【完結!】等身大のラブコメを!
篠崎優
第1話 その一歩を!
年が明けたばかりの頃だった。まだ未明の寒い空気が残っている朝から自分のマンションの前に引っ越し屋のトラックが止まっていることに蛍は気づいた。これから引っ越し作業なんだろう。そういえば去年の暮れに下の階に住んでいた老夫婦が引っ越していったことを思い出した。あの部屋に入ってくるのだろうか。それでも、赤の他人とのコミュニケーションが少し苦手な蛍にとっては関係のないことだ。そうトラックを横目で追いながら友達と遊ぶための集合場所へ向かうために自転車を漕ぐ。
「あれ、瀬良?」
思わず自転車を漕ぐ足がぴたりと止まった。その蛍の耳朶をまっすぐと突き刺してくる声は。
「
柄にも似合わず大きな声を出してしまって恥ずかしい気持ちから思わず耳が赤く染まる。彼の名前は
「もしかしてさ……」
そう尋ねると理人もハッとした顔をした。
「その……ここに今日から引っ越すんだ。何ていうか……もしかして瀬良の家ってここ?」
心躍る気持ちを抑えて小さくこくりと頷いた。すると理人が「本当か!?」と言いながら顔を綻ばせる。
「じゃ、じゃあ私今から遊びに行くところなんだ。また会えると思うし、宜しくね!」
これ以上この場には居られない。引越しの理由とか色々聞きたいことはあったしもっと話していたかったけど、あれ以上あそこに居たら嬉しさで死んでしまいそうだ。自転車を漕ぐ足が早くなる。前へ。前へ。夢にすら見なかった現実が有り得なくて、蛍の心臓の鼓動は早くなりっぱなしだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「瀬良が……」
瀬良蛍。彼女がここに住んでいることは知らなかった。二学期の席替えで隣同士になってから話すようにはなったけど、学校だけの関係で私服の姿なんて見たのはもちろん初めてだ。想像するのは、いつもの制服を着ている蛍の姿。あの服を常に頭にイメージしている時に、突然あんな可愛いコーデに身を纏ったのが現れるのは、ズルい。
少し茶色がかった髪をしていてお淑やかな風に見えるが、実際は明るい面も見せる。そんな教室にいる彼女に目線が奪われる。彼女の部屋はどこだろうか、と思ってマンションのフロントにあった案内板を指で辿る。どうやら、5階の住人らしい。
「俺は確か4階だったよな?」
部屋の距離は1階分しか違わないわけだ。もしかしたら、朝の登校時間が被って一緒に学校へ……なんて事もあるかもしれない。理人自体は作業量などからも少しこの引越しが憂鬱なものであったが、心の奥からふつふつとマグマのように湧いてくる熱さに心が揺れ動かされた。神はサイコロを振らない……と言えば少し間違った用法かもしれないが理人の中ではまるで神の采配によって決められた出来事であるかのように思えてきた。
「ここまでチャンスを与えられて……やらない訳が無い」
少し前から考えてはいた。蛍に告白しよう、と。
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