第四十五話 出品物と手下


 熱気に包まれたオークションは滞りなく進む。


 出品された品の紹介も事前に発表された予定では半分まで進んだ。

 魔力付与された篭手、高熱を発する剣、壁にぶつかると勢いを増して反射する鉄球、果てはランクルの街の住民が所蔵していた有名な絵画の絵画や古代王朝のものらしき調度品。


 個人秘蔵のお宝が次から次へと紹介され、落札されていく。


「続いてはこの品! ランクルの街冒険者ギルドの倉庫に秘蔵されていた隠された一品! 次期ギルドマスターとも名高い受付嬢からは『もうこんなでかくて場所をとるものはいりません』と聞いているぞ!」


 マリネッタぁ……隠されたっていうかギルドの財産売っちゃダメだろ。

 

「レッドグリズリーの毛皮から作られた巨大マント! ランクルの街のギルドマスターが首の骨を綺麗に折ってくれたお陰で、頭部の部分もしっかり残されているぞ! フードを被れば君も完全にレッドグリズリーに成り切れる!! ぜひ落札して試してみてくれ!! では、解説はグラール殿、お願いしまーす!」


「……実にいい品です。毛皮の処理が良かったのでしょう。また、これを仕立てた職人の腕の良さが窺えるような品物です。レッドグリズリーの毛皮には火に対する耐性もあり――――」


 熊みたいな奴が熊の魔物からできた一品の解説をするシュールな光景。


 ホント、グラールとかいう山男が解説する時は皆静かになっちゃうんだよな〜。

 多分本人は善良な人なのはわかるんだけど、強面すぎるから丁寧な口調とのギャップがすごい。


「姉御! この席はどうですかい!」


「ん? ああ貴方たちね。誰かと思ったわ」


 こんな大勢の人がいても変わらず水着姿のヴィルジニーに話しかけてきたのは、先日ぶちのめされたばかりの〈砂モグラ〉の連中。

 出会った時の高圧的な態度はどこへやら、いまはヴィルジニー相手にへりくだった低姿勢で挨拶している。


「そんな〜、姉御のためにこの特別席をなんとか確保したんですぜぇ。そりゃあないっすよ」


「そうね。概ね助かっているわ、ありがとう」


「へへ、そう言ってもらえると俺らも苦労して席を用意してもらったかいがありますぜ」


 おっさんが照れた笑いを見せると少し……なんだろう。


 違和感がすごいな。


 そう、ここで照れ笑いを浮かべる〈砂モグラ〉の三人はなぜかヴィルジニーの手下になっていた。

 なぜこうなった?

 理由は不明だが、リーダーのガフ曰く『姉御の男気に惚れました』って言ってたけど……ホントか?


 だが、まあ意外にもコイツら人脈はあるらしい。

 オークションに参加すると言ったら、この会場全体を見渡せる特別な席を用意してくれた。


 どうやらコイツらこの大規模会場の設営で多大な貢献をしたらしい。

 噂では突貫工事にも関わらず短期間でこんな大きな会場ができたのは、コイツらが作業した土台の基礎がしっかりとしていたからなんだとか。


 まったく預かり知らぬことだけど、コイツら三人は土木作業をやらせれば相当優秀の腕をもってるらしい。

 いやまあ、コイツらの恩恵、ハンマーにつるはしだし土木作業に向いてそうだもんな。


 というか、それほど優秀ならダンジョンに潜るのなんて、冒険者ギルドの依頼で土木作業をすればすぐ許可が出たんじゃ……。

 まあ、ヴィルジニーにぶちのめされる前は人に突然喧嘩腰で絡んでくるような奴らだったからな。

 性格面で許可が出なかったのかも。


「曲刀の兄貴はどうですかい。楽しんでますかい」


「あ、兄貴……」


 師匠がまた心身にダメージを受けてる。

 黙ってればホントに師匠は容姿端麗でクールな優男って感じだからな。

 〈砂モグラ〉の連中はすっかり信じ切ってる。


「あの……姉御の姉御はどうですかい。楽しめていますでしょうか?」


「ええ、勿論です! 皆さんのお陰で楽しめてますよ。ありがとうございます!」


 なぜかコイツらの中でラーツィアはヴィルジニーより立場が上だ。

 というか、毎回話しかける時ビビってる。

 なに?

 誰かに脅されてるのってぐらい露骨に態度が違うんだけど。


 そんな〈砂モグラ〉のリーダーガフがこちらを路傍の石でも見るような目線で見る。


「あっ、ゴミのアニキ居たんすね」


「……はじめからいるよ」


「いや〜、全然気づかなかったっす。姉御はそこに居るだけでオーラが凄いんすけど、アニキはオーラ、マジないっすよね」


 なんでオレには下っ端みたいな口調なんだよ!

 それでもってめちゃくちゃ蔑まれてるし。

 嫉妬か?

 嫉妬がそうさせるのか?


 コイツら、特にガフはオレがヴィルジニーと話してる時は大抵毎回不機嫌になるんだよな。

 わかりやすいっちゃわかりやすいけど、静かに悔し涙を流すのだけはやめて欲しい。

 

 ヴィルジニーは大抵のことは気にしなかったりするから、横でコイツらが泣いてても別に気にも留めないし、誰も慰めない。

 ラーツィアくらいか?

 泣き止むように諭してあげてるのは。

 ……だから姉御の姉御なのか?

 真相は不明だ。


 オレが〈砂モグラ〉の面々に微妙に罵られている間もオークションは進む。


「さて! 本日の目玉の一つ、魔法具の登場です! 暫定の名前は『魔剣柄』! さあ、解説はアレイサー殿とステリラちゃんにお願いしましょう!」


「お任せ下さい」「ぶっ飛ばすぞ」


 アレイサーさんは受け答えから所作まで丁寧なのに、ステリラちゃんはマジでやさぐれてるよな。


 いよいよ次はオレたちの出品した魔力で刃を生成する魔法具。

 怖くもあり、楽しみでもある。

 果たして一体どれくらいの値がつくのか。


 オークションに出品したことの是非がもう少しで判明しようとしていた。

 

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