15話-嘆きの剣と鎮魂歌(3/3)

「エル!出来たぞ!」


工房から店にもどると呆れ顔のエルに出迎えられる。


「旦那、いつまで籠ってるんすか・・・ほら。どうせ食べてないんでしょ?買ってきてありますよ」


「悪い悪い。だがなかなかの出来だろ?」


ドミニクは一度集中し始めると食事もとらず作業を進める。

エルも同じようなものなので似た者同士だ。

差し出された食事をとりながら出来立てほやほやの剣を見せつける。


総金属製のロングソードにはまだ一切の装飾がされていない。

だがそれでも十分なほどの美しさがあり、琥珀色の金属は青い光を湛える。

潤いがありみずみずしさを感じ、手にすると重心が手元にあり重さを感じない。


うん。いい剣だ。ここから先は僕の領分である。

奥の作業部屋に移動する。

今回は夜間ではなく太陽の力の強い日中に行う。

作業台ではなく床で直接。

部屋の中心には聖水で満たされた大樽。

正体は浄化までの間、剣を漬けていた聖水である。

濁っていた聖水は浄化されたことにより澄んだ色を晒す。

この中にエレクトラムの長剣と浄化して出来た属性石と化した短剣を沈めるのだった。

元々魔を退ける効果の高いエレクトラムに聖なる属性の短剣を属性石の代わりとして使い、魔に対する特効武器を造るのである。

触媒としての聖水。本来エルの魔力は取り込み続けた負の魂により闇寄りの属性であるが、込めた魔力が浄化により聖属性へと変化しているので都合がいい。


床に魔法陣を描き、神代の文字で神話を綴る。

それは魔を打ち滅ぼした神と英雄達の物語。

終わりとはじまり。神が消えることになった話でもある。

願いと祈り。それを描き上げ術式を起動する。

目指すのは魔を打ち滅ぼす聖なる剣。

何時か訪れるかもしれない魔の到来に備えて。


魔法陣から白く輝く文字が宙へ踊りだすと、それは光の奔流となり樽の中へと向かう。樽の中には剣の形をした属性石が聖水に溶け出し形を失うのだった。

その聖水は渦を巻き、周りの文字を巻き込みながらエレクトラムの剣に吸い込まれていく。

暫くすると光が収まり部屋には静寂が戻る。


樽の中には一本の長剣。取り出し掲げると青く光っていた剣は強い白の輝きを湛え、強い神聖さを感じる。

刀身には神話がびっしりと書き込まれ文様のようになっている。装飾のする隙間もないほどに。

出来上がった剣は現存がかなり珍しい聖属性の剣。

それも強力な聖属性の付与された、所謂聖剣というものだ。

ダンジョン産で偶に発掘されるがここまでの属性を帯びたものはまず出てこない。

そもそもに属性石など本来、小粒な胡桃くらいのものだ。大ぶりなナイフのような大きさの属性石など奇跡でしかない。

それをエンチャントに使ったのだ。この結果は当然と言える。

精霊は宿していないがこれ程の剣だ。放っておいても勝手に精霊の方からやってくる。今も精霊が集まり光の塊のようになっているのだ。

精霊を武器に入れることで恩恵を受けることが出来るが共にあるだけでも力は貸してくれる。

ならばこのままでも構うまい。どうしても必要になれば宿せばいいのだから。


「旦那!出来たっすよ!」


ドミニクに見せびらかしに戻るとほれ見たことかという視線が向けられる。


「やっぱお前も飯食わずにやってたじゃねーか。ホレ、飯だ」


「いやはや面目ないっすね!もぐもぐ。でもいい出来だと思わないっすか?」


用意されていたご飯を頬張りながら出来上がった剣を見せる。


「ほぉ・・・こりゃすげぇな・・・元々強かった聖属性が比べ物にならんほど強くなってやがる。時代が時代なら勇者の剣にでもなっただろうよ」


ドミニクは鑑定眼鏡をかけながらそう評する。


「そうっすねぇ。そこを目指したので旦那にそう言ってもらえると嬉しいっすね!今は勇者も居ないっすけど先代、先々代の勇者が持ってた聖剣よりは確実に強力な自信があるっすよ!

先代のはエレクトラムにミスリルコーティングしただけのなんちゃって聖剣でしたし」


「まぁなぁ。あれはドワーフの国で打った剣だからレシピも残ってるし金さえあれば普通に作れるわな。

それで装飾やら鞘なんかはどうする?何か考えてる物でもあるか?」


特に考えていたものも無く、センスもドミニクの方がいいので任せる事にする。

そして数日後、出来上がった剣は白を基調として金と緑で装飾されていた。

鞘に収まっている状態でも美しい。店に並べれば確実に人の足を止めることだろう。


「さすが旦那っすね!バッチリっすよ!いやぁ、いい剣が出来たっすね」


「だなぁ。ここまでの出来になるとは思わなかったぜ。それでコイツはどうするんだ?かかった金額はお前の給料から差っ引くが」


「お金はまぁいいとして、店に並べて非売品と言っても間違いなくトラブルの元になりそうなんすよねぇ。

オリハルコンの欠片なんてお金で買えるものでもないですし。・・・やっぱり王様に献上っすかね?」


「マジかよ!まぁ、個人で所有するには高価すぎるし王家か貴族、教会行きくらいしかないしな。

その中なら王家が一番無難だろうよ。ここの治世は上手い事やってくれてるし税金でも多少免除してもらえれば御の字だろ」


「ですねぇ。また魔族の王を名乗るヤツやら魔物が溢れた時にでも使ってもらいましょう。王家に憑いてる強力な光の精霊もいるので相性もいいですし」


エルのコネと第三騎士団団長のチャールズへの伝手を使いこの国の王へ献上をすることで掛かった資金以上に回収することが出来た。

当然オリハルコンは帰ってこないが代わりに王家が所有していた希少金属を譲り受けることに成功する。

この功績により王都へドミニク武具工房の名が広まるのだった。

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