第10話 人間も動物なので、序列は気になります

「失礼します」


 ライガが扉を開け、部屋に入ってきた。


(あらまあ、こざっぱりしちゃって。専任剣士用の上等な制服を着ると、なかなかハンサム君じゃないの)


 と、岡田君に話すような調子で心のなかでコメントすると、ライガの頬がピクッとなったのを私は見逃さなかった。


「ジェシカお嬢様、ご機嫌麗しゅうございます」

 

(うわ、麗しゅうとか似合わんなあ。言わされてる感満載ね)


「……有難う、悪くないわ。ライガ。館内の事はだいぶ把握できたかしら?」


「はい、エバンズ様が丁寧に指導して下さいます」


「良かったわ。先生、彼が専任剣士となったライガです。ライガ、こちらはモハード先生よ」


ライガはすぐさま、片膝をついて挨拶した。


「専任剣士のライガです。宜しくお願い致します」


「どうぞ宜しく、ライガ殿」


 先生は私のソワソワした態度に何かを察したようだ。


「レディ・ジェシカ、では本日はそろそろ失礼致しますね。本来であれば、レディを男性と二人きりにしてはいけませんが、彼はあなたの専任剣士だ。マリーを呼ばなくてもよろしいですか?」


「有難うございます、先生。ええ、おっしゃる通り、彼は私の盾となる者。二人きりでも何も問題ございませんわ」


 私は最上級の笑顔で答える。


「ではレディ・ジェシカ、ライガ殿、これにて失礼」


「モハード先生、有難うございました」

「失礼致します」


 私とライガは、二人で先生を見送った。


「さて、と」


 私はライガをまっすぐに見た。


(前回はバタバタで何が何やらだったし、ある意味今日が初めてのご対面ね)


 一般的に、動物に対してやたらに目を合わせてはいけないと言われている。多くの動物のルールでは、群れで自分より格上のものには目をあわせてはいけないし、目が合ってしまったら先にそらして、相手へ服従の姿勢を示すらしい。


 ヤンキー漫画で、彼らがメンチをきりあうのも、まあ同じようなものだろう。どちらが上なのか、互いの力量を測っているのだ。


 相手は自分より強いのか、弱いのか。

 先に目をそらした方が負け。


 ヤンキーだけじゃない。

 そう、今、私と彼も。


 別に相手に勝ちたい訳ではないが、初対面の相手に軽くみられるのもゴメンだ。


 私達はしばらくの間、無言で見つめあった。


 あ、でも、こちらの考えはダダ漏れなワケで、このメンチの切り合いあんま意味ないかもと思った瞬間、ライガが先に頭を下げた。


「御礼が遅れましたが、私を専任剣士に選んで頂き有難うございました。宜しくお願いします」

 

「こちらこそ宜しくね。色々と話さないといけないし、サクサクいこう。とりあえず、座っていい? まず聞きたいのは」


(今、誰も周りにいない? 私達の話が漏れることはない?)


 私は豪華な木製の椅子にかけながら、心の中でライガに話しかけた。


 ライガは扉と窓に目をやってから、コクンと頷いた。


「本当のほんまに大丈夫? 盗聴とかされてへん?」


「とう、ちょう……? とかされてへん、とは?」


「いえ、いいの。誰にも聞こえないのであれば、安心だわ。あと、これをどうしても最初に言いたいしお願いしたいの。私の考えを読むのは止めてほしい」


 ライガの額に皺がよった。


「あなたは私の専任剣士で、剣の師匠でもある、長い付き合いになると思う。だから、対等につきあっていきたいの。あなただけ私の考えがわかって、私にはあなたの気持ちがわからないのは、フェアじゃないし、居心地悪い。だから、なんかシールド張って遮断するとかして、緊急時以外は、耳栓でもするような感じて聞かないようにしてほしいの」


 いくら私が高台家の人々の大ファンだとしても、やっぱり実際に考えを一方的に読まれるのは、落ち着かないし快適じゃない。


 ライガは立ったまま、ゆっくりと言葉を選びながら答えた。 


「私のこの力の事は、一族の者しか知りません。掟で、決して人に話してはいけないと教えられました。もし話すのであれば」

 

「あのさ」


 私はライガを遮って声をかぶせた。


「私はあなたの秘密を知ってるし、あなたも私の秘密をまあなんとなく感じてるでしょ。私の専任剣士にもなった訳だし、今や私達は運命共同体、一蓮托生、死なばもろとも、もうほとんど家族同様の濃厚濃密な関係なのよ!!」


 ライガはポカンとしながら、私の弾丸トークを大人しく聞いていた。


「私はあなたに聞かれた事は何でも正直に話すわ。約束する。だから、あなたも、私の問いには嘘をつかず正直に答えてほしい。お互いがお互いをリスペクトし、信頼しあえる関係をつくっていきたいの! だって、何度も言うけど、もうある意味私達は家族なのよ!!」

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