第四十九話 依頼を受ける日々 一 猪狩り

 俺達は木々を分けながら山を進んでいる。

 ここは北の山近くのおかだ。


「このあたりだよね」

「ああ、ケイロンの情報通りならこの辺だ」

「だけど足跡あしあとが……」

「これは仕方ない。それだけいるってことだ」


 多くの巨大なひづめあとと小さな人の足跡あしあとを見て、ケイロンの表情がくもる。


「これじゃどこにいるのか分からないね」

「いや、そうでもないぞ」

「どういうこと? 」

けものの臭いでわかる」

「どんな嗅覚きゅうかくしてるの……」

「え? こんなものじゃないか? 」

「少なくとも僕にはわからないね」


 目的の動物——イノシシを探して周りに注意を払いながら山の中を進む。

 今はFランク依頼の【イノシシの討伐と搬入はんにゅう】、つまり肉の仕入しいれだ。

 以前はいつもってあった【ゴブリンの討伐もしくは探索】と同様この依頼もつねってある。

 東の山とは違いこちらはモンスター暴走スタンピードの影響を受けていないため、いくらでも受けれる。


「デリク、大丈夫? 」

「あ、あぁ……それに自分が言い出した子だしな」


 ケイロンが俺の方を見て心配そうに聞く。

 やはり昨日の悲鳴が気になったのかもしれない。


 コキリ、と肩を一回転させらす。

 魔力操作に加え、ガルムさんの脳筋的なトレーニングのおかげで体が痛い。

 しかし不思議なことに次の日、体調が悪いということはないから不思議だ。


「ま、特訓の事もあるがそれとは別に慎重にいこう」

「そうだね。ランクが上がったからと言って無理は良くないね」

「それに上がったからと言ってバジルの町にEランクの依頼が多いかと言えばそうでもないし」

「バジルの町はD以上が多いから仕方ないよ」


 ギリッ! と木にナイフで傷をつけ、しるしをつける。

 前を向き臭いを確かめて進む。


「さ、無駄口はここまでだ。来る」

「了解」


 俺は言葉と共に長剣ロングソードを構え、ケイロンは細剣レイピアを抜く。

 立ち止まっていたらドドドドという音がし、俺達にイノシシの存在を知らせた。


「デカ……」

「でもやることは変わらない、っね! 」


 俺がその大きさに驚いているとケイロンがすかさず走ってくるイノシシの横に陣取じんどる。


「刺突撃!!! 」


 横に着いた、と思えば一瞬いっしゅんにして武技を発動させ細剣レイピアで首をす。


 ドゴン!!!

 ドンッ!!!


 ほんの少し首に風穴かざあないた後も動いていたが、すぐに倒れ込み絶命。


「凄い威力だな、ケイロンの武技は」

「そうでもないよ。なんならデリクもおぼえたら? 」

「……おぼえる前に訓練をこなさないとな」


 イノシシの後ろにある木まであなをあけたケイロンの武技を見てかわいた笑いしか出ない。

 イノシシの首もかなり分厚ぶあつかったはずなんだが……。

 その威力を見て若干じゃっかん引く。


「それにしてもおかしいな。武技ってこんなに威力あったっけ」

「……それは鍛錬たんれん仕方しかたが違うからだよ」

「そんなものか? 」

「そう。そんなものだよ」


 いやいやいや、と思いながらも笑顔の彼を見ると否定できない。

 武技、つまり武術気力活用法技術は汎用性はんようせいが高い。

 ケイロンの言う通りおぼえておいてそんはないだろう。

 だが体力をけずられる毎日を考えると、時間が取れるとは思えない。


「これでよし」

「何か前よりも筋力増強パワーライズの効果が強くない? 」

「まぁ使える魔力が増えたからな」

「デリクはデリクで僕の事を言えないねぇ」


 じーっとしたからのぞいてくるケイロン。

 彼の指摘してきを受けながらもイノシシさかさに向け、血抜ちぬきする。

 流石に身長の三倍程あるイノシシをそのまま持てるわけがないので周囲にある一番大きな木にくくけた。


「後はこれを下で待ってる人に渡せばいいんだよね」

「そうそう。ギルドの人が何人か来るはずだから渡して、俺達は次の獲物だな」


 血抜ちぬきも終わったところで筋力を増強したままそれを二人がかりで運び、山の下にいるギルド職員に受け渡すのであった。


 ★


 再度山にのぼっている。

 一日に何回ものぼるというのは中々にしんどい。


「ケイロン、大丈夫か? 」

「だ、大丈夫」


 しんどいのはしんどいが恐らく今のケイロン程じゃないだろう。

 山、とあるがどちらかというとおかだ。あまり斜面しゃめんかたむいておらず、そして頂上ちょうじょうまでの距離が長くない。

 そこまで山登やまのぼりにれていないのだろう。

 俺に迷惑をかけまいとしている様子がうかがえるのだが、これは潮時しおどきか。


「三往復おうふく目、か」

「僕は大丈夫だから」

「だが、かなり消耗してるぞ? 」

「そんなことないよ」

「この依頼はいつも張り出されてるし、切り上げるか」

「後一体くらいは……」


 強情ごうじょうなケイロンの表情を見て、考える。

 今日彼は筋力増強パワーライズ以外魔法を使っていない。

 魔力残量は大分だいぶあるはずだが体力の方が心配だ。

 怪我けがをしたらもともないし……。

 よし、戻るか。


 あせばむケイロンの顔を見ながら撤退てったいを決める。


「ケイロン、もど――「わぁぁぁぁ! 」「ドン!!! 」」


 戻ろう、と言おうとした瞬間体ごとき飛ばされた。


 ★


「痛ててて……一体、何が」

「おお、悪い悪い! どうやらき飛ばされて君にぶつかったようだ! ハハハ! 許せ! 」

「あ、あ、貴方は何をしてるんですか!!! 」


 重みを感じる体の上から声が聞こえる。

 頭がくらっとし、衝撃しょうげきの影響か前がぼやけて見える。

 どうやらケイロンが怒鳴どなっているようだ。


「一体何が」

「お、すまない。っと」


 何やらやわらかい感触かんしょくがしていたと思えば、それが退く。

 俺も頭を振りながら上体じょうたいを起こし、前を見る。

 が、まだぼやけているようだ。目をほそめて前を見る。


「オレの名前は『エルベル』! 『タウの森』のエルベルだ!!! 」


 目をこすり目の前が開けると――爆乳エルフが腰に手を当て胸を張りそこにいた。

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