その6 なんて迷惑な!
「前に師匠から聞いたんだ、オラングの毛皮って高く売れるんだって。もしかしてそれが目当てだったりする? ねえ、どうなの? もしそうなら──」
「いいえ、違うわ」
ネフがばっさり言った。
「……不時着したんだよ。化け物に追いかけられてね」
僕が続けると、コノハは首をかしげる。
「化け物?」
「スラーミンよ。それでわたしが魔法を使って……その時にこれを壊してしまって」
ネフは後ろを振り返る。頭上に引っ掛かった、風つかみの白い翼。
別に用があって来たわけじゃないよ、と説明すると、コノハは片手をさっと上げた。
……気付かないうちに向けられていたオラングの槍が、一斉に上を向いた。
いやこわ。
「……もしかしてさ、そのスラーミンって普通と違かったりした?」
「ええ」
「……具体的にはどんな感じで?」
「速かったわ。あと閃光が全然効かなかったわね」
「……まじかぁ」
「……コノハ、何か知っているの?」
僕の言葉に頷くコノハ。
次の瞬間。
「ごめんなさい!!!」
すごい勢いで謝ってきた。
「そいつ、師匠のやらかしたやつなんだ」
オラングの集落では異質な、高床式のログハウス。簡素な作りのテーブルで、コノハは話し始めた。
「ぼくの師匠は魔法薬を専門にしててね。この森は材料が豊富だから、この集落で研究してたんだ」
最初のころは、森を神聖視してるオラングと時々衝突してたりしたみたいなんだけどね。
でもある時、病気で死にそうだったオラングの長老を救ってからは関係も良くなって。
この集落で一緒に生活しながら、魔法薬の製作を続けていたんだ。
「──森に捨てられたぼくを育ててくれたのも師匠。師匠は優しくて才能もすごくて、物心ついた時には憧れてた。それで、弟子にしてもらったの」
でもね。これはだんだんわかってきたことなんだけど。
師匠、めっちゃずぼらなんだ。
失敗した魔法薬とか、使えない材料とか、その辺に捨てちゃうんだよ。
土に帰るから大丈夫だー、って言ってたけど、間違ってオラングの子供とかが食べちゃったら大変なのにさ。
……そしたら案の定、スラーミンが食べちゃったらしくて。
「あー……」
ネフが頭を抱えた。
「それがネフとレノンを襲ったやつだと思う。もちろん師匠は討伐しようとしたんだ、だけど全然手に負えなくて……」
コノハの師匠は土属性だった。
空に住むスラーミンには分が悪い。
しかも魔法薬専門という、研究者タイプなのも相まって、有効な攻撃手段がなかったらしい。
「ぼくは木属性だから、木を操れる。檻を作ったり、幹で殴ったりできる。なんとかなると思ったんだけど、あのスラーミンめっちゃ頭良いんだ。こっちの攻撃範囲に絶対入ってこないんだよね」
お手上げなんだ、とため息をつくコノハ。
もしかして、とネフが聞くと。
「そう、たぶん薬の効果。思考能力も身体能力も強化されてるんだと思う」
なんて迷惑な薬なんだ……。
——いや、待てよ。そんなすごい薬なら、なんで捨てた?
自分で使えばよかったのに。
「──人間には強すぎて駄目なんだ。師匠は一滴舐めて、一ヶ月気を失ってたし」
そんなことを考えていたら、先回りしてコノハが言った。
それで使えないってわかって、瓶ごとほっぽったみたいでさ。
ネフに続き、僕も頭を抱える。
うーん。ほんっとに迷惑な師匠だな!
「……それで、その師匠は今、どこにいらっしゃるのかしら?」
「数年前にお星さまになったよ」
コノハは空を指差した。
「永遠に寝れる薬ができた! とか言ってさ、うきうきして飲んでた」
──僕らはみんなで、ため息をついた。
(その7へつづく)
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