おばさん

トイレわからなくなった。


こっちか、嫌こっちだ。


方向音痴


スマホを見たら、開演時間10分前だった。


急がなきゃ



「おばさん」


誰かに呼ばれた。確かにおばさんだけど、無視してやる。


「おーばーさん、聞いてる?」


しつこいから向いた。


「車椅子の人とかがいる、車椅子席頼んであげるよ。」 


誰?


「結構です。」


そう言って、歩きだそうとしたら


「おばさん待ってよ」


そう言って私の前にきた。


ヒヤッとした。


私、転けたら足二度と歩けなくなるって言われてるから…。


「ごめんね。びっくりさせて。」


そう言われた。


この人何、怖い。


身長高い。


「おばさん、車椅子席、頼んであげるから」


また、言われた。


「あの、確かにおばさんですけど…。初対面で失礼ですよね」


イラッとして言ったら


「ごめん。」って言ってきた。


「車椅子席、いきます。」


迷惑なファンだと思われたのだ。


こんなやつがいたら、のれないと


「あのさ、あんた俺に気づいてないよね?」


「次は、あんたですか?」


「名前、教えてくれないから」


「佐浜六花です。」


「佐浜さん、俺に気づいてないでしょ?」


頭の中に?マークが飛びまくる。


そう言って、その人はマスクを外した。


きた、きた、北浦巽だ。


「えーとえーとえーと」


「どうしたのテンパってません?」


「トイレに行くので」


「待ってよ。佐浜さん」


そう言われて止まった。


「ここから、佐浜さん見えててさ。何かいい歌詞書きそうって思って声かけた。」


「いい歌詞?」


「うん、何かそんな雰囲気だしてたから」


「えっと」


「はい、これ。」


「何ですか?」


「明日もあるからチケット」


「いや。いいです。」


私がチケットを返すと


「スカウトだよ。jewelの歌詞かいてほしい」


「その歌詞とか意味がわからないですし、書けませんし。」


「仕事だよ。お金も払うから」


「いや、そう言われても」


「とにかく、また明日きて。この裏をスタッフに見せて入ってきて」


そう言われてチケットを受け取ると北浦巽さんは走っていった。


スタッフの一人の方が、近づいてきて「車椅子席に案内致します」と言われた。


「トイレ行ってもいいですか?」


「どうぞ。お待ちしてます。」と言われた。


トイレに行って、もどってきたら特別席に案内してくれた。


車椅子の方や、私みたいに足が悪い人とかたくさんいてホッとした。


片耳に耳栓をした。


jewelのliveが始まった。



♪何にもない、場所で君と二人♪


知らない曲多いけど、聞いた事のある曲も多くて楽しめた。


バラードの時の柔らかい声に癒されて、泣いた。


何か、きてよかった。


無事、最後までいれてよかった。


  

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