海ぶどうが食べたいと思った、今日この頃

 駅を降りる人はあまり多くなかった。私達と数名だけ。

 「ここは店よりも住宅街の方が多いですからね」

 そうなのか。輝愛市は住宅街もあり店もたくさんある場所だから、新鮮に感じる。



 「そんな場所に海ぶどうのお店が出来たのかぁ、何でだろ」

 「確かにお店をするならもっといい場所がありますよね。店主さんの好みでしょうか」

  店も少ないのならご飯だけ食べて、また隣町に移動へとなりそうだ。



 駅から出ると迎えてくれるのは住宅街。

 輝愛市はビルやお店がお出迎えなのとは正反対だ。

 とても広いからあの商店街にも実を言うと店はあった。



 ビルの中にもあるし駅前にも他にもたくさんある。

 それなのに何故、商店街以外を探さなかったのか。理由は二つある。



 一つ目はそこで全部売り切れているなら、他の場所で探しても結果は同じと思ったから。

 二つ目は気分転換に少し別の街へと移動したかったから。



 どちらかというと圧倒的に、後者の方が理由としては強い。

 現に思わぬ出会いがあり一緒に行動まですることになった。有難いものだ。



 「このまま行くと先に海ぶどうのお店に、着きそうですね。お腹も空きましたし早く行きましょう」

 「どこにあるか分かってるんだ! 流石だね~」



 「完全……というわけではありませんが、だいたいの検討ならついてます。私について来て下さい」

 そんな訳で彼女の後をついていくことに。



 平日なのか人通りは少なく静かな雰囲気を漂わせている。

 同じ市内とは思えない程に。全く正反対な印象を感じる。



 「ここって結構静かだね~」

 「皆さん会社や学校に行ってるのでしょうか。だとしても本当に静かですね。まるで別世界にいるような感じがします」

 「別世界か~。いや~アニメや漫画によくある展開みたいでテンション上がるね」



 日常の中に感じる些細な非日常を思わせる出来事はわくわくする。

 まるで何か起きるのじゃないかって考えさせてくれるから。

 もちろん、普通の日常に飽き飽きしたわけではない。



 でもたまにはそんなことがあっても面白いなと思う。

 人生のスパイス的な役割。この街に来てまだ特に大したことは起きていない。



 ちょっと事件に巻き込まれたことはあるけど、すぐに解決したからそれはノーカン。



 お店に着いた。和風の建物に『心の里』という木彫りの看板が飾られてある。

 住宅街を抜けた所に数店舗、店が集まっている場所があるのだけどそこにあった。



 「ここがそこなんだ~。お洒落な店名、私こういうの超大好き」

 「駐車場は誰も泊まっていませんから、もしかしたら貸し切りかもですね」

 「だね~。とりまご飯食べましょ。お腹空いたわ」



 和風の引き戸を手にかけようとすると自動的に開いた。

 流石最近に出来た店だ。とてもハイテクだ。



 「おっ、いらっしゃい。何人だい」

 「二人です」



 如何にも大将っぽいオーラをしている人が登場。

 お店の中にはカウンター席もあれば座敷の席もあった。

 想像以上に広い。しかも本当に貸し切りのようだ。



 「二人だね、了解。見ての通り、客は誰もいないから好きな席に座っていいよ」

 「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてそうさせてもらいますね」



 もちろん選んだのは座敷の席。せっかく空いてるならそこが、一番いいもんね。

 あと会話しやすいし、くつろぎやすいし。

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