デスゲーム1日目~人狼編④~


「ねえ……どうするの?」


 マドカが声を震わせる。


 頭上からの声は止み、各自が席を離れ近しい人間と固まっている。私たちのグループ・エリのグループ・そして一人孤立する水瀬マキという構図だ。私たち以外にも参加者はいるようで、名札には山本エリ・山内シオリ・吉澤カオリと書いてある。見たことは無いが、うちの制服を着ているので同じ学校に所属をしているのだろう。


「どうするも……勝つしか無いでしょ」


 苦虫を嚙み潰したような顔で私は言う。


「勝つって……これ人狼だよ!?」

「私たちが全員村人陣営なら勝てるでしょ」

「そうだけど……」


 我ながら苦しい嘘だ。私に与えられた役職は狂人。理想的な勝ち方をしたとして生き残れるのは3人。つまり、仮にここに人狼が集まっていたとしても誰か一人は殺さなければならない。


「あの~すいません」


 後ろから声がした。山本エリのグループにいた吉澤カオリという女だった。


「その、1回全員で会議をしませんか?」

「……そうね、このままじゃ話が続かない」


 円卓には、既に山本エリのグループと、水瀬が座っていた。



 ~~~~~~~


「じゃ、会議しよっか~~」


 エリが明るい口調で切り出した。いかにもなギャルという見た目から想像通りのテンションでこられたので少し警戒心が薄れた。


 まあ、山女は偏差値低いからな……こんなギャルがいてもおかしくない。


「進行役は私でいいのかな?そちらのグループが進行してもいいけど?」


 皆の視線がこっちに集まる。


「……いえ、大丈夫」

「そ。なら僭越ながらウチが進行するね~☆」


 命が懸かっているようには思えないテンションだ。山本エリ、要注意人物かもしれない。


「えーっと、じゃあまず占い師の人~!」


 沈黙が流れる。当然だ。最重要役職であるが故に一番噛まれやすいポジションにいるのが占い師。まず占い師が名乗り出て会議を進めるのがセオリーだが死と隣り合わせな状況だと出ずらいだろう。


 いや、なら私が占い師として名乗り出れば……

 しかし真占い師が出た時吊り進行にでもなれば……


「は、はい……」


 思考を巡らせているうちに、占い師が名乗り出た。手を挙げていたのは……水瀬マキだった。


「あ?テメェかよ!」


 エリカが声を荒げる。


「ん?お知り合い??」

「……あんたには関係ねえ」

「関係ないこと無いでしょ~☆あと、エリちゃんって呼んでね」

「ケッ……」


 エリカは昔から喧嘩早い。しかし、そのエリカをなだめるとは……

 いや、それよりも水瀬が占い師、だと?


「他に占い師って人いるー?」


 誰も名乗り出ない。

 ということは、まさか……


「じゃあマキちゃんが占い師ってことで一旦進めよっか」

「待ってよ」


 今度はハルが静止した。


「そいつは……そいつは私たちを女なんだよ。そうやすやすと信じられるわけないだろうが!!!」

「でも真占い師を名乗り出る人いないんだよねぇ……」

「じゃあ水瀬!お前が占い師なら占い結果を教えろ!」

「あ、それ名案☆」


 視線が水瀬に集中する。


 ハルの魂胆は分かっている。昨日のDMを思い返せば、そもそもこの人狼ゲームを仕組んだのは水瀬とハルは疑っている。ここで私たちでは無く、エリのグループを白と置いたところで白証明にはならない。もしこのゲームが水瀬によるものだったら、エリのグループと水瀬が繋がっている可能性が高いからだ。


 しかし、そんな思惑とは裏腹に、水瀬は私たちの方向を向いて静かに語った。


「占いの結果、江藤マドカさん……あなたが白と出ました。マドカさんは村人陣営です」

「なっ……!」


 ハルがマドカの方を向く。


「マジ……そうだよ、マドカは市民」

「……ッ!じゃあ」

「それが何の証明になるのよ」


 私は気持ち大きな声で言った。


「8人のうち人外が3人、つまり5/8で市民陣営じゃない。自分を除けば4/7。あてずっぽうで市民と言った可能性は捨てきれない」

「そうは言っても他に占い師がいないからねぇ~」

「私よ」

「んえ?」

「私が占い師。バカな騙りが出るのを待ってただけよ。つまり私目線では水瀬、あんたが人狼陣営で、さっきから執拗に水瀬を占い師に仕立て上げようとする山本エリ、あんたも黒いわね」

「私はただの進行役だから、こうなったら二人の話を聞くよ☆じゃあ、カナさんは、誰を占ったの?」

「……」


 正直、ここの乗っ取りは勢いだ。しかしこのまま水瀬に主導権を握らせるのは危険だ。現に、あのままだとマドカが水瀬を信じてしまう。こちらは4人。全員が一致団結すれば被害は最小限に済むはずだ。


「ハル。あんたは市民ね」

「カナ……!そう、私は市民です」

「なるほどなるほど~、ここ対立だねえ」

「ねえ、少しいい?」

「ん?」

「さっきからそこで黙ってる二人はなんなの?人狼は黙っている人が怪しいってのは基本でしょう?」


 山内シオリと吉澤カオリを睨みつける。


「……私は市民よ」

「私も」

「フン……みんなそういうでしょうね」


 全く、効率が悪い。人狼のプロプレイヤーならばそもそももっと効率のいい会議の進め方をしただろう。しかしここにはどうやら人狼の熟練者はいないようだ。口を開けば私は市民、それしか話が進まない。こうなると吊られるのは私か水瀬か……仮に水瀬が仕組んだ絵図ならば、今日の投票は無意味なものだ。私に水瀬とエリグループから票が入り4票、水瀬に私たちの票が入り4票。同数になる。


「まあまだ時間はあるし、各自で考える時間を作ろっか!」


 誰もエリの提案に反対する者はいなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る