名ばかりの明るい幽霊
「へえ~あのギリギリを避けるなんてなかなか君やるじゃん」
どこからか声が聞こえた。しかもどうやら事を起こした張本人のようだ。
「この子があんな一瞬で避けれるわけないでしょ。私が安全な場所に移動させたのよ」
「な~んだ、瑠海のお得意の瞬間移動かぁ~」
声は近くから聞こえてくるのにどこを見渡しても、姿が見当たらない。
「じゃあ私も君の真似をしよ~っと」
パチンと指を鳴らした音が空間中に響く。
その音が聞こえたと思うとまた場所を移動していた。
今度はどこかの建物の中のようだった。
天井が高く数メートル離れたところに左右に一つずつ入口があった。
とても広く、すぐ近くにはチケットを買う受付コーナーがあった。
ここがどこなのか気になり走ってそこに向かった。
『透海美術館 チケット売り場』
どうやら美術館に移動してきたようだ。
そう言えばシャノワール小村さんが美術館と、キーワードのうちの一つとして言っていた。
つまり大河君との思い出を思い出す、きっかけとなる場所。
受け付けコーナーの台の上にこの美術館のパンフレットがあった。
表紙には『湖原こはら翔かける展』と書いてあった。
『今では世界中で名が知られている湖原翔。そんな彼はこの透海町で生まれた。たくさんの絵画を世の中に生み出し続けている彼は、色んな物を描いている。その中でも今回の展覧会では『金魚』というテーマに絞って、開催することにした。更にまだ誰も見たことがない彼の未公開の絵画もこの展覧会で、独占初公開。彼の絵画の原点ともなった絵画たちを、是非ともご覧あれ。』
「湖原翔かぁ聞いたことがあるような、ないような……」
「あっこれ私も聞いたことあるよぉ。なかなかな有名人だよネ」
すぐ真後ろからその声は聞こえた。反射的に勢いよく振り向くと、後ろには人がいた。
「あっど~もルナで~す。一応、幽霊やってるよんっ」
ルナと名乗った少女は右手でピースをして、ウインクをした。
ポニーテールだけど髪色が水のように、透き通っていた。
アイドルのように愛らしい顔立ちをしていて八重歯が特徴的。
あたしが通っていた高校の夏用の制服を着ていた。
身長は自分より想像以上に高い。一体何cmなのだろうか。
そして彼女の姿は少し透き通っていた。
「幽霊……」
幽霊と言えばおどろおどろしいイメージを抱いていた。
今この瞬間まで。それがたった今ぶち壊れた。例外もいるのだと認識した。
「君は結ちゃんだよねっ。瑠海から話は聞いているよ~、彼との記憶を思い出したいんだよねっ。いやぁいいね~青春だね~。私はそんな大した青春したことないからなぁ」
しかもよく喋る。全く幽霊だと思えない容姿に話し方。
「私ね。実はね幽霊だけど幽霊じゃないんだぁ。色々と事情がありやしてね。金ちゃん様が私の周りの人の記憶から私の存在ごと消してくれたの。それで金ちゃん様と瑠海のお手伝いをすることになったの。この髪色ね~凄いでしょっ。金ちゃん様が色々と一時的に能力をくれたの。 服装を変えることができたり、髪型や髪色が変えれるっていう素敵な能力っ。いいでしょ~」
一切こちらは何も聞いていないのに、本人から色々と事情を話してくれた。
そしてまた新しいキャラが出てきた。金ちゃん様って誰だ。
「それは我のことだ。結」
いつの間にかルナの隣に何故かここに居る筈もない絵里さんの姿と瑠海がいた。
「えっ絵里さん……どうしてここに……」
瑠海が優しく微笑んだ。
「この人は絵里さんじゃないわ。本当の名前はないのだけれどみんなからよく言われている名前を言うのなら……金魚神きんぎょしん様ね。この人には本当の姿がないの。だから人の目の前に現れる時は私の体を借りたり、金さんが会ったことある人になって登場するのよ」
「少しそなたの心の中を読ませてもらった。驚かせてしまったのならすまない。瑠海の言う通りだ。我には名前という名前もなければ、姿もない。だから瑠海の姿を借りたり、こうやって別の人の姿になって現れているのだ」
絵里さんの姿で話しているけど喋り方も声も違っていた。
今日出会った金魚神様そのままだった。
「我のことは好きに呼ぶといい。ルナは金ちゃん様。瑠海は金さんと呼んでいるぞ」
今神様の目の前に自分はいる。まさか神様と話す日が来るなんて想像していなかった。
名前はなんて呼べばいいだろう。フルネームは長いし、良いのが思いつかない。
ルナの呼び方も瑠海の呼び方も自分には、ピンと来なかった。
「瑠美奈……」
ふとその名前が思いついた。瑠海とルナの名前を合体させた単純な名前。
それでもあたしはこれがいいなと、思った。
「瑠美奈か……面白い。気に入った。ならそなたは瑠美奈と呼ぶといい」
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