YOLO~この人生、精一杯生きることにします~

紫泉 翠

一章 ヨルムンガンドの世界

第1話 副業ギルド職員の本業デバッカー

 東京帝都大学の修士課程を中間くらいの位置で今年の春、無事に修了した。

 今、話題を集めているフルダイブ式MMORPGのゲームソフト『ヨルムンガンド・オンライン』。

 それを創り上げた日本の合同企業『株式会社ユメミライ』の一社員として、今は働いている。


 それが、私ー円満井 望ままい のぞみ、25歳のでのこれまでの人生。


 でと言ったからにはも、もちろんある。

 それは、先ほどサラリと触れたゲーム『ヨルムンガンド・オンライン』内のことを指す。


 等と考えながら、今日の仕事を終え、帰宅の途中でコンビニによって売れ残っている惣菜とビールを数本買った。買い物をしていたことで終電を逃してしまった。

「歩ける距離だし、久しぶりに夜風にあたって帰ろう。」

 今宵は、一段と星がきれいに感じた。


 大都会のビルを眺めれる少し小高い丘に建つおんぼろのアパートに着いた。

 この一室が私の今の家だ。


 ガチャ........

「ただいまー。ってまぁ、誰もいないんだけど。」

 廊下を進み、リビングの電気をつける。

「相変わらず生活感あんまりないね。」

 そうなのだ、この部屋には生活感が全然ない。大学時代から使っているのだが、必要最低限の家電や家具しか買わなかったし、もともと持ち物も少なかったということもある。つまり、ミニマニストかと言わんばかりのすっからかんの室内だ。


 部屋着に着替え、先ほど買った総菜とビールを片手に部屋の一角に向かう。

 そこには、この生活感の無さから一番かけ離れているかもしれないけれど、

 巨大なデスクトップパソコンがシンプルなデスクに置かれていた。

 机の上に手に持っていた物を置き、パソコンを起動させる。

 キーボードを打つ音やマウスのクリック音が部屋に響く。

 煌々と光るモニター画面がベランダの窓に反射する。


「そういえば、明日は土日だったね。つまり休みか。なら、久しぶりに遊びに行くか。」


 ゲームのアプリを立ち上げた。そして、パソコンの左側にあるヘッドギアタイプの電脳モジュールに手を伸ばす。

 装着して、一言。

『ダイブ・スタート』

 そう言ったとたん、意識が落ちた。


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【ヨルムンガンド・オンライン/ワーディス王国・オデッセア】

「はぁ、まだこのダイブの感覚には慣れないな……。」

 そう言いながら、寝ていたベットから起き上がる。

 一通り身体を動かしてみる。


「うん、今回もバグ無し、と。」そう言いながら、メニューウィンドウを呼び出し、チャット機能に今の時刻と『立ち上がりの際、バグがなかった』という旨のメモを残す。チャット機能はダイブしていなくても見れて、連絡手段として重宝されている。


 毎度ダイブした際、バグを確認してしまうのは本職のさがだろう。

 とまぁ、本職のことはいったん置いておいて、こちら側での仕事ー副業をしに行きますか。


 現実の部屋とは正反対でこちらの部屋は、ベット以外の場所を副業関係の書類や書物、魔導書や魔道具が散乱している。

 その間を縫って部屋の外に出る。


 ゲーム内の時間は現実世界の時間とリンクしているので、今も星が瞬いていた。

 その星の光を頼りに、仕事場へ向かう。

 私の仕事場はこのオデッセアにあるギルドである。

 私はそこで職員として働いている。

 まぁ、それは私のスキルと本職が関わって来る。


 カララン……。

 ギルドの扉を開けて、中に入ろうとすると

「ソーンちゃ-ん!!!! 久しぶりー! しばらく来てくれなくてこっち大変だったんだよ?」と私に抱きつき半泣き状態の金髪ツインテールの少女が物申したげに、こちらを見ている。

「やぁ、アスナ。現実の方が最近忙しくてね。ごめんね。」

 と私、こちらの世界では【ソーン】という名前、が答える。


「まぁ、仕方ないよね。最近このゲーム、アプデが多かったもんね。会社の人も大変だったんじゃない?」と揶揄してくる。


 彼女は私のこちら側での同僚ーアスナ。名前のもとはあの有名なVRMMORPG系のラノベ・アニメのヒロインだ。

 私の場合は、ロシア語で「夢」という意味の単語。なんでロシアかというと……。

 それはまたの機会に。


「私はそこまでだよ。システム作るわけじゃないんだし。しいて言うなれば、これからの方が大変だよ。何か問題があったら、それを治さないといけないんだから。」

「あー、そっかー。ソーンちゃんは、システムの方じゃなくて、バグを治す方だっけ?名前忘れたけど。」

「デバッカーね。」とアスナを引き剝がしながら、いつもの定位置ー受付の裏側へ行く。


 歩く途中で、制服に着替える。衣装の変更は簡単だ。そういう点では現実世界よりも便利である。

 席に着いたら、先程まで受け付けの前にある雑談スペースで仲間と吞んでいたらしい男の人がこちらにやってきた。


 ちなみに、こちらで飲酒しても本体の体にはアルコール成分などは作られない。

 つまり、まとも(素面しらふ状態)である。


「よう、ソーン。ちょっといいか?」

「うん。ああ、ローランド?久しぶり、どうかした?」

「ああ、ちょっと相談があるんだ。これはギルド使用者としてではなく、ゲーム利用者としてな?」

「あー、はいはい。何があった?この前行くって言ってた新クエストでの事?」


 ローランド、ギルド内で指折りの強豪チームのリーダーで、ギルド内にあるバーの常連客だ。ローランドの一言で脳内を本業モードに切り替える。


「おう、そうだ。裏道あったぞ。入り口入って右側の壁に……。仲間の一人が寄りかかってたら見つけた。」

「まじか。報告ありがとう。あとで治しとくね。」

「ああ、頼むぜ。システム作る時に出来たんだろうが、ちゃんと潰しといてくれよな?こんなのあったら皆使っちゃうからな。」と笑いながら手をあげて仲間のもとへ帰って行く……。


「ローランド!時間と場所とその時のメンバー、改めて教えて。」

 のを、呼び止める。仕事の際必要なのだ。

「ああ、悪い悪い。忘れてた。」


 ローランドの話す内容をまたチャット欄にメモする。

 こちら側の仕事があらかた終わったら、落ちて治さないと。

 はぁ、休みなのに仕事しないといけなくなったな。


 ゲームに来なかった一週間の間に溜まっていた書類の受理や、鑑定を行う。

 書類の受理は誰でもできるのだが、鑑定は出来る人が限られている。

 しかも、私の場合は少し特殊だからだ。物凄く重宝されてしまっている。

 私のスキル【SA-万能鑑定眼】は、誰でも使える生活系スキルの【鑑定】スキルで選択できる、全てを鑑定することができる。というものだ。


 つまり、見たものを何でも鑑定することが可能ということ。人権的に良いのか分からないが、人のスキルや装備なども分かることができる。

 ちなみにSAというのはスペシャルアビリティ。つまり、レアスキルということ。

 このスキルはゲーム内で、私を含め5人使用者がいる。

 そういえば、ご飯食べてなかったな。おなか減ってきた……。

 一旦落ちるか。そんなことを考えていた。


 その時、アスナが後ろを通る。

「あ、アスナ。今からご飯食べてくるから、一旦仮眠室で落ちるね。」

「OK!了解。いつくらいに戻る?」

「あー、そうだね。少し仕事できたから、それ治してからだから長くて三時間くらいかな?まあ、戻る時にチャット入れるけど。」

「おー、早ーい!さすが、。」

「はいはい。一旦落ちるね。」


 ギルドの関係者以外立ち入り禁止の部分にある仮眠室。

 一時的に落ちるときによく使っている。


 メニューウィンドウを呼び出し、下の方にあるログアウトボタンを押す。

 また、意識が落ち現実に戻る。


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「初期メンバー、ね」

 現実に戻り、只今ベランダで夜ご飯を食べている。

 アスナに言われたことが少し引っかかっている。

 確かに、ゲームのシステム設計に初期から関わってきてはいるが……。

 その不安を押し流すように缶ビールを開け、一気に口に流し入れた。


 先程まで綺麗に見えていた月が雲に隠れかけていた。

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