第99話 ルイとの邂逅
ジルベルトはルイの娼館に戻っていた。
ルイの言っていた「キール」について、確定しておきたい。それにはルイに見せる必要がある。
「おい、お前、ちょっと来い。お前の言っているキールとかいう男らしいやつを見つけた。付き合え」
ジルベルトはルイを無理やり連れだす。
郊外のキールの下宿宿へルイを連れて向かう。結局のところこういう直接的なやり方が一番早い。
結局先ほどの下宿宿の前まで戻ってきた。ルイを少し離れた建物の陰に潜ませておいて、部屋の様子をまたうかがいに行く。まだ、部屋には戻っていないようだ。
となると、そのうち戻ってくるだろう。もう待ち伏せておくしかない。
ジルベルトもルイのところまで戻ってくると、二人で下宿宿の周辺を見張った。帰ってきたら教えろと言っておいて寝ててもいいのだが、この馬鹿がちゃんと仕事をするとは思えない。仕方がないので、ジルベルトも起きて待つしかないというわけだ。
数十分経っただろうか、ようやくそれらしき人物がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
やはりルイはあてにならない、ジルベルトの横で眠りこけている。
「おい! 起きろ! 帰ってきたぞ? どうだ? あいつに間違いないか?」
寝ぼけ眼をこすりながら、ルイがジルベルトの脇から様子をうかがう。間違いない、キールだ。
「あ、ああ、あいつがキールだ」
「よし、お前に仕事をやる。今からアイツのところへ行ってこう言え。俺の親父を殺したのはお前か、とな」
「え? あいつが親父を? どういうことだ?」
「うるさい! 言うとおりにしろ! そのあと、必ず尻尾を捕まえてやると付け加えるんだ、いいな? そのあとはここへ戻らず、町の方へ歩いて行け。娼館のお前の部屋で落ち合おう。わかったら、いけ!」
「あ、ああ、わかった――」
ルイはおずおずとキールの方へ向かっていった。
ルイはキールの前に姿を現すと、話しかけた。その様子をジルベルトは姿を隠してうかがう。
キールはやや驚いた表情をしていたが、それは一瞬のことだった。すぐに何のことかわからないというように、両手を広げて見せ、ルイを無視して歩み始める。
「必ず尻尾をつかんでやるからな!」
ルイの威勢の良い声が響いた。まあ、上出来だ。
キールは何事もなかったかのようにそのまま下宿宿へ入っていった。しばらく後、キールの部屋に灯りがともる。
ルイはキールとの対談の後、そのまま町の方へと歩きだしている。
(さあて、あとはやつがどう動くか、だな――)
ジルベルトはそのまま闇に身を溶け込ませ、やがてその場から掻き消えた。
******
部屋に戻ったキールは落ち着きを取り戻すまでに少し時間がかかった。
これまで何も言ってこなかったルイが突然現れてとんでもない言葉を口走った。
「俺の親父を殺したのはお前か――」
確かにルイはそう言った。
さすがに突然のことに驚いたが、そこは特に問題ないだろう。だれでもいきなりそういわれれば驚くのは当たり前だ。
何のことだ? 言ってる意味がよくわからないが? と、とぼけては見せたが、今になってそんなことを言ってくるということは、何かしら進展があったということかもしれない。あるいは、あの暗殺者の仲間と通じているのか?
いずれにしても、このまま放置しておいてよいということはなさそうだ。
確かにルイの父、エドワーズを死に追いやったのはキールで間違いない。しかし、それはいわゆる正当防衛的なものであって、ある意味致し方ないことだとも思っている。しかし、そう言った込み入った事情をすべて明らかにするための証拠など何一つないのだ。
キールにしてみれば、「降りかかった火の粉」を払ったに過ぎない。やらなければこちらがやられていたのだ。
しかし襲ってきたあの暗殺者がそんな理屈が通用する相手だとは思えない。その仲間であるならそいつも、いや、そいつらも同じだろう。
(いつかはとは思っていたけど、やっぱり決着をつけないと駄目なようだね――)
キールは、また近いうちに訪れるであろう危機に対応するための準備を行うことを決意していた。
******
ネインリヒの元にミヒャエルが訪れていた。
もちろん、ミヒャエルもキールの帰国に合わせてメストリルへ戻ってもらっている。
キールのことをずっと追っている彼だ。キールを追跡するのは彼に任せておいた方がいい。
「ルイ・ジェノワーズと、謎の男がキールと接触しました。正確に言えば、ルイの方だけですが、その様子を謎の男が伺っていました。そいつの指示でルイが動いたものと思われます」
ミヒャエルがそうネインリヒに伝えた。
「なるほど、そうですか。やはりその男、『シュニマルダ』に間違いなさそうですね」
「どうなさいますか?」
「うむ。とにかくキールから目を離さないでくれ。その男の方にはアシュリをつけることにするよ。しばらくすればその男の所在や潜伏先もわかるだろう。あとはキールがこれからどう動くか、それ次第だろうね」
「アシュリ、ですか。まあ、やつならその手のものに遅れは取りませんでしょう。では私はキールの監視に戻ります――」
そう言うなりミヒャエルはその場を離れた。
(いよいよきな臭くなってきたが、キールはどのように乗り切るか。見ものだな――)
ネインリヒは少し高揚感を覚えていた。
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