第191話 天才が選んだ辛い現実の道
「姉ちゃん大丈夫?」
ジンは、常に私を心配してくれている。彼もルフと同じだ。私の事情を知っているから、私を病弱かのように扱う。嬉しいけれど、複雑だ。
「大丈夫よ?」
「……なら、良いけど」
私は弱い。それは事実だ。けれど。
弱者として扱われたくはない。そんな変なプライドがある。
「ごめんなさいね。あんまり、話せてないわよね。……ルフと、3人で話したいの。これまでのこと、今のこと、これからのこと。……今話すのは、少し違う気がして」
「分かってる。ルフ姉ちゃんはもうエデンに帰ってる筈だろ。あと数日だよ」
もっと強くならなくてはならない。ジンとルフの、足を引っ張らないように。
私達を守るのがジンの役目だけれど。
守られるだけでなくて。せめて彼を支えられるように。
これは、私の旅だから。
◆◆◆
途中、少し強めの嵐があって、予定より遅れてしまって12日後。
「見えた。エデンね」
「おっ。遠視魔法、慣れてきたっすねエルルさん」
「ふふっ。だって時間はたっぷりあったもの。母の、無音の魔法だって覚えたわ」
「……うーん。魔法に関してはただの天才なんすよね。この人」
「そうなんだ? エル姉ちゃん。俺魔法のことは全然知らないから」
「そうっすよ。魔力のコントロール精度がずば抜けてるっす。ジンだって、自分の身体でも思った通りに自由に動かすの、難しいっすよね」
「あー確かに。自分では真っ直ぐ手を挙げてるつもりでも周りから見たら角度付いてたりってのはある。それが理由で剣が当たらなかったり」
「魔力も同じっす。それに、魔法ひとつひとつ、それぞれ魔力の動きが違うんすよ。それらを、視ただけで完コピしてしまうセンスが、エルルさんにはあるっす」
「ひええ……ヤバイなそれは」
「しかも、エルルさんには生まれ付き魔力を視る魔力視があるっす。これは絶対音感や共感覚みたいな感じで、限られた人が生まれ付き持つ能力っす。エーデルワイスの緑柱玉の眼っすね。これがそのセンスに拍車を掛けてるっす」
「……マジモンの天才じゃん」
「………………褒めすぎよ」
リーリンの誇張した説明に、ジンが感銘を受けてキラキラした目で私を見た。
顔が熱くなる。
「それでも、オスには勝てないのよ」
「!」
そうだ。ジンが勝ったエルドレッドに、それでも勝てないのだ。
単純な魔力量の差。魔法の威力と規模の差で、手も足も出ない。
それが亜人の性差。
「……それが辛い現実っすね。エルルさんはメスの中では恐らく最強になれる素質があるっす。けどそんなの、オスの基準だと、せいぜい平均より少し上、程度っすね」
「そんなの、わざわざ比べなくても」
「いえ。ジン。私は、冒険者だから。ジェンダー男性の世界だから。常に比べられるのはその道のオスよ。だから、私はもっと強くならなくちゃいけないの」
「エルルさんが才能の塊なのに胡座をかかないのは、常にオスを想定してるからなんすね」
「……ええ。これが私の選んだ道だから」
◆◆◆
懐かしい。約4年半振りだ。エデンの港。街。草原。風。香り。
帰ってきた。
「では、私達はこれで」
「少しくらい、休んでいかないの?」
「はい。このまま、南下してレナリア大陸へ向かいます。補給はこの後ミーグ大陸で行いますのでご安心を。我々は、そこまでは慣れた航路です」
「……そう。気を付けてね。また会いましょう。ここまでありがとう」
「…………はい。お互い、戦争を止めるためにできることをして、生き残りましょう」
非公表の正式名称は、エーデルワイス使節船団と言うらしい。彼女達は私達を港に降ろした後、すぐに出港してしまった。
ヒューイが亡くなった原因を無理に突き止めることはせず、危険な海域を迂回して。ミーグ大陸の魔界入り資格持ち冒険者と連携して、とにかく安全に魔界へ向かうらしい。
戦争を止めるため。
そうだ私には、その仕事がある。一旦、自分の為の冒険は休止だ。
「ルフ姉ちゃん!」
「!」
船団を見送ると、ジンが叫んだ。私も振り向く。魔力は先程から感じていた。
白いロングスカートのワンピース。島での彼女の私服だ。
走って。
裸足で。
船を見て、慌てて急いで来たのだと分かった。
「…………ルフ」
「エルル!」
私も、負けないくらい走った。
突き飛ばして。
押し倒して。
しがみついて。
「う…………! ルフっ」
「ああ、良かった。エルル。ご無事で……っ!」
「あああ……あぁぁぁぁ」
大声で、わんわん泣いた。
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