第三十九話 銀狼の秘密 六 事の顛末

 俺達は今『銀狼』の一階に集まっていた。

 メンバーは俺とケイロン、ガルムさんとフェルーナさんそしてフェナであった。

 加えて俺の周りを飛びう半透明の青い小人のようなそれがいる。


 『ねぇねぇ、何深刻しんこくそうな顔してんのよ』


 あんたのせいで深刻しんこくそうな話になってんだ。

 少し自重じちょうしろ。


 『ねぇあんた私の事見えてるんでしょう? ちょっとこっちを見なさいよ! 』


 ひじを机につき、両手を組んだ状態で飛びう『それ』に冷ややかな目を向ける。

 というかみんな見えていない、いや声も聞こえていないのか?

 完全に小人の声を無視状態だ。


 フェルーナさんがけっしたように金色の瞳をこちらに向け口を開く。

 そして事の顛末てんまつを聞いた。


「この物件で宿を始め少し経ってからです。奇妙きみょうなことが起こり始めたのは」


 そうフェルーナさんが言うと隣でフェナがぶるぶると震えている。

 そしてその前で透けた小人がフェナの周りをぐるぐると回っていた。


「はじめは音だけでした」

「ふむ」

「それくらいなら大丈夫かなと思ったのですが、どんどんとひどくなり最終的には今日のようにものが浮いたりするようになって」

『いやぁどんどん面白くなって、テヘ』

「いやテヘじゃねぇよ!!! 」


 小人の声にツッコミを入れると「ひぃ! 」という声が隣からした。

 ケイロンがまだ震えている。

 ゴーストが苦手なのか? いやしかし依頼によってはゴースト――アンデット討伐もあるから怖がってたら大変なことになりそうなのだが。

 ま、まぁ今の所はいいか。話を進めよう。


「それで市場いちばの人達は吃驚びっくりしてたんですね」

「はい。後から聞いた話によると町でも有名な幽霊屋敷だったらしく」

「確かに安いとは思ったんだがな」

 

 そこで疑おう、ガルムさん。

 いやぁ予想外、みたいな顔をしてももう遅いですからね。


「アンデット退治なら何度もしてるのでどうにかなると思ったのですが」

「え? アンデットじゃないんですか? 」

「それが分からないのです。ゴースト、レイスのような『死神の輪廻りんね』から外れたような存在なら幾度いくどとなく倒したのですが」

「ま、見えない相手じゃどうもならんよな。ハハハ」

『なんてひどい人達なの?! そんなよこしな存在じゃないわよ?! 』


 ひどく傷ついたような表情を浮かべ、少し後退あとずさる小人。

 なら何なんだよ、お前は。

 何か特殊能力付きのモンスターにしか見えないぞ?


「しかしアンデリックさんは……視えているのですか? 」

「視えてるし、聞こえてますね……」

刮目かつもくしなさい! そしてあがめなさい! 』

「誰があがめるか!!! 」


 女性の姿をした小人があまりにもえらそうにするから、一人虚空こくうに向かってツッコミを入れてしまった。

 みんなが俺を見る目線が痛い。

 今の俺は多分不審者そのものだろう。

 不本意だが。


『そもそもここに住んでたのは私が最初よ? そこに入ってきて何様なにさまのつもり? それに不浄ふじょうなアンデットと間違えるなんて失礼にもほどがあるわ! 』

「なら何なんだお前は」


 憤慨ふんがいした様子を隠しもせず、顔をぷいっと向ける。

 しかし心なしか嬉しそうだ。

 言葉に返事がもらえるのが嬉しいのだろうか。


 俺が話が出来ることを知ってなのか、元々そうなのかわからないが物凄くテンションが高い。そして尊大そんだいだ。

 この感じどこかで……。

 あ、フェナか。見たことある感じだと思えば、あそこで震えているフェナの態度に似てるんだ。

 

 『いい事! 私は――精霊よ!!! 』


 ……。今なんて言った?


 ★


 全員落ち着いたことでフェルーナさんが一旦いったん水を持ってきてくれた。

 夜に起きたせいか、それとも動いたせいかのどかわく。

 いや、わかっているんだ。

 のどかわいている本当の理由が。


「フェルーナさん、ガルムさん。この……今までいたずらしてた小人なんですが」

「はい」

「おう、どうした? 」


 水を一口飲み、ゆっくりとうつわを置く。

 残った水に波紋はもんが出来る。

 この事実を、いや小人の世迷言よまいごとの可能性もあるが、伝えるべきか。

 言いかけた途中で、少し考える。


「何もったいぶってんだ? 」

「正体が分かれば討伐できるかもしれません。教えてください」

「「……」」


 ガルムさんとフェルーナさんは本気で討伐するつもりのようだ。

 フェナの方を見ると丸くなっていた。尻尾しっぽが体を包み、毛玉けだまのようだ。

 そして声を聞かなくなったと思い、隣を見るとケイロンは『無』の状態であった。

 恐怖を超え、また別次元へ旅立ってしまったようだ。


「では失礼して。この浮いてる小人は自分の事を精霊と言っています」

『ちょ、なによ! 本当の事よ! 疑ってんの?! 』

「「……」」


 俺が小人の言葉を伝えると同時に疑っていると思った彼女が抗議をしてくる。

 正直うるさいがその反面はんめんガルムさんとフェルーナさんが無表情で受付台の向こう側にある扉を潜り、出ていってしまった。


 そしてガルムさんは大剣を、フェルーナさんはロッドを持ってきて構えた。

 え? 何??? 俺まずいこと言った?!

 威圧感が半端はんぱないんですけど!


「アンデリックさん。精霊をうた不届ふとどきなアンデットはどこでしょうか? 」

「兄ちゃんよ、そいつぁいただけねぇ。会話出来ることからかなり強大なアンデットだ。それに加え精霊とうそぶるアンデットの話を聞くわけには行けねぇ。場所を教えな。見えなくても場所が分かれば討伐できる」

『ちょ、なにこの人達。目がマジなんですけど! それのアンデットじゃないんですけど!!! というか教えないよね? この状況で私を捨てないよね?! 』

「あっちです……」

「「せぇぇぇいやぁぁぁぁぁ!!! 」」


 二人の本気度に危機感をおぼえたのか後退あとずさ自称じしょう精霊。

 閃光せんこうと斬撃が飛びう中、目をましたケイロンと危機を察知さっちしたフェナをかかすみの方へ行き、事がむまで待つのであった。

 ま、本当であれ嘘であれ面白くなってこの宿の人達に害を与えたのは違いない。

 攻撃音がする方向から『止めてよぉぉぉ』と懇願こんがんする声を無視して、残りの水を飲みながら様子を鑑賞かんしょうするのであった。

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