第68話 獣魔契約



「えーと、なになに。獣魔契約……。俺の言うことをある程度聞く代わりに世話の義務が発生する」


 ペットかよ? いや、まだ飼うとは……、


「クゥ~ン」


 俺の脚に頭を擦りつける子狐の姿はあまりにも尊すぎた。


「おい、お前。俺のペットってことになってるけれどいいのか?」


「ワン!」


「いい返事だ。でも、俺について来れるのかな?」


「ワンワン!」


「ほぅ、じゃ試しに走ってみるぞ!」


 子狐には悪いが、俺は素早さに自身がある。一瞬で置き去りにしてやろう。


 その場に残像を残し、俺は素早く移動し始める。


「ワン!」


 ところが、子狐は俺の動きについてきたのだ。


「なん……だと?」


 目を疑った。今まで、俺の動きについて来れたモンスターなんていなかったのだ。ボス級の者を含めてだ。


 急な方向転換にもしっかりと対応し、ついてくる。しかも、遊んでくれていると思われているのか、やけに上機嫌に見えるのだった。


「むむむ、俺が主だと見せつけてやるつもりが……、やるじゃないか!」


 俺は足場にバリヤーを出し、飛び跳ねるように移動した。


「だが、空中ならどうかな?」


 しかし……、


「ワン!」


 子狐は俺の出した足場が見えているかのように正確にたどってついてくる。


「まじか! うそでしょ?」


 何事もなかったかのように俺の胸にジャンプして飛び込んでくる。そして、俺の頬をペロペロとなめ回してきた。


「くっ、何て可愛い奴なんだ! そうだ、名前を決めよう。そうだな……、シロじゃ犬みたいだし……、日本じゃ、狐の鳴き声をコンコンって言うんだ。だからコンってのはどうだ?」


「ワン!」


「よし、今日からお前はコンだ。よろしくな」


「ワン!」


 コンは多い尻尾をフリフリしながら元気に吠える。


 どうやら気に入ってくれたみたいだな。


 コンは俺と似て、早く走れる。いざとなったら撹乱も出来るかも知れないし、危なくなったら避難させるのも容易そうだ。


「そういや、コンはレベルいくつなんだ? ちょっと見てみていいか?」


「ワフッ!」


 尻尾をフリフリして答えるコン。


「よしよし、じゃ、鑑定!」




名前 コン


種族 大魔神の眷属、神獣


レベル 5




 え!? まだレベル5であれだけの早さなのか! 末恐ろしい子!


 いつの間に俺の眷属になったんだろうな。うん、心当たりがない。


 ま、いいか。これで思う存分モフモフが楽しめそうだ。


「ワンワン!」


「コン、早速だけど、この世界を案内して欲しいんだ。ズバリ! ここで一番強い奴の所へ行ってくれ!」


「ワン!」


 コンはその場を動かない。


「あれ? 言い方を間違えたかな?」


「クゥーン、クゥーン」


「ん? 間違いない。ってこと?」


「ワン!」


 これってつまり、ここで一番強いのは俺だって言ってくれてるのか! お世辞でも嬉しいことを言ってくれる! 可愛い奴め!


 コンの頭をナデナデし、俺はまた聞いてみる。


「じゃあ、二番目に強い奴はどこにいるんだ?」


 すると、コンは駆けだした。途中で止まって振り返り、まるで着いてこいと言っているみたいだ。


「よし、そっちか! 行こう! コン」


 そして、俺はコンにこの黄泉を案内してもらうことになった。




   *




「……ここは?」


 目の前に大きくそびえ立つ門がある。左右に巨大な鬼の像が立っており通る者を威圧する。


「風神と雷神の像か……、すごい迫力だ」


「ワン!」


 コンは着いてこいとばかりに門の中へ入ろうとする。


 だが……、


「危ない!」


 とっさにコンにバリヤーを張る。するとバリヤーに何かがぶつかり、衝撃が走った。


「ふぅ、大丈夫か? コン」


「ワンッ、ワンッ!」


 コンは攻撃してきた方向に向かって吠えている。


 一体何者だ? 気配を殺して攻撃してくるなんて只者じゃない。


「貴様等、ここへ何をしに来たのだ?」


 低い声が聞こえてくる。門の陰からスッと飛び出してきたのは忍者のような黒い忍び服を着た鬼だった。


「あぁ、ちょうどいい。ここの門番さんかい?」


「いかにも。怪しい奴はここで始末することになっている。無論、貴様等もな」


「やれやれ、話も聞かないのか? ま、俺的にはそっちの方が楽しいけどな!」


 フッと消えるように移動する門番。気がつけば俺の目の前で小刀を突き出してきた。


 その小刀が俺を突き刺す。


「むっ? これは?」


「残念。素早さはあるようだが、残像も見抜けないとは……」


 門番の後ろから刀で一閃する。


「ぐっ! き、貴様……。これ以上進むと後悔するぞ! 何人も閻神えんじん様には勝てぬのだ」


「あ、そうですか。じゃ、俺が最初の男になるんだね」


 門番は苦悶の表情を浮かべつつ倒れていく。が、最後に魔法を打ち上げた。その魔法は敵襲を告げるためのものだろう。派手に爆発して花火のような円輪が咲いた。


 門に向かって走り来る鬼達。


 俺等はあっという間に四方全てを囲まれるのであった。


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