第7章 聖魔大戦編

第82話 勇者の噂



「全く! レディの入浴してる所に入ってくるなんて! 人として最低だよ! ソウ君! 」


「はい、反省してます」


 俺は腫れ上がった頬を抑えつつ、リーダーからお説教をもらっていた。


「全く! ソウ君は全くだ!」


「はい、おっしゃる通りでございます」


「ボクの裸は安くないんだからね! これは責任問題だよ!」


 リーダーは腰に手を当て、ない胸をピンと張っている。


「私に出来ることであれば何でもおっしゃってくたさい。はい……」


「む? 今なんでも言えっていったよね? よし、なら責任取ってボ、ボクと、け、けけけけっこ……」


「ワンワンッ!」


 コンがかまって欲しいようでリーダーに突撃していった。


 リーダーはそのまま押し倒され、顔をペロペロと舐められる。


「わっ、はははっ、や、やめてっ! くすぐったいよ!」


「ワフワフ!」


 リーダーは体が小さい。傍目には魔物に襲われているようにしか見えないな。


「コンが遊んで欲しいって言ってますよ? リーダー」


「えっ? そうなの? わわっ! そこはだめっ! 乙女の唇は安くないんだから! ソ、ソウ君、助けて!」


「ほら、コン! ちょっと離れるんだ! な?」


 コンの胴体を掴んで離そうとしたが、コンが暴れだす。


「ワンッワンッ!」


 おっとと、すごい力だ! 俺まで振り回されて……、ぬあっ!


 コンを持ち上げたと思ったら、コンがリーダーにしがみついたままで、一緒に持ち上がってしまい、俺はバランスを崩して倒れ込んでしまった。


 いたた、ってなんだか顔に柔らかい感触が……、なんだろう?


 顔の前にある柔らかなものを触ってみると、ふにふにとして柔らかくも温かい手触りだ。なんだろう? これ……。


 持ち上げてみると、俺の手はリーダーの胸をしっかりと掴んでおり、そのリーダーと目が合ってしまう。


「あっ……!」


「い、いやあああっっっ!!!」


 凄まじいスピードで飛んでくる平手を躱すことも出来ず、俺の両頬は大きく腫れ上がるのであった。




   *




「じゃあ、ボクも霞に会えるのかい?」


「えぇ、大丈夫なはずです! 行ってみませんか?」


 俺はまた黒い霧を生成した。行き先は霞さんやミーナのいるエルフの国だ。


「これでよし、と」


「この先に霞が……」


 リーダーはゴクリとツバを飲んだ。自分の知らない世界に行くわけだから、緊張するのも無理はないよな。


「じゃあ、俺とコンで先に行きますから、後についてきて下さい。問題ないですから、緊張しなくても大丈夫ですよ!」


「そ、そうかい……」


 リーダーの表情は固いが、こればかりは信じてもらうしかないしな。


「よし、じゃ行こう! コン!」


「ワン!」


 勢いよく黒い霧に飛び込んでいく。


 やがて、黒い霧の行き先が見えてきた。久しぶりのエルフの国だな。霞さん、元気にしてるかな?


 そんなことを考えているうちにもう出口だ! ん? なんだろう? この水の音は……。


 黒い霧を抜けると、目の前には霞さんがいた。一糸纏わぬ姿で。シャワーを浴びていたのだ。


「あ、か、霞さん。こ、これは違うんです! そんなつもりじゃ……」


「あら、ソウじゃない。会いに来てくれたのね!」


 霞さんは全裸のまま俺の腕に抱きついてきた。柔らかで大きな豊満が俺の腕を包み込む。


「わわっ! か、霞さん!」


 俺が慌てている所へコンとリーダーがちょうどよく現れた。


「あっ……」


「ソ、ソウ君の浮気者〜〜〜っっ!!!」


 リーダーの素早いパンチは躱すことなど不可能。俺は腹にまともに喰らってしまい、シャワールームの壁を突き破って倒れ込んだ。


「あら? 姉さん!」


「うん? 霞……、霞なのかい?」


 俺は薄れゆく意識の中、美しく抱き合う二人の姉妹が目に入るのだった。




   *




「いやぁ、ソウ君には悪いことしちゃったね」


 頭をポリポリと掻きながら気まずそうにリーダーが謝ってくる。


「全く、姉さんの早とちりは相変わらずなんだから」


 霞さんはやれやれといった感じだ。


「はぁ、誤解が解けたようでなによりですよ……」


 俺は腫れ上がった顔にヒールをかけつつ応じる。


「そうそう、西にあるエニシア教国という所が勇者を召喚したらしいのよ? なんでも、魔族から侵略を受けたから反撃に出るって……」


 霞さんは真面目な顔だ。


「へ? 魔族が侵略?」


 うーん、それはちょっと考えにくいな。あの優しい魔王がわざわざ異界の国へ攻める理由がない。


 まして、食料の問題も解決したはず。どうしてそんなことに?


「エルガは魔族から攻めるなんてあり得ないって言ってたわ。だけど近いうちに教国から動きがあるみたいなのよ」


「じゃあ、魔界に行って確認してきますよ! コンを預かってもらってもいいですか?」


「えぇ、かわいい子狐ちゃん。いい子にしてましょうね」


 霞さんはコンを抱きかかえると、コンは嬉しそうに顔をペロペロと舐めるのだった。


「ソウ君、一人で大丈夫かい?」


 心配そうに見つめるリーダー。


「大丈夫ですって。偵察に行くだけですから。すぐに戻りますよ!」


「ソウ君のすぐは結構長いから信用出来ないんだよなぁ」


 リーダーが口を尖らせてぼやくと、


「ホントよね。私だってチームメイトとして一緒に旅したかったのに」


 霞さんにまで小言を言われてしまう。


「ま、この世界ならチームチャットでいつでも会話出来ますし、いざとなったらお願いしますよ!」


 俺は強引に話しを打ち切り、魔界へ行くことにした。


 リーダーと霞さんは姉妹なのだ。久しぶりに会ったこともある。少し二人だけの時間を作ってあげたかったのだ。


「じゃ。行ってきます!」


 俺は久しぶりに魔界へと向かうのであった。



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