第6話 LINEのアイコンから星を押す
部活の時間、蛍の脳裏では常に理人のことを思い浮かべていた。今日の夕方、部活が終わってから理人と会う約束をしている。冬休み前までは学校でしか会う機会なんてなかったし、長時間一緒に話すほどLINE交換の機会もなかった。自分の性格からこの恋がこんなに進むなんて思っていなかった。
「……って感じ」
「え、ホントにヤバいよ! 絶対蛍行けるよ、これは!」
「やっぱり……そう思う?」
蛍の横で冬休みの話を改めて聞かされた渚がはしゃいでいる。その様子を見ている蛍はだんだん自分の中に自信が生まれているようだった。彼女は蛍と同じくテニス部所属で同じクラスの松井渚。彼女は入学して以来蛍と仲がいい人物の一人で、蛍が理人のことを好きと知って以来、恋愛話が大好物の気性からかずっと応援している。中々進展しない恋に少しもどかしさを外野から感じていたが、冬休みの件からまた野次馬根性が再熱、といった具合だ。
「今日やっとLINE交換でしょ? 長かったねえ。住んでる場所も同じなんだから遊びに誘ったりも……」
「誘えるかなあ……」
今日の夜からLINEで話したり、もしかしたら通話なんかしたり出来るなと蛍は思っていたが確かに休みの日に一緒にどこかへ遊びに行ったりもできるな、と思った。本当に連絡先をこれまで交換してなかったのが不思議なくらいだ。
「蛍、本当にここが頑張りどころだよ、ここで有賀と距離を近づけられたら絶対付き合える! 蛍めっちゃ可愛いし!」
「本当かなあ……渚がそう言うなら出来る気がする。出来ることは頑張ってみるよ」
ぐっと握りこぶしを作ってやる気を渚に示す。実は渚は理人と出身中学校が同じなのだ。中学時代に二人が話したことは数えたくらいらしいが、名前だけはお互いに一応認識していたらしい。そして渚は蛍から見るととても恋愛経験が豊富だ。中学三年間の間に四人と付き合ったと豪語していたのを聞いて何となく先輩のような気がしていた。そんな所から恋愛面で言えば渚は蛍にとってなんだか先生のようなものなのである。
「でも、蛍も男子と付き合ったことあるんでしょ?」
「あー……まあね?」
中学一年の秋ごろだったか。クラスで少し話していた程度の仲だった男子が告白してきたことがあったのだ。人生で告白されたことなんて初めてで嬉しくてそのまま付き合ったが、結局すぐに別れてしまった。恋人らしいことはあまりしてないし、何で別れたのかもイマイチ覚えていない。何となく気持ちが合わない、とかそんな感じの理由だった気がする。あの時は自分が惚れられた側だったので今回とはまた別だし。
「でも、やっぱりあの時とは違うよ」
「そう? でもやっぱりさ……」
渚が再び話し始めたときに集合がかかり、そこで会話は終わった。
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特に意味はないが階段を元気よく下っていく。タッタッタと理人の気持ちを表すように小気味よく足音が鳴って階下へ向かう。ロビーへ向かうと蛍が木で出来た座るところに腰かけながらスマホを触っていた。
「どうも」
「何それ」
少し他人行儀な俺の声掛けに蛍が思わず笑った。
「LINEだよね? 私がQR出すよ」
「ありがと。ちょっと待って……」
ポケットからスマホを取り出して出来るだけ早く友達追加の画面にたどり着く。カメラを起動して、蛍が持っているスマホにカメラを向ける。現れたのはなんだか柔らかいタッチで描かれている可愛らしい女子のイラストをアイコンにしたアカウントだ。ユーザー名は「ホタル」。
「……クッキー?」
「ああ……そういうの作るの好きなんだ」
きれいな形の……チョコクッキーだろうか。それがヘッダーとして設定されている。これはスイーツづくりが趣味ってことでいいのか?知らなった。
「理人のは……なにこれ」
また蛍が薄く笑ったのを見て自分のアイコンとヘッダーを思い出す。アイコンはまだいい、中学の時の、友達に撮ってもらった自分と友達が写っている風景写真だ。ヘッダーは自分が今ハマっているFPSゲームの画像。やっぱり女子にゲーム趣味、しかもシューティングゲームは少し敬遠されがちって聞く。変更しておけば良かっただろうか。
「いや、これはたまにやってるゲームの、ほら流行ってるやつ!YouTubeでライブとかもやってる人も多いしさ」
「名前だけは知ってるやつかも。へえ、こういうの好きなんだ」
少し恥ずかしい気持ちになりながら、目的のLINE交換は達成されたので取り敢えず解散となった。帰ってスマホを開くとスタンプで「よろしく」とメッセージが来ていたので出来るだけ一般受けしそうな種類のスタンプを使って返し、ホタルのアイコンから星を押した。
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