第14話 真実の愛

「本当に見えないんだろうな」


『大丈夫ですって、門兵にも気づかれなかったじゃないですか』


 街の門をくぐって俺たちは防具屋へと向かっている。パンツ一枚、頭に段ボールというシュールな恰好をして俺は全力疾走している。エスカーナは剣に戻り、ステルスモードとやらを発動しているようだ。おいおい、俺だけなぜこんな格好をしなければならないんだ? 


 見えたぞ。あそこだ!!


「おい、親父、来てやったぞ!!」


 俺は防具屋のドアを力強く開けた。


 相変わらず、店には客がいない。いつか国に納める税金とやらが払えず、店でも閉めるんじゃないか。


「な、なんだってんだ!! 急に扉が開いたぞ!!」


「おい、おっさん、服を出せ!!」


 防具屋の親父が、なにやら慌てふためいているようだ。


「さっきから幻聴が聞こえやがる。しかも、あのクソガキの声が」


 クソガキだと、防具屋の親父め、メタルアーマ、半額で買い叩いたの、根に持ってやがるのか。


『竜也さん、ダンボールマンになってますから、見えないんですよ』


「ああ、そうだった」


 ダンボールをはずすと、パンツ1枚の俺が、カッコよく登場した。


 鍛え向かれた、このほとばしる筋肉を見るがいい。


「へ、変態が出やがった!!」


 な、なんだと!!


☆☆☆


 そして……


「ほんと、お前には驚かされるぜ。客がいるときにでもやってみろ、このハンマーで頭かちわってやるからな」


「ああ、わかった、わかった」


 すでに親父から服を受け取り、着替えたところだ。俺の鍛え抜かれた身体を男に見せても嬉しくないからな。


「そうだ、素材の買い取りを頼めるか」


 スラッキーのゼリーとドラッキーの羽を親父に見せると、素直に受け取った。この親父は商売に関してだけは抜け目ないからな。親父は今、素材の鑑定をしているところだ。


「チッ! 素材の品質がどれもA級か、お前はクソガキだが、魔物の解体技術だけは一級だな」


 親父よ、俺に解体技術なんてあるわけないだろう。それができるのは、腰元に携えている、このナイフのおかげだ。まぁ、説明すると長くなるが……


☆☆☆☆


 エスカの村にいた頃の話だ。


 魔物退治を頼まれた俺は繁殖し続けるネバネバモンスター、スラッキーを倒していた。


 正義を愛する愛の勇者の俺が、どうして、この依頼を受けたのかだと?


 もちろん、美人の女将さんに頼まれたからだ。もし、俺が現在、拠点としている宿屋の女将に頼まれたらどうするかって、AHAHAHAHA!!


 ……それはノーコメントだ。


 カーナの森で……


「これで最後か、以外と魔物は弱いんだな」


『そりゃ、そうですよ。竜也さんの戦闘能力は天使に匹敵するほどの強さを持っていますから、それでも戦闘タイプの天使、戦天使いくさてんしにはまだ敵わないと思いますよ。私ですか? 私は愛を振りまく、愛天使ですから戦闘タイプではありません。うーん、そういえば、おかしいですね。聖剣として選ばれるのはたしか、戦天使いくさてんしのはずなのに。まぁ、それはおいときまして、私は愛天使の中でも交際をなく認める寛容的かんようてきな天使でもあるんです。愛は種族間をも超える、素晴らしいことですよね♪ 私と竜也さんのように……、でも、あの世界では神様に怒られちゃいました』


「お前は一体、何をしたんだ?」


「あれはですね。たしか……」


☆☆☆☆


 ある世界の母親視点。


「母さん、僕はこの子と結婚しようと思うんだ。どうか認めてほしい」


「あ、あんた、急に何を言ってるの! そ、それは……」


 息子が手に持っていたのは、可愛らしいネコミミをつけた、メイド服の美少女キャラクターの等身大フィギュアだった。


「僕は真実の愛に目覚めたんだ。市役所も教会も裁判所も、また議会の議決で可決されて国からも認められたんだ。あと総理からも、あとは母さんだけなんだ」


 有名大学を合格させるために幼い頃から勉強させすぎたのが原因かもしれない。


 社会人になってから頭が……


慎二しんじ、私が悪かったよ。頭は大丈夫かい、今すぐ病院に……」


 そして……、「時」が止まり出す。


「どうしたんだい、慎二、急に動かなくなって。こ、これは一体?」


 その時、母親の前に天使が舞い降りた。


「あ、あんたは!!」


『さぁ、私の目を見てください』


 母親が天使の瞳を見た瞬間。


「うぐっ!」


「ねぇねぇ、認めますよね。ねぇ認めちゃいましょうよ。ねぇ」


「はい、認めます。神の御心みこころのままに……」


 そして「時」が動き出す 。


「母さん、お願いだ」


「はい、認めます、神の御心のままに……」


☆☆☆☆


「……という感じですかね」


「それは一種の洗脳じゃないか。前から思っていたが……」


 お前の目は絶対に見ないようにしよう。



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