第16話 浮気ですわ!絶対に浮気ですわ!許せませんわ!
「啓さんあれは何をしているのでしょうか?」
「ごめん、僕にもよくわからない」
いつからか凉坂さんはドアの窓からひょこっと顔を出して、相本さんの事を興味津々で観察している。気を使ってくれてるのか、かなり小声の質問だった。
「それより、今はちょっと」
もう一度しゃがんで、とジェスチャーを使い再び伝える。確かに目の前に広がる変な事は、めちゃくちゃ気になるが今は見つからない事の方が大切だ。
息を殺して相本さんが過ぎ去るのを待つ。そろそろ5分は経つだろう。彼女は相変わらずスマホを構えてニヤニヤとしながら、ぼそぼそと言葉を発している。
相本さんはクラス委員でクラス内の男女だけでなく、学年、いや、上級生や下級生も、つまり全校生徒から信頼を寄せられている子だ。
去年の文化祭で少し話した時も、初対面の僕に対しても友人のように接してくれたのを覚えている。
そんな子がスマホで何かを撮影しながら、いつもの柔らかくハッキリとした高い声と対照的なボソボソと低い声を発している。こんなに気になる事はない。
「あの方は啓様のお知り合いでしょうか?」
大人しくしていた美月はコッソリと窓をチラチラと確認しながら、こちらに聞いてくる。
「あんまり関りは無いけど、一応知り合いってレベルかな」
「まあそうだと思いました、啓様程度の人間があの可愛らしい方と出会えるとは思っておりませんでしたので」
「それは事実かもしれないけど、美月は結構傷つく事言うよね」
「はい、怒りを貯めさせれば貯めさせるほど、後ほど倍で返して頂けるかもしれませんので」
「怖い事言うな、というか今は静かに」
何とか二匹の猛獣を隠しながら、相本さんの動向を伺う。更に5分くらい待っていると、彼女はスマホをポケットへ戻し再び何処かへ歩き出した。
足音が完全に聞こえなくなるのを確認して、廊下に出た。
「危なかったー」
思わず言葉とため息が出てしまう。
「私、もう少しで気になりすぎて出て行ってしまうところでしたわ! 本当に危なかったですわ」
それは本当に危なかった。出ていかれては、せっかくドアまで壊してもらい二人に隠れてもらった努力が水の泡だ。
「それにしても、彼女は本当に何をしていたのでしょうか?」
凉坂さんはさっきまで相本さんがスマホを持って立っていた場所へと同じ場所に立った。
「あ!」
何かに気が付いた凉坂さんが大きな声を出す。なにやら重要なものを見つけたらしい。
「何かありましたか?」
「啓さん? 私聞きたいことがあります」
あの場所に行くと声がやたらと低くなる呪いでもあるのか、低音ボイスで呼びかけてくる。
「はい、なんですか?」
凉坂さんが振り返る。目が怖い、何やらかなり怒っているように感じる。
「啓さんは先程、部活動などをしている知り合いは『全員帰った』と言ってましたよね?」
何を見たか分からないが、それだけを言って彼女はじーっと見つめてくる。静かな怒りというのがとても怖い。
「啓さん、何を黙っているんですか?」
言葉を畳み掛けられる。浮気現場を見たかのように、お嬢様は般若の面をつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます