♯100 スィニエーク地方へ

 フローターを最高速ですっ飛ばし、スィニエーク地方へ。


 所々に存在する民家に寄り、司教か教会のフローター、その他普段見かけないようなものを見かけなかったかを確認し、進んでいく。


「レン、探知系の魔法でダクネス司教がいる場所を探れないの?」

「ダクネス、じゃなくてダクティ司教、ね。

 出来たら誰もやってるし、そもそも僕が探れる範囲は町や村位までだ。出来るわけ無いでしょう」

「そうなのか……」

「レンの魔法も、フランの力とおんなじくらいのトコロしか わかんないんでちね」


 ……結局でち子もついてきた。


「あんなに嫌がっていたのに。でち子、なんで乗ってるの?」

「またお留守番はイヤでち。だったらフランも行くでちよ」

「あ、そう」


 ワガママなワン子だ。


「それに向こうも、悪意が無いとしても、身を守るために魔法その他に対して何らかの対策をしているだろうしね」

「居場所を探ろうとしても探れない、ってわけね」


 面倒臭さに、ため息をつく。

 インクスにこの辺の地図を表示させて見ながら、レンの考えに納得した。



「あー、ところでレン」

「何?」

「どうして司教様との交渉で、2つ目を追加したの?」


 交渉中はレンの邪魔にならないよう黙っていた事を今聞いた。


「……君、サミーズさんから何て依頼を受けたか、忘れてないよね?」


 言われて思い出す。


「ああ、なんか『どこよりも早く男爵を捕まえて、こちらに』みたいなのだっけ?」

「……まあ、大体そう。

 ところが最初の条件だけだと教会側が男爵を捕まえた後、手元に拘束しかねない。だから追加で二番目を付け足したんだ」


 ……そういえば、そもそも最初の条件はこちらの要求ではなく向こうが押し付けてきたものだ。


「それに男爵が失踪して、その行方や事件の情報を得たいのは教会も一緒だ。

 僕達が頼まなくても、もう既に教会は男爵の捜索に動いていただろうさ」

「つまり……あれ付け加えないと、司教のいいように使われるだけだった、って事ね」


 うっかり大事な事を忘れていたのは反省だ。


「司教様、喰えないお人ね。

 ……でも結局男爵を捕らえるのは教会でしょう。あれこれ言いがかりをつけて引き渡されなかったら……」

「サミーズさんが警戒しているのは治安部とその本部だ。教会に対しては、サミーズさんは言及していなかったから、きっと問題無いんだろう」

「……ああ、男爵がお役所に捕まるのがマズイのね」

「そうだろうね」


 前世も、役所には俺はそういうイメージ持ってたもんな。義理人情ではなく機械的だったり自己中心的だったりする組織。

 ……まあ実際どうなのかは大人じゃない俺には分からない。




 進むうちにとうとう民家がなくなった。

 見渡す限り平原と、山の近くに森。


「……民家で得た情報だと、この先にタスキン司祭を乗せたものらしいフローターが行ったよね」

「形状も教会の物だったらしいから間違いはないと思う」


 ……見渡しても当然それらしいものは見当たらない。

 そもそもダクティ司教が浮島アルビウムを出ていったのは数日前になるのだから。


「レン、この先に町とかあるの?」

「小さな村ぐらいだったらあるんじゃないかな?」


 そう言ってレンは魔法を使い、周辺を探った。


「……人、その近くに多数の魔物……!」

「それ、襲われてるんじゃない!?」

「かも知れない。森の中だ、急ごう!」




 人の気配を感じたという場所へ、出来るだけフローターで近づき、そこで降りたら走って現場へ!



 しかし……聞いていた通り、暑い。


「う"え"ぇぇ……」


 しかもただ暑いんじゃあなくって、湿気の充満した暑さ。

 汗かいて下着が透けないか心配だが……着ているのは作業着だから大丈夫、だろう。


 この暑さにでち子も舌を出してうなだれていた。

 レンは涼しい顔をして……やっぱり汗をかいていた。


「走りたいけど、この暑さじゃあなあ。私達ガマン大会しに来たんじゃあないのよ」

「でち……」


「二人共、ボヤいてる余裕は無いよ。

 目的地はすぐそこだ」


 そう言って光線剣レイ・ブレードの柄を構えて駆け出すレン。


 俺は(そうだよな、人助けのために森に入ったんだよな)と諦め、渋々 魔晄銃ショックガンを構えてついて行った。




 行った先に、数匹のコボルドが居た。

 彼らが取り囲むその中心に、鎧を着た人が倒れていた。


「オヌボバべ!」


 でち子が叫ぶと同時に、俺はコボルドを狙って銃を撃つ!


 命中!


「ゼボ!」


 するとコボルド達は麻痺した仲間を抱えて逃げていった!


 それを追跡しようとするレン。

 しかし倒れていた人に近づいた俺は、彼女を止めた。


「レン、ケガ人の救助が先だ!」


 その人が大量の血を流し、気絶していたからだ。


 するとレンは止まり、悔しそうな顔をしながら、こちらへ戻ってきてくれた。


「レン、気がはやり過ぎだ」

「そうだね、御免。人命救助の方が優先だった」



 レンは鎧を着た兵士のような人を魔法を使い傷を癒やした。


「どうもこの人、教会の神官戦士のようだね」

「みたいね」


 傷が多少治った段階で、その神官戦士は目を覚ました。


「済まない。助かった……」


「貴方はダクティ司教の護衛の方ですね?」


 その神官戦士は頷いた。

 そして気づいた様に目を開き、そしてコボルド達が去っていった方を向いた。


「そうだ! モークレー男爵を見つけたのだ!」


「「え!?」」


「司教様と御一緒に旅の途中、森の奥で男爵を見つけ……。

 私が男爵を近くの村まで連れて行くはずだった。ポータルが使える村までな。

 だがその途中でコボルドどもに襲われ……」


 神官戦士は目の前を指した。


「連れて行かれた」


 聞くやいなや、レンは走り出した。

 俺が行くべきかどうか考えあぐねていると……


「頼む、男爵を助けてやってくれ。

 ここまで治してくれれば、私にはこれ・・がある。戦いになると役に立てそうもない。近くの村まで、先に戻ることにしよう」


 そう言って『魔除け』を見せてきた。


 俺は頷いて、レンを追いかける。




 レンを追いかけ走っていると、でち子が俺を追い抜いて先へ行った。


 何事か、と思いつつ走っていると、やがて二人の姿が見えた。


 でち子が両手を大きく広げ、レンを止めているようだった。


「どうしたの?」


 レンに並び、二人に事情を聞く。

 すると、でち子が答えた。


「……この先にいるのはきっと、コボルドの王でち」


「「王!?」」

「王って、イグニフェルで戦った、あの『オークロード』みたいなの?」

「どうして分かるんだい、フラン?」


「……ニオイが……するでちよ……」


 進む先を見ながら答える。


「それにフランもコボルトでち。王がどれだけ強いかは、二人より知ってるでち!

 コボルドの王は、オークの王よりずっと、ずうっと強いでち!

 ドラゴンも たおせるほど、強いでち!」


 ドラゴンより強いかはともかく、オークロードより強いは、でち子も一緒に戦ったこともあるだけに信頼できる。


 ……あれ? あいつ一撃でやられてなかったっけ?


「だから二人とも……気をつけてほしい でち。

 頭も いいでち から、何をたくらんでいるかも わからないでち。

 いざとなったら逃げるでちよ……」


「……分かったよ」


 でち子に頷いて、レンは彼女の横を進んでいった。

 俺は……


 ――でち子コボルドの王について、やけに詳しくないか?


 一瞬気にかかったが、それでも決意を固めたような表情で歩くでち子と一緒にレンについて行った。

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