ジョルジとリリアンヌ

 何故なぜこの人が目の前にいる?!


「ジョルジ。今日から彼女が君の部下になる」

「よろしくお願いしますね。ジョルジ様」


 彼——ジョルジの目の前には一人の女性がいた。

 茶色い外套がいとうと白仮面を身に着けているが、彼には彼女が誰だか分る。

 横にれ出る長い金髪。開けられている目の部分には金色の双眸そうぼうがこちらを見つめていた。そして決定的だったのは変音していない『声』だった。


「彼女は――リリア、と呼んでくれ」

「リリアでございます」


 上司である男性の隣でその金髪をなびかせながら華麗かれい一礼いちれい

 ジョルジは「どうして」と思いながらも部下になってしまっては仕方ないとり切り、この無機質な木でできた部屋を一旦いったん出るのであった。


 ★


 最初はたんなる人助けのはずだった。

 困っている女性に声をかけ手助けする。なんてことない普通の善行ぜんこう

 あやしまれたら仕方ない。そうり切りながらおこなった善行ぜんこうだった。

 相手がリリアンヌでなければ『その日かぎり』で終わっていたはずだったが現実は非情ひじょうだ。


 ジョルジとリリアンヌが再開し数日後。


「あら、またお会いしましたね。ええ~っと……」

「ジョルジです。レディ」

「そうジョルジさん。あの時はありがとうございました」

「いえいえ、かまいませんよ。私が勝手かってにしたこと。お気になさらず」


 ここは王都カルボの大通り。

 バジルとはまた雰囲気ふんいきことなるにぎわいを見せている。

 王都の人もどこか浮ついた気分のようだ。


「あの後目的の方とお会いできましたか? 」

「ええ。おかげさまで」

「それは良かった。しかし今はどうしてここに? 」

「会えたのですが約束をたすことが出来なかったので、少し歩きながら考えていました。どうしたらたすことが出来るかと。そしたらジョルジさんが現れ……」

「なるほど。ならば私は力になれそうにないですね」


 可能ならば今ここから離れたいという強い思いからジョルジは少し強引に話の流れを変えようとした。

 が、それをリリアンヌは許さない。


「そのようなことはないですよ、ふふ。あ、そう言えば私、自己紹介をしていませんでしたね。私はリリアンヌともうします。以後いごよろしくお願いしますね」


 と言う言葉に違和感いわかんを感じたが「ここではなんですから」と言い話ながら町を歩く。

 誰がどう見ても恋人同士のように見える光景こうけいだ。

 ハンサムなジョルジに美人タイプのリリアンヌ。

 物語にしたらさぞえることだろう。


「このような事を聞くのは野暮やぼかもしれませんが、リリアンヌさんはその彼とどのような約束をされたので? 」


 なまじ彼女が探していた人物が自分と知っているジョルジとしては早めに切り上げどこかに逃げたかった。この質問で嫌われて逃げれるのならそれでよし。

 彼の頭の中で警報けいほうっている。

 早くそこから逃げるべきだ、と。

 しかし彼の性格せいかくがそれをおこなわせない。何かしら、何でもいいので理由を作ってから逃げるべきだと理性が言っている。


「簡単なお約束ですよ。そう簡単。しかし、その時おこなうのをうっかり忘れていたのでこうして再度探しているのです」

「で、その約束とは? 」

「『おやくに立つ』と。何かしら恩返おんがえしをしたいのですがどうしたらいいでしょう――


 言い切る前に彼は全力で反対方向へ逃げた。


 か。あらあら初心うぶですね。ジョルジ様」


 彼女のんだ――しかし狂気きょうきはらんだ瞳が逃げるジョルジをとらえていた。

 しかしこれはジョルジとリリアンヌの追いかけっこの始まりにすぎなかった。


 ★


「はぁはぁはぁ……どういうことだ。何故なぜ俺の場所がわかった」


 ここはジョルジがまれに使う小屋こや

 中は薄暗く何も置いていない。

 しかし誰もこの小屋こやを使ったり襲ったりする様子はない。

 認識阻害系統の魔法が使われて他の人には普通の夫婦がさぞ仲睦なかむつまじくごしているかのように映るようになっているからだ。


「今日は不運だった、そう思うしかないな。今後動きには気を付けた方がいいい」


 そう独りとこいた。


 チュンチュンチュン、と朝のおとずれを知らせる小鳥ことりの声がする。

 ジョルジは――場所が違うが――いつもどおりに起きようとした。

 が、人の気配がする。

 甘くいい匂いだ。そう。まるでそこに女性がいるかのような——


「あら、お目覚めざめですかジョルジ様」


 瞳を開くとそこにはリリアンヌの瞳があった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」


 そして小屋こやから物凄いいきおいで逃げた。


 町の大通りを歩いていると――


「あら、ジョルジ様」


 後ろから気配無く声をかけてくる。

 疲れている。そう「疲れているから辿たどられるんだと思い」久々ひさびさ風呂ふろに入ろうとすると――


「ジョルジ様、お背中せなかを流しますね」


 天井てんじょうから入ってくる。


「一体何なんだ! 」

「おう。珍しいな。ジョルジお前がれてるなんて」


 酒場でジョルジは同僚どうりょうと話していた。

 エールをぐびぐびと飲みながらガタン! とたたきつけるように置く。

 彼の目の前には大きな体の男性がおり「珍しい物をみた」というような目をジョルジに向けている。


「お前が荒れるなんて……。何があったんだ? 」

「それが……」

「グラスが空いてますね、おぎいたしましょう。ジョルジ様」


 恐る恐る声がする方を見ると――


 そこにはリリアンヌがいた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! 」


 ジョルジは一人さけびながらこの場を離れた。


「ふふふ、お待ちになって……」


 そう言い男性の目の前から消えるようにジョルジが向かった先へ彼女は移動した。


「おい……。大丈夫か、あいつ」


 ★


 そして冒頭ぼうとうに戻る。


「ここまでついてきてしまったのは仕方ない。私公しこう分別ぶんべつはしてくれ」

「もちろんです」


 最早あきらめの境地きょうりである。

 仮面で隠れて見えないがジョルジの顔は最早もはや『無』に近いだろう。


「今月何があるか、知ってるか? 」

「はい。カルボ王国第一王子エレク・カルボ殿下の十五の誕生祭たんじょうさいですね」

「そうだ」

「我々はカルボ王国に対する敵対国の情報収集ですか? 」

「いや、違う。あくまで我々は冒険者ギルドの者だ。よって他国から来る冒険者達の情報収集だ」


 今回の任務にんむについてジョルジがリリアに説明している。

 小屋こやを出た彼らは歩き、とある宿をとっていた。

 もちろんのこと盗聴とうちょう等の対策たいさくはしてある。


「王都に入る他の領地の冒険者、他国の冒険者には色々な者がいる。人によっては不正や違法なことを行う者がいるだろう」


 それを聞き少しリリアは顔を暗くした。

 彼女も身におぼえがある事だからだ。


「よって王都に集まる冒険者をひそかに統制とうせいし必要ならば武力で抑えることが今回の任務になる。異論いろんは? 」

「ありません」


 こうしてジョルジとリリアンヌのペアがまれるのであった。

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