YOLO~この人生、精一杯生きることにします~
紫泉 翠
一章 ヨルムンガンドの世界
第1話 副業ギルド職員の本業デバッカー
東京帝都大学の修士課程を中間くらいの位置で今年の春、無事に修了した。
今、話題を集めているフルダイブ式MMORPGのゲームソフト『ヨルムンガンド・オンライン』。
それを創り上げた日本の合同企業『株式会社ユメミライ』の一社員として、今は働いている。
それが、私ー
こちら側でと言ったからにはあちら側も、もちろんある。
それは、先ほどサラリと触れたゲーム『ヨルムンガンド・オンライン』内のことを指す。
等と考えながら、今日の仕事を終え、帰宅の途中でコンビニによって売れ残っている惣菜とビールを数本買った。買い物をしていたことで終電を逃してしまった。
「歩ける距離だし、久しぶりに夜風にあたって帰ろう。」
今宵は、一段と星がきれいに感じた。
大都会のビルを眺めれる少し小高い丘に建つおんぼろのアパートに着いた。
この一室が私の今の家だ。
ガチャ........
「ただいまー。ってまぁ、誰もいないんだけど。」
廊下を進み、リビングの電気をつける。
「相変わらず生活感あんまりないね。」
そうなのだ、この部屋には生活感が全然ない。大学時代から使っているのだが、必要最低限の家電や家具しか買わなかったし、もともと持ち物も少なかったということもある。つまり、ミニマニストかと言わんばかりのすっからかんの室内だ。
部屋着に着替え、先ほど買った総菜とビールを片手に部屋の一角に向かう。
そこには、この生活感の無さから一番かけ離れているかもしれないけれど、
巨大なデスクトップパソコンがシンプルなデスクに置かれていた。
机の上に手に持っていた物を置き、パソコンを起動させる。
キーボードを打つ音やマウスのクリック音が部屋に響く。
煌々と光るモニター画面がベランダの窓に反射する。
「そういえば、明日は土日だったね。つまり休みか。なら、久しぶりに遊びに行くか。」
ゲームのアプリを立ち上げた。そして、パソコンの左側にあるヘッドギアタイプの電脳モジュールに手を伸ばす。
装着して、一言。
『ダイブ・スタート』
そう言ったとたん、意識が落ちた。
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【ヨルムンガンド・オンライン/ワーディス王国・オデッセア】
「はぁ、まだこのダイブの感覚には慣れないな……。」
そう言いながら、寝ていたベットから起き上がる。
一通り身体を動かしてみる。
「うん、今回もバグ無し、と。」そう言いながら、メニューウィンドウを呼び出し、チャット機能に今の時刻と『立ち上がりの際、バグがなかった』という旨のメモを残す。チャット機能はダイブしていなくても見れて、連絡手段として重宝されている。
毎度ダイブした際、バグを確認してしまうのは本職の
とまぁ、本職のことはいったん置いておいて、こちら側での仕事ー副業をしに行きますか。
現実の部屋とは正反対でこちらの部屋は、ベット以外の場所を副業関係の書類や書物、魔導書や魔道具が散乱している。
その間を縫って部屋の外に出る。
ゲーム内の時間は現実世界の時間とリンクしているので、今も星が瞬いていた。
その星の光を頼りに、仕事場へ向かう。
私の仕事場はこのオデッセアにあるギルドである。
私はそこで職員として働いている。
まぁ、それは私のスキルと本職が関わって来る。
カララン……。
ギルドの扉を開けて、中に入ろうとすると
「ソーンちゃ-ん!!!! 久しぶりー! しばらく来てくれなくてこっち大変だったんだよ?」と私に抱きつき半泣き状態の金髪ツインテールの少女が物申したげに、こちらを見ている。
「やぁ、アスナ。現実の方が最近忙しくてね。ごめんね。」
と私、こちらの世界では【ソーン】という名前、が答える。
「まぁ、仕方ないよね。最近このゲーム、アプデが多かったもんね。会社の人も大変だったんじゃない?」と揶揄してくる。
彼女は私のこちら側での同僚ーアスナ。名前のもとはあの有名なVRMMORPG系のラノベ・アニメのヒロインだ。
私の場合は、ロシア語で「夢」という意味の単語。なんでロシアかというと……。
それはまたの機会に。
「私はそこまでだよ。システム作るわけじゃないんだし。しいて言うなれば、これからの方が大変だよ。何か問題があったら、それを治さないといけないんだから。」
「あー、そっかー。ソーンちゃんは、システムの方じゃなくて、バグを治す方だっけ?名前忘れたけど。」
「デバッカーね。」とアスナを引き剝がしながら、いつもの定位置ー受付の裏側へ行く。
歩く途中で、制服に着替える。衣装の変更は簡単だ。そういう点では現実世界よりも便利である。
席に着いたら、先程まで受け付けの前にある雑談スペースで仲間と吞んでいたらしい男の人がこちらにやってきた。
ちなみに、こちらで飲酒しても本体の体にはアルコール成分などは作られない。
つまり、まとも(
「よう、ソーン。ちょっといいか?」
「うん。ああ、ローランド?久しぶり、どうかした?」
「ああ、ちょっと相談があるんだ。これはギルド使用者としてではなく、ゲーム利用者としてな?」
「あー、はいはい。何があった?この前行くって言ってた新クエストでの事?」
ローランド、ギルド内で指折りの強豪チームのリーダーで、ギルド内にあるバーの常連客だ。ローランドの一言で脳内を本業モードに切り替える。
「おう、そうだ。裏道あったぞ。入り口入って右側の壁に……。仲間の一人が寄りかかってたら見つけた。」
「まじか。報告ありがとう。あとで治しとくね。」
「ああ、頼むぜ。システム作る時に出来たんだろうが、ちゃんと潰しといてくれよな?こんなのあったら皆使っちゃうからな。」と笑いながら手をあげて仲間のもとへ帰って行く……。
「ローランド!時間と場所とその時のメンバー、改めて教えて。」
のを、呼び止める。仕事の際必要なのだ。
「ああ、悪い悪い。忘れてた。」
ローランドの話す内容をまたチャット欄にメモする。
こちら側の仕事があらかた終わったら、落ちて治さないと。
はぁ、休みなのに仕事しないといけなくなったな。
ゲームに来なかった一週間の間に溜まっていた書類の受理や、鑑定を行う。
書類の受理は誰でもできるのだが、鑑定は出来る人が限られている。
しかも、私の場合は少し特殊だからだ。物凄く重宝されてしまっている。
私のスキル【SA-万能鑑定眼】は、誰でも使える生活系スキルの【鑑定】スキルで選択できる、全てを鑑定することができる。というものだ。
つまり、見たものを何でも鑑定することが可能ということ。人権的に良いのか分からないが、人のスキルや装備なども分かることができる。
ちなみにSAというのはスペシャルアビリティ。つまり、レアスキルということ。
このスキルはゲーム内で、私を含め5人使用者がいる。
そういえば、ご飯食べてなかったな。おなか減ってきた……。
一旦落ちるか。そんなことを考えていた。
その時、アスナが後ろを通る。
「あ、アスナ。今からご飯食べてくるから、一旦仮眠室で落ちるね。」
「OK!了解。いつくらいに戻る?」
「あー、そうだね。少し仕事できたから、それ治してからだから長くて三時間くらいかな?まあ、戻る時にチャット入れるけど。」
「おー、早ーい!さすが、初期メンバー。」
「はいはい。一旦落ちるね。」
ギルドの関係者以外立ち入り禁止の部分にある仮眠室。
一時的に落ちるときによく使っている。
メニューウィンドウを呼び出し、下の方にあるログアウトボタンを押す。
また、意識が落ち現実に戻る。
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「初期メンバー、ね」
現実に戻り、只今ベランダで夜ご飯を食べている。
アスナに言われたことが少し引っかかっている。
確かに、ゲームのシステム設計に初期から関わってきてはいるが……。
その不安を押し流すように缶ビールを開け、一気に口に流し入れた。
先程まで綺麗に見えていた月が雲に隠れかけていた。
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