第85話 あの男
「クヒヒッ! いよいよ本気だってわけか! 面白い!」
「REN! しっかりしろ! お前はそんなやつじゃないだろ!」
俺の言葉に対し、地面につばを吐き、相手を見下す目つきで睨んでくる。
RENの姿が消える。そして、俺の躱す方向が解っているかのように攻撃を仕掛けてくる。斬撃を受け止め、剣と剣がぶつかり合う音が辺りに響いていく。
幾度も打ち合い、競り合っていると、勇者の剣にヒビが入った。
チャンスだ! ロイヤルキュアー!
「クアアアアッッッ!!!」
RENは頭をかかえ苦しみだす。
「効いたか?」
「グッ! ガアアアアアッ!!!」
「REN! 正気をとりもどすんだ!」
倒れ込むRENの肩をさっと抑え、勇者の剣を掴もうとしたときだった、
「俺に触るなぁ!」
RENが振り抜いた剣は俺の腹から胸にかけて切り裂いた。
「クックック、甘い男だな。俺に精神攻撃なんて効かねぇぜ!」
RENがさらに斬りかかってくる。
「バリヤー! 多重起動っ!」
RENの攻撃がバリヤーに当り、バリヤーが砕けていく。だが、時間を稼ぐには充分だ。
大きく後方にジャンプしつつ、体をヒールで癒やしていく。
油断してしまった。奴の洗脳は俺の魔法では治せないってことか……。なぜだ……?
「貴様の顔は覚えた。また会った時は必ずお前を倒す!」
RENはヒビの入った剣を持ち、大きくジャンプし、この場を去っていった。
やっとヒールによる回復で傷が塞がった頃にはRENの姿は何処にもなかった。
「旦那さま〜!」
「ソウ様! ご無事で何よりですじゃ!」
二人が明るく出迎えてくれた。
「……旦那さま?」
「ん? あぁ。何でもないよ。城に帰るんだろ?案内してもらってもいいかな?」
「もちろんよ!」
「ソウ様。ワシは今、村長ではなく、市長を努めとりますじゃ。町を挙げて歓迎いたしますぞ!」
二人の表情は明るい。だが、俺は……。
*
「なるほどのぅ、あの勇者が、ソウ様の知り合いだったとは……」
市長はアゴに手を当てながら答える。
「どおりで、あの勇者が強いワケじゃ! 旦那さまの知り合いなんじゃからのぅ!」
「二人には迷惑をかけてすまない」
「ソウ様。ワシらはソウ様がいなければ、もうくたばっていた身。今更、迷惑なんぞ屁でもないですわい! 一人で背追い込まず、ワシの命、自由にお使い下され」
「市長……」
「妾もじゃ! 旦那さま! この魔王国は旦那さまの国。旦那さまが命がけで守ってくれたおかげで、出来た国なのじゃ。この程度は迷惑なんかじゃないのじゃ!」
「レイ……。ありがとう」
この件は必ず俺の手で決着をつけなければ……。あの勇者。あいつがこれ以上パワーアップすれば……、奴を止められるのは俺しかいないだろう。
「そうだ、二人とも聞いてくれないか? 俺はこれから聖教国に行ってみようと思っている。その間、留守中の守りのために応援を呼ぼうと思うんだけど、どうだろうか?」
「ふぅむ、あの男、ですかな?」
やはり、市長はするどいな。
「あぁ、あの男ならこの魔界の守護に適任だと思うんだ」
「ふふ、妾にも異存はないぞ? どれほど強くなったのか、見せてもらおうではないか!」
レイも納得してくれたみたいだ。
「よし、じゃ待っててくれ。すぐに連れてくるよ」
俺は即座に黒い霧を出し、エルガの元へ向かうのであった。
*
レジェンドドラゴン。各地に生息するドラゴン達の長、エンシェントドラゴン達の神として崇められている幻のドラゴンである。
推定レベルは8000とも9000とも言われるドラゴンの神。
そのレジェンドドラゴンが骸となってその男の前に倒れていた。周りには無数のエンシェントドラゴンの骸もある。
男は俺の存在にもすぐに気付いたように一瞥した。
「どうやら、到達したみたいだな」
俺が話しかけたが、男はレジェンドドラゴンの骸をぼんやりと眺めながら、
「あぁ、ようやくだ。これがレベルカンストの世界。これでお主といいバトルが出来そうだ」
鬼神と呼ばれた男は口角をあげる。
「すまないが、再戦ってのは後になりそうなんだ。今、魔界に危機が迫っているんでね」
「魔界が? フム、俺の新しい力を試すにはちょうど良いかもしれんな。案内してくれ」
エルガの目が光り、闘気が体から溢れ出す。
「力を試すどころか、油断してると足元をすくわれるぜ?」
「俺に油断などもはやない。どんな敵であろうと我が拳の敵ではない」
自慢ではないな。自信が揺るぎないのだろう。相当鍛え上げたのは間違いない。身に纏う闘気は以前とは段違いだ。
エルガはエリアリザレクションを無詠唱で唱えた。レジェンドドラゴンと、周りにいたエンシェントドラゴン達が起き上がる。そして、エルガを主と認めたかのように、全てのドラゴン達が頭を垂れるのであった。
エルガはドラゴンの頭で出来た回廊を悠々と歩き、こちらへ向かってくる。
俺はエルガの仕上がりに満足し、エルガと共にリーダーの元へ向かうのだった。
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