移動手段を確保しよう
食材や調味料を買い込み、野営に必要な物を一式揃えたところで、どうやって王都から出るか考えた。
(一番入国し易くて治安の良い国ってどこ?)
(ヴェルディ国です。しかし、移転魔法は一度訪れた場所でないと使用出来ません。)
そう都合良く物事が進むわけないよな。
ヴェルディ国まで行くなら、南下してカンタック国を抜けて海路を使って移動する必要がある。
(
女神レアを祀る宗教国家か。
国土は小さいが、世界中に多くの信者が存在している。
レイア市国に喧嘩を売ろうものなら、治癒師が挙ってその国を去るだろう。
出国するという目的を達成するなら、北方神聖教会はありだな。
(レイア市国までの移動は、どれくらいかかる?)
(馬車で凡そ十日になります)
(その間に、関所を封鎖される可能性はある?)
(封鎖される確率48%、追手に追いつかれる可能性91%です)
リリスの記憶から鑑みて、あの三馬鹿の誰かが追手を放つだろうと予測はしていた。
馬車で逃げても高確率で追手と遭遇してしまう。
冒険者を雇うか?
追われる人間の警護を請け負う冒険者は、正直信用ならない。
馬を買ったところで、駿馬ではダメだ。
持久力と速度を兼ね備えた馬出ないと、確実に追い付かれてしまうだろう。
(ググル先生、馬車より早く移動できる手段ってないの?)
(では、騎獣を購入される事を推奨します)
騎獣か、それは考えていなかった。
乗馬は嗜み程度しか出来ないのだが、大丈夫だろうか?
(問題ありません。私が自動で身体を動かします。騎乗スキルが取得出来れば、移動速度も上がります)
流石、学習型自立AIググル先生!
頼りになる。
そうと決まれば、騎獣を扱っている店で買い物だ。
ググル先生に道案内して貰い騎獣を扱う店を訪れた。
平民街と貴族街の境目にあり、獣特有の臭いがする。
店先には、木箱に卵が陳列している。
「いらっしゃい! 嬢ちゃん、卵が気になるのかい?」
「随分と安いけど、何の卵なの?」
「それは、孵化させてみてからのお楽しみさ。大体は、小型魔物の卵だな。時々、値の張る魔物も混じっているんだぜ。どうだい、一つ買わないかい?」
「騎獣を買いに来たの。まずは、どんな騎獣を扱っているのか知りたいわ」
そう断ると、店主はカラカラと笑った。
「オーソドックスなのは双角馬だな。価格も手頃だが、コストが掛かる。速度は、普通の馬より少し早い程度だ。次にヒポグリフ。グリフォンより劣るが、突進による粉砕攻撃は硬い岩も砕く。かなりの速度で飛行することも出来るが気性が荒い。猪獣トゥルイス、頭は良いが走り出したら止まらない性質を持っている」
碌なのが居ねぇ!
こっちは、命が掛かっているのだ。
もっと良い騎獣を紹介して欲しいものだ。
「因みにお値段は?」
「双角馬が金貨十七枚、ヒポグリフは金貨五十枚、トゥルイスが金貨三十三枚だな」
所持金が金貨二十四枚弱なので、双角馬しか買えない。
普通の馬より早いと言われても、軍馬を差し向けられたら確実に追い付かれる。
個人的に飛行出来るヒポグリフが欲しいが、金貨五十枚は持っていない。
(ググル先生、手持ちの宝石を代金替わりに渡すのはあり?)
(否。宝石から足がつきます。双角馬・ヒポグリフ・トゥルイス以外に、部屋の奥に魔物の成体と思われる生命反応が確認できました。騎獣が他に居ると推測します)
「ねえ、店の奥に訳ありの騎獣がいるでしょう? それは、幾らなの?」
私が問いかけると、店主はギョッとした顔をしている。
「どこで聞いたか知らないが、あれを買おうってのかい?」
「候補の一つではあるかな。見たいんだけど」
あれと言われてもサッパリだが、実際に見て無理と思ったら買わなければ良い。
店主は小さく唸った後に、
「まあ、見るだけなら」
と奥の部屋に通してくれた。
店内とは異なり、悪臭が鼻に着く。
劣悪な環境なのかと思ったが、檻の中は清潔に保たれており、その中に入っている騎獣達の健康状態は良い。
しかし、奥に進むにつれて悪臭が強くなってくる。
鼻を摘まんでも臭い。
目に涙が浮かぶ。
汚物にまみれたグリフォンが、こちらを威嚇するように唸っている。
「何故、あの子の部屋だけ汚いんですか?」
「あれは、卵から孵化させたグリフォンだ。孵化させた者にとても懐いていたがなぁ。飼い主が金に困って俺の店に売ったんだ。グリフォンだから買い手も直ぐ見つかったが、売った先々で問題行動を起こして直ぐに返品されちまう。持て余してんだ。今では孵化させた者ですら近付くことは許されず、遠くから餌を投げ入れる事しか出来ずにいる。部屋は、御覧の有様さ」
親と呼べる相手が、金欲しさにグリフォンを手放したのだ。
憎しみを持つのは、至極当たり前の感情だ。
しかし、この状況はグリフォンにとっても店にとっても良くない状況である。
「因みに幾らなの?」
「金貨八枚だ」
「この子を買うわ」
(ググル先生、この糞尿塗れの部屋を綺麗にすることは可能?)
(可能です。生活魔法【清掃】を実行しますか?)
(YES)
グリフォンに向けて手を翳し、清掃魔法を行使した。
部屋もグリフォンの身体も綺麗になった。
私の行動が予想外だったのか、グリフォンは威嚇も忘れてポカーンとしている。
「間抜け面になっていてよ。貴方、そんな狭い場所で一生を過ごすつもり? わたくしについてくれば、一生美味しいものを食べさせてあげてよ! 退屈とは無縁の生活を送らせてあげるわ」
私の
これは、私の
「グリフォンが頭を垂れるなんて……」
「さあ、この子を出して頂戴」
「う、う~ん……」
綺麗になったグリフォンを見て、売るのが勿体なくなったのか店主が渋い顔をしている。
「私が買わなかったら、この子は一生売れ残るわ。そうなれば、悪臭でお店が潰れて路頭に迷うかもしれなくてよ」
「あー、分かったよ! 金貨八枚で売った!!」
若干やけくそ気味な店主に、私は金貨八枚を支払った。
「この子に合う手綱と鞍を見繕って頂戴。店頭で売っている卵を一つ買うわ」
「手綱は金貨一枚、鞍は金貨二枚、卵は銀貨三枚だ」
金貨十一枚渡すと、銀貨七枚のお釣りとグリフォンの売買契約書を受け取った。
「大人しくしているのよ」
グリフォンの首をポンポンと軽く叩き、店主に鞍と手綱を着けて貰う。
その間、私は鑑定眼で卵をじっくりと見た。
殆どがトカゲや蜘蛛・鳥などの小さな魔物だが、一つだけ鑑定不能と表示される卵があった。
(鑑定不能ってどういうこと?)
(
(そんなもん分かっとるわ)
(恐らく、上位種の卵と推測されます)
その線は、考えていなかった。
何が生まれるか分からないが、これは買いだな。
「じゃあ、この卵にする」
卵は、ここに来る前に露店で買った肩掛け鞄に入れる。
手綱と鞍を装着したグリフォンを受け取り、私はその背中に乗り白昼堂々と王都を空から脱出した。
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