第5話 お母様!お母様!よろしくですわ!
「ただいまー」
聞きなれた声が、壊れた玄関から聞こえる。母の声だ。というか何を冷静に入ってきているんだ、ドアが壊れているんだからもっと驚きながら入ってきてくれ。
「お帰りなさい!啓さんのお母様!」
「あら、凉坂ちゃんいらっしゃい」
母はなぜか平然とパワー系少女と話をしている。そうか夢だから何でもありなのか、さっき吹き飛ばされた時の肩の痛みを感じながらそんな事を考えた。
あれ、肩が痛いならこれ夢じゃ無くね。
そういえば僕の母親は訳が分からないくらいなんでも受け入れてしまう性格だ。うちの家族ごと詐欺の被害に合わせようとしているなら、僕だったら間違いなくまず母親を取り入る。その次にごり押しでいけそうな僕だ。
やはりこれは現実で、彼女は何か詐欺師?それだったら辻褄が合う。いやそれは、ダメだ、頭まで痛くなってきた。まともな思考が出来ない。
「啓、何を考えているの?凉坂ちゃんにちゃんと家の中の説明をしてあげなさい、失礼でしょ」
「いや、それどころじゃなくて、母さんと凉坂さんはどんな関係なの?」
「凉坂ちゃん初めて会った時からすっごくいい子でね、それでね、何か貴方の事を知ってるらしくってね、もう本当良い子なの」
「分かった、母さんもう大丈夫」
親特有の、質問に対して正しい答えではなく、母が言いたい事だけが返ってきた。凉坂さんがいい人だってこと以外今の会話から何も得られなかった。
僕の事を知っていた?僕は記憶でも失っていたのか?彼女する話がもし本当だとしたら僕はいつどこで何をしたんだ。
「お母様心配ご無用ですわ、私は啓さんにしっかりよくしてもらってますの。先ほども二人で楽しく過ごすスペースを見てましたの」
そう言いながら、腕に彼女がまとわりついてくる。嬉しさ半分、恐怖1割、親の前でそういうのやめて欲しいが残りを占めて、気分がなんか色々とキツイ。しんどい。
母親は嬉しそうにした後、僕の家に戻っていった。取り残された僕と変わりまくった少女は再び新しい家に二人っきりになった。
いや、冷静に考え直そう。まず確認しなければならないことは今が夢なのか現実なのかという事、彼女が何のためにここにいるのかという事。
まずは前者の方から確かめることにしよう。こういう時は頬っぺたを引っ張るのが定番だ。
「あのさ」
「はい!啓さんなんしょうか?」
「僕の頬を思いっきり引っ張ってくれない?」
「え、ほっぺですか?私は構いませんし、啓さんにそういう趣味があるのならば止めませんけど、痛いですよ?」
明らかに動揺が隠せないと言った彼女が聞き返してくる。何か変な勘違いを植え付けた気がする。
でも説明は面倒くさいのでここはスルーして、黙ってほっぺを引っ張ってもらうことにしよう。
「うん、ほっぺ」
「結構いたいですよ?いいんですね?」
「うん、やってください」
一瞬無言の空間が流れたのち、彼女の白く細い指先が僕の頬の肉に触れた。夏の温度には似ても似つかない冷たい手が僕の体温を奪っていく。イケメンな王子がお姫様にキスをする直前のような手の持ち方をされる。
自然と彼女の顔に視線が集中してしまう。近い。プラチナブロンドと呼ばれる金髪が僕の頬を持つ手にかかる。
どこか儚げな表情をした顔が僕に近づく。
――あれ、これキスされるんじゃね。
唐突にそんな考えがよぎった。
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