レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野

第1章 初の異世界!

第1話 思い出と現状


 日本初のオンラインRPGとして登場した、フンタズムスターズ。このゲームにはドハマリした。ブームが巻き起こり、多くの人達と遊ぶ事が出来たのだ。やがて人が少なくなり、ブームが過ぎ去った後も俺はずっとこのゲームを愛し、プレイし続けていた。


「お? レベルアップだ!」


 俺のレベル表示はついに200を迎えた。


「やったな! ソウ君」


「おめでとう、ソウ」


 チームメイトの二人からの祝福だ。


「はい! ありがとうございます。これもリーダーと霞さんのおかげです!」


「いやいや、私は君のお手伝いをしたにすぎない。頑張ったのは君だ。これで君も晴れてレベルカンスト組ってワケだ」


 リーダーはいつも謙虚で仲間思い。俺がこのゲームを始めてからすぐに声をかけてくれた。それからはずっと一緒にこのゲームをプレイしている。


 良く気が利くリーダーはバランス型のキャラ作りをしていた。みんなの体力回復や攻撃力や防御力を上げるバフ、敵を弱体化させるデバフを欠かさない。いつも元気に声をかけてくれ、まさにリーダーにふさわしい人物だ。


「ソウもやっと一人前ね。でも、これからよ? このゲームは……。この先にあるステータスカンストとアイテムコンプはまだ遥か先だわ」


 いつも飄々とした感じの霞さんはこのゲームに対する知識量が豊富だ。周回するためのルートや、次に狙うアイテムの提案など、チームを導いてくれる。彼女の言う通りに進めるだけで俺はほぼ最短距離でこのゲームを進めてくることができたのだ。


「はい、ここからが本番……ですね!」


「うむ、そうだ。我々のチームが目指すのはこのゲームのコンプリート! そのためのチーム・アルティメットハンターズなのだ!」


「私はこのゲームが好きなの。極めずして終われないわ」


「ハイッ! オレもまだまだ頑張りますよ! リーダー、霞さん、これからも宜しくおねがいします!」


「ハッハッハ」


「フフフ……」




 これは俺の全盛期ともいえる思い出。あぁ、このころは最高だった。




 だけど今は……、


「……ちょっと、起きなさいよ! いいかげん仕事しないと明日も終電まで帰れないのよ!」


 ヒステリックな叫び声。体を揺らされ、強引に夢の世界から引き離される。


 いかんいかん、また寝落ちしてしまったみたいだ。


 俺が働いている会社はブラックもブラック。俺に対して甘い要素など皆無。早く帰れて終電。逃すと会社で仮眠してまた仕事という有様だ。まさに無糖。


「ホント、今日は帰りたいんだから! お願いだから仕事してちょうだい!」


 目の前で叫んでいるのは女社長。シングルマザーで子供を迎えに行かねばならないそうだ。


「わかりました〜」


「よし! じゃあ、頑張ってね!」


 見た目はものすごい美人で社員を気にかけてくれる人なんだが、とってくる仕事がキツすぎる。到底、普通の業務時間で終わるわけがない。


「あ、もうこんな時間!」


「先に帰ってて下さい、社長。後は俺がやっておきますから」


「お願いね! 今日は子供の誕生日なのよ。早く帰らなきゃ」


 社長は急ぎ足で帰っていった。


 さ、俺も帰らないと。もう四日も帰ってないおかげで体中が汗臭さい。脇を開くだけでムワリと匂いが伝わってくる。


 重い足どりで会社を出た。少しフラフラするがなんとか駅へ向かっていると、何やら辺りが騒がしい。


「ん? なんだありゃ?」


 ビルの高い所で叫ぶ男がいる。そいつは覆面をしており、右手に刃物を持っていた。そして、左手には……、


「きゃあああ〜〜〜っっ、ウチの子を離してあげて!! お願いよっ!」


 先程まで一緒に仕事をしていた社長が顔を真っ青にして叫んでいた。


 あの覆面の男に捕まっている小さい子。どうやら社長のお子さんだというのか!


 周りにパトカーが次々に到着し、拳銃を持った警察官でビルはあっという間に囲まれていく。


「警察は下がってろ!」


 焦った覆面男は窓から子供を出し、包丁を子供に当てながら脅すように叫ぶ。


 こりゃいくらなんでもマズすぎるだろ! かといって俺にできることなんてないんだが。


 パトカーのサイレンが辺りに響きまくると、犯人はいよいよ焦りだして、ワケのわからないことを叫びまくっていた。その時だった。


 犯人が持っていた子供が暴れだし、犯人が手を離してしまったのだ。


 絶叫する社長。


 俺はなぜかすぐに走り出していた。


 そして、子供の下にスライディングをするように体を滑り込ませた。


 ドスンッっと音が鳴ったのは子供が落ちた衝撃音ではない。子供を受け止めた勢いで、俺の頭が地面に叩きつけられた音だった。


「う……。こりゃだめかも……」


 俺の意識はそこでプッツリと落ちていくのだった。



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