第9話 一般的な事実を前提とした疑問
オスは大きく強い。何と比べて? メスだ。
メスより小さく弱いオスも当然居るだろう。最も大きく強いメスなら、大抵のオスより強いだろう。けれど、今のルフの話は、そんな少数の例外の話じゃない。大多数の話だ。一般的に、大体、大概、オスはメスより大きく強い。
これ以降の話も全て、話の腰を折るような例外は考慮しなくて良い。だって私は、その一般的を知りたいのだから。
強いという定義も様々だけど、今回は単純な腕力のことを言っている。愚者である私でもそれくらいは分かる。
「生き物は、その目的を繁殖としています。増えること。永らえること。命を繋ぐこと。そうやって、遥か昔から、私達は生きてきました。種族によって平均寿命は違いますがね」
「うん」
「そして。ではどのようにして繁殖するのか。オスひとりではできません。メスひとりでもできません」
「つがいだけが、繁殖できる」
「その通りです。正確には、ヒト種などは婚姻をしなくとも繁殖する場合がありますが。……まあ、自然界ではそれもつがいと呼ぶでしょうけど」
私の胸は高鳴っている。ルルゥによる主観的な話じゃない。このルフは、客観的な説明が得意なんだ。より、真実に近い筈。
「良いですか。出会ったオスとメス。ふたりは繁殖したいのです。だから、つがいとなった。そして、厳しい自然界では問題がひとつ」
「……?」
クレイドリは、鳥類。卵生だった。
そうだ。エルフは。ヒト種は。
狐と同じ。胎生だ。
「妊娠と出産を行うのは、メスです。その期間、メスは無防備です。天敵に見付かれば抵抗できずに食われます。そんな時――」
「だからオスが守るんだ。自分の子を。それと、子を産んでくれるつがいを。自分で妊娠できない分、オスが強いんだ」
「正解です。エルル様」
ここまでは分かりやすい。誰でも分かる筈。オスの強さはメスや幼い子を守る為。家族を守る為。
「これが、原則です。オスとメスの、根本の、土台の、一番原初の関係性です。繁殖を目的として、全ての行動に繋がります」
「うん」
「そうして――数百万年。ヒト種は命のバトンを繋いで、生命を営んできました」
「うん」
殆ど無意識に、自分の腹を触っていた。ここだ。恐らく、ここなのだ。
いずれ宿る、私の雛。妊婦は実際に見たことがないけれど、ルルゥに貰った絵本で見た。あれが妊娠なのだ。肥満では無い。
まだ何も無い腹を撫でて、何故だか愛おしい気持ちになった。まだ存在していない命を、慈しんだ。私はいずれ。
母になる。つがいのオスはまだ居ないけれど。漠然と、そう思った。それこそが。
命の営み。受け継がれてきたバトン。生命の輪に、私も入りたい。この世に生を受けて、産まれてきた以上。次世代へ、バトンを。
「……ここまでが、生き物のお話。ここからは、ヒト種独自の、生命と性別の歴史です」
「うん」
メスのみで集まって、オスを入れないような社会を、ヒト種以外の生き物は形成しない。ここのような、男子禁制は、世界ではここだけだ。エルフだけ。ヒト種だけ。
私はそれが、不思議でならない。オスを締め出せば、増えないじゃないか。繁殖ができない。生命の前提、目的である繁殖が。
ルフは知っているのだ。その答えを。
「私は先程、オスがメスより強いと言いましたが……実はそれには語弊があります」
今。今日。
知る。
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