第67話 不正確に拡散される殺人者
連れて来てもらったのはリヴァイアサンの蒲焼き専門店だった。リヴァイアサンも蒲焼きも初めてだったけれど、とても美味しかった。あのタレが凄い。甘辛いというのだろうか。森で生きていては決してあり着けない味だと分かった。
というか海魔であるリヴァイアサンをコンスタントに仕入れるということがもう吃驚だった。魔法も無いのに、ニンゲンがどうやって魔物を狩るのだろう。
「いつも決まった航路なの?」
「そうだよ。1周、大体2ヶ月くらいかな。今回はちょっと遠出なんだ。レンの故郷も寄ったんだー。奥さんが綺麗で優しくて。あー。奥さんの料理食べたくなってきた」
「彼、結婚してるのね」
「そうだよー。だからあたしのオッパイも揉まないし、ルフェルともセックスしないの」
レンは故郷に同い年の妻と、幼い息子が居るらしい。彼は18歳だけど、確かに落ち着いた様子で大人びている……気がする。
「ピュイアは特定の相手は居ないのね」
「うん。あたしはまあ、皆のオッパイだから!」
「…………あまり外では言わない方が良いわよそれ」
彼女達船の亜人は、船員という強い男性に守られている。集団で活動しているから、生存の為の夫を必要としないのだ。
私はずっと考えている。ルフェルに言われたことを。私が旅を続ける為の信頼できる男性の必要性を。
なんだかんだと話しながら、岬まで到着した。
流石観光名所か、人は多かった。この岬も広い。灯台のような建物は無く、あるのは長く続く柵と、それに囲まれた古い館。柵には立入禁止と書いてあり、人集りはそこで止まっていた。
「あの館が光るの? ……いえ、あれは魔力だった。誰か人が居るのね」
「うん。基本的に立入禁止だけど、気に入られたら入れて貰えるよ」
古そうだけど、大きい。2階建ての屋敷だ。
私達はいつの間にか、門の前まで来ていた。
「おーい! シャラーラ〜!」
ピュイアが、元気よく叫んだ。すると。
館の玄関がキィと開いて。中から女の子が出てきた。
裸だった。
ルヴィよりも濃い褐色肌に、身体中黒い縄のような刺青が走っている。地面に着くかというほどの長い髪は薄紅色で、まるで炎のように揺らめいている。
外見年齢は私と同い年くらい。つまり12〜3歳だ。
周りがざわつく。当然だ。どこから見ても、普通のニンゲンには見えない。この子は亜人だ。魔力がある。耳はニンゲンと同じだし、羽根も角も尻尾も無いけれど。
「ピュイアか。よく来たの。む。そやつは何じゃ?」
門の内側までやってきた彼女は、髪と同じ淡い紅色の瞳で私を捉えた。
「エルルだよ! 今一緒に航海してる友達!」
「! ほう……」
ピュイアの声が、大きい。
周りがまたざわついた。視線は私に向く。
「……あのオルスの」
「殺人エルフ……」
「あのハーピーの子は確か冒険者だったな。じゃあ警察もお手上げか……」
「今捕まえるか?」
「無理だろ。魔封具をしていない。魔法で殺されるぜ」
「亜人無罪かよ。亜人様は好き勝手できて良いよな」
殺人エルフ。
そのように、伝わっているのか。ニンゲンの間では。私に何があったのか、私がどうして人を殺したのかは、正確に伝わっていないらしい。
「あっ……」
「良いのよ。気にしないで」
ピュイアが何か言う前に私が制した。気にしていないのは本当だ。ピュイアは悪くない。先に、私が名を伏せたいと伝えていなかったのが悪い。
「……ふむ。取り敢えず入れ。中で話そうかの。エルル」
「!」
薄紅色の彼女が、門を開けて私達を招いた。
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