第87話 神聖王国 2
「して、召喚部隊の動きはどうなっているの? 次はどんなお猿さんを呼ぶのかしら?」
王女は宝石が散りばめられた豪華な椅子に腰掛け、間者のほうを見もせずに問うた。
「はっ、どうやら複数人数。勇者RENの近しい者を呼ぶようです」
王女は内心、舌打ちをした。
「まったく、勇者をこれだけ手なずけるのにどれだけ苦労したと思ってるのよ。それが複数ですって?」
王女は苛立たしげに呟く。
「恐れながら、王女殿下。洗脳術式の込められた装備一式、すぐに用意させましょう。それから……」
王女の隣に控えていた、長身、細身の男が礼をしつつ口を開いた。
「お父様は鍛冶師を首にしろ、とおっしゃいましたが、正直、私にもスミスより優れた鍛冶師がいるとは思えませんの。殺してはダメよ」
「それが賢明かと。これから呼ぶ召喚者達の武器もスミスに作らせましょう」
男は安堵したかのように一つ、ため息をついた。
「では、こちらも動くとしましょう。すぐに付与術師を集めなさい。たっぷり強化魔法と洗脳、狂化魔法を織り交ぜた防具を用意しなくてはいけませんからね……」
王女は口角を上げて命令すると控えていた男と間者がすぐに動き出すのであった。
聖教国。建国から二千年もの歴史を持つ、大陸でも指折りの大国。
その大国が今、揺らいでいた。
聖王は大臣達を集め、会議を開いた。
「魔界の状況はどうなっている?」
聖王は苛立たしげに眉をヒクヒクさせながら問う。
「はっ、今の所、動きはありません」
斥候は頭を下げたまま答える。
「我々、聖教国は長年、魔物や亜人を倒すことに注力してきました。それがいつしか、魔界からの侵攻はさっぱりなくなってしまい、どの国にも脅威と呼べる者がいなくなってしまった……。これでは、兵を鍛え、維持してきた我々の収入の減少、並びに権威が低下することを意味します。由々しき事態というわけです」
聖王の隣に控えている宰相が重い口調で現状を伝える。
貴族達にざわめきが起こった。
「先日は勇者の召喚、並びに育成に協力してくれたこと、感謝の意を表します。ですが、その勇者ですら、魔界の者を倒すことが適わず、引き上げる事態となりました」
宰相の言葉に、さらにざわめきが増す。
「静かにせよ」
聖王の言葉に会議室はシン……と静まりかえる。
「引いては、皆様の更なるご支援とご協力を願いたいのです」
「宰相殿、勇者が敗れたというのは真実なのですか?」
近くに座っていた貴族の男から質問がでた。
「はい、勇者RENは剣にヒビを入れられ、退却を余儀なくされました。現在、再出撃のために療養と剣の修復を進めております」
「しかし、我々に支援と協力というのはどういったことでしょう?」
他の貴族からも質問が出る。
「簡単なことです。より多くの魔術師の提供、それと稀少鉱石であるミスリルやアダマンタイト、それから魔道具の類いの提供をお願いしたいのです。貢献度に応じて、事が成った暁には聖王様より多大なる御礼をお約束いたします」
「その御礼とは……、つまり……」
「ま、最も貢献していただいた方の陞爵は確実でしょうな。他にも、奪い取った領地の植民地支配権や奴隷の確保など、メリットは充分にあるはずです」
「「「おおっ!」」」
宰相が言い切るや、会議室は大きな喧噪に包まれた。
「さ、それではこの会議は終わりになります。皆さんのご支援、お待ちしておりますよ!」
宰相の声と供に、貴族達は駆け足で去って行った。その目に野心を込めながら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます