。日本でトップグループのプロゲーマーだった。数多の勝負を制し、大会で何度も優勝してきた。
だが、男たちは……私をプロゲーマーとしては見てくれず、見た目ばかりを取り上げ、マスコット扱いされた。私も有名になれるのならば、と思い、その状況を受け入れ、ゲーマー達のアイドルとしての活動を続けたのだ。
だけど……、私は勝負がしたかった。本気になれる、他の雑念を全て忘れさせてくれる位の、本気の勝負が。
転機は突然だった。新進気鋭の女流ゲーマー、チコが現れた。当然、私はライバルの出現に燃えた。
幾度も幾度も勝負に勝負を重ねた。それこそ、プライベートでも連絡先を交換し、ネット対戦に明け暮れた。
私の心は躍った。毎日が充実した。ずっとこの時間が続けばいいのに……と。
あるとき、タッグによる2on2の大会が開かれることになった。
仲の良いプロの人がいない私はダメ元でチコに声をかけてみた。
返事はOK、即レスで返ってきた。そして、合同での練習を開始してみると、お互いの手の内を知り尽くしているからこその戦略が立てやすく、大会の結果も優勝。
数多の有名プロゲーマー達を抑え、上に立つことの出来る快感が私を満たした。
それ以降、ライバルとしてだけでなく、タッグパートナーとして二人で研鑽を積み、活動してきたが、周りの人たちが私を見る目はずっと変わらなかった。
ゲーマーのアイドル。ミウ。この評価が変わることはなかった。
そんなある日、チコと一緒に練習していると私達の周りが光り輝き、包まれ、一瞬、意識を失ったのだ。
気付けば石の冷たい感触の上に寝ていた。周りにいたローブを着込んだ人から、説明を受ける。
最初は信じられなかった。私が異世界に招かれ、勇者のパーティとして魔物を倒す。そんなこと……戦ったことのない私に出来るわけがない、そう言っても取り合ってもらえなかった。
だけど、ここでの生活は楽だった。色々な魔法があり、以外と前の日本よりも快適に過ごすことが出来るのだ。
そうこうしているうちに装備が調えられ、出撃することになってしまった。
だけど……、不思議なことに戦闘の際の記憶はボンヤリとして薄くなってしまう。どうしてだろう? わけがわからないが、レベルが上がる高揚感だけが残っていく。
なんだか、戦っている時の私は私じゃないみたい。
今日は敵の親玉と戦うみたい。なんでもこの平和な国に侵略してくてる……とか言っていた。前に城に忍びこんでいた男も軽くあしらうことが出来たようで、問題ないと判断されたらしい。
私はあの時のこと、ほとんど覚えてないけれど……。
ここでは、私は本当のアイドルみたいだ。熱を帯びた声援が飛んでくる。私を賞賛してくれる人たち。そして、ここの人たちは私の強さを本当に尊敬し受け入れてくれた。
いつの間にか、だけどこの人たちのために戦ってもいい、そんな風に考えてしまう自分がいた。
戦場に着くと、背の低い女の子が私の前に立ちはだかった。この女を倒せばいいのね。後ろに構える騎士たちは羨望の眼差しで私のことを見ている。
よーし、今日も頑張っちゃうんだから!
私はどんどんロッドに魔力を込めていく。その度にロッドは硬くなり、重くなっていく。
今までこんなにロッドに魔力を入れたことなんてなかった。その前に敵はいなくなったから。
「はぁっ、はぁっ。ど……どうして、私の攻撃が届かないの?」
ロッドに魔力を注ぎ過ぎたせいか、魔力の残量が少なくなってきている。それに、重くなりすぎたロッドが私の疲れさせてくる。
まずい……、早く終わらせないと……。
「うーん、まぁ、色々と要因はあるけれど。まずはレベルが足りないんじゃないかな?」
目の前の女は飄々と語る。
そんなわけはない。私は人間で最もレベルが高い一人だと説明を受けているし、実際、ステータス画面にも 7120 と表示されている。
これでレベルが足りていないワケがない……、はず。
でも戦っていると違和感が出てくる。私のロッドをこれだけ受けることが出来た人なんて今までいなかった。本当のことを言っているのだろうか?
いや……。あの女の策略だろう。敵である私にアドバイスなんてするわけないもの。
「やあああっっ!」
私のロッドとあの女の刀は激しい火花を散らす。
「そろそろ反撃していくよ? せいぜいやられないよう気をつけてくれたまえ!」
目の前の女は無い胸をピンと張り、腰に手を当てているが、見た目がまるで○学生みたいだ。
残りのMPも少なくなってきた。撤退するのか、それとも動けなくなったとしても限界までやるのか、選択しなければならない。
そんな時、
凄まじいまでの地鳴りと、大きな揺れが私を襲う。
「な、なんなの? これ?」
「あっ、勇者クンがキレちゃったみたいだ。まいったな、こんなの台本にないぞ? その前に撤退してくれる予定だったのに!」
目の前の女はワケがわからないことを言う。
私たちが撤退するはずだった? 決まっていたとでも言うの?
「あちゃー、こりゃまずいかも。でもここからじゃ間に合わない!」
目の前の女が焦り出す。
遠くを見ると、勇者RENが聖剣にありったけの魔力を込め、天高く、その剣が伸びている。
その聖剣が振り下ろされた。
魔王達がバリヤーを張ったようだが、あっという間に割られていくのが見える。
そして、最後の一枚が割れた時、辺りは突如として、暗闇に包まれた。
「な、なに? この暗闇は……一体?」
戸惑う私をよそに、目の前の女は、
「おっそーい! 遅刻だぞ?」
などと叫んでいる。
一体、何が起きているというのか?
私はチコを探した。が、辺りの暗闇で全く見つけることが出来ないのであった。
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