053

 観覧車の扉のかんぬきは内側からでは開けられない。

 でも蹴破るには時間がない。

 俺は丹撃で破壊することにした。



「ちょっと下がって。今のうちに準備を」



 ひと呼吸。

 練気して丹田に魔力を溜めて・・・こなくそ!

 ばんっ! とかんぬきを破壊して扉を開けた。

 同時に冷房のかかっていた室内に夏の温い風が勢いよく吹き込む。

 何の支えもない地上150メートル。

 俺を誘い込むかのように景色が目の前に迫る。

 ・・・くそ、考えるな! 俺が恐怖したら死ぬ!

 祝福ブレスがあっても怖いものは怖い!

 俺はふたりに向き直った。



「ソフィアさん、最後まで一緒です!」


「ああ、さくら様! 離しませんわ!!」



 ふたりはまた手を取り合って見つめ合っていた。

 ・・・おい!!!

 それ、ゲームオーバー直前の最後のセリフ!!!

 爆破直前じゃねえかよ!!!



「飛ぶぞ!! 早くしろ!!」


「はい! ・・・白魔弓ザンゲツ!」



 さくらが集中して固有能力ネームド・スキルを発動させる。

 青い魔力が彼女の身体に集まり手の先で形を成す。

 彼女の水の魔力で作られる魔弓、ザンゲツ。

 その白銀に輝く弓矢はまさに彼女のためにあった。

 


「・・・奔放なる自由の翼よ――」



 ソフィア嬢の詠唱。

 中級汎用能力コモン・スキル風圧撃ウィンドブラスト

 緑色の魔力が彼女の腕に集まっていく。

 台風のような突風で小型自動車くらいなら軽く吹き飛ばすほどの魔法だ。


 さくらとソフィアが集中しながらも俺に目で合図をする。

 俺は再度頷き、改めてふたりの後ろに立った。

 さくらを先頭にソフィア嬢を挟み俺が後ろだ。

 縄状にした3着の上着をふたりに回し、強く引いて離れないように掴む。



「いいか、さくらは狙うことだけ考えろ。ソフィアは俺の合図で真下に発動して、その後はバランスを取りながら滑空だ! 魔力は俺が何とかする!」


「はい!」


「承知ですわ!」



 すべてが初見ですべてが綱渡り。

 おまけに時間も綱渡り。

 でもやりきるしか道はない!

 頼むぞ!! ふたりとも!!



「いっけえええぇぇぇ!!!」



 俺は合図をしながらふたりを抱え、そのまま前へ飛び込んだ!

 ジェットコースターよりも速い落下。

 重力から解放された全身に奇妙な快感が突き抜ける。

 ぶわっと吹き上げる風に全身を包まれた。



ツヴァイ!」



 3人が離れないよう全力で腕に力を入れる。

 風に負けないよう大声で叫んだ。

 数詞だけは知っているドイツ語でカウントする。



アインス!」



 一瞬なのにものすごく長く感じる。

 俺がいちばん後ろなので彼女らの表情は見えない。

 きっと頼もしい顔つきをしてくれているはずだ。

 ラリクエで何度も拝んだあの凛々しい顔を!



ヌル!! ソフィアあああぁぁぁ!!!」


風圧撃ウィンドブラスト!!」



 ごう、と凄まじい音がしたかと思うと、ソフィアの身体が俺をぐいと力強く押し返す。

 反作用の力は強く彼女を痛いくらい圧迫してしまう。

 頼むぞ未来生地!!

 俺はさくらが放り出されないよう必死に力を入れる。

 ぐうう! 頼むぜソフィア!!


 自由落下に逆らい続けていると、耳障りだった風切り音がふっと途切れる。

 押し返されていた身体もふっと楽になる。

 計算どおりの無重力状態での一時停止。

 ソフィア、よくやった!!!

 さすが出力158キロジュール!!!



「さくらぁぁぁ!!」


「その爪先で捉えん――同化矢アシミレート・アロー!!」



 体感、1秒もない無風状態で彼女は射った。

 ばしゅう、と魔法矢を放つ音が俺に届く。

 ふたりを前に抱えているので生憎、見ることができない。

 だけれどもさくらなら必ず命中させるはず!

 結果は見ずともわかる!



「武様!! 魔力を!!」



 間髪入れずふたたび落下を始めた俺たち。

 ごう、と耳鳴りが再度、始まった。

 ここからが俺の仕事!

 ソフィア嬢への魔力供給。白魔法の中級汎用能力コモン・スキル



「其の境は彼我になし――魔力同期マジック・リンク!!」



 身体を接した相手と魔力を導通させる白魔法。

 俺の身体にある魔力がソフィア嬢に流れ込んでいく!

 継続して発動されたソフィア嬢の魔法がふたたび落下を始めた俺たちの速度を和らげる!



「これなら・・・いけますわ!!」


「もうすぐです!! ソフィアさん!!」



 落下しつつも最初ほどの風切り音はしない。

 風圧撃ウィンドブラストが継続できている証拠!

 俺の魔力もぐんぐんと消費されていく!



「頑張れぇぇぇ!!」


「着きます!!」


「ああああああぁぁぁぁ!!」



 ソフィア嬢の気合。

 接地直前に出力を上げたのだろう。

 ヘリコプターのように爆風が周囲に吹き荒れる。

 ふたたび押し返す力が強くなり・・・。

 ふわり、と舞い降りたかのように俺たちは脚から地面に降り立った。

 飛び降りてから時間にして約10秒のできごと。


 ・・・。

 ・・・。

 心臓がばくばくいってる。

 額や背中にに汗が滲んでいた。

 ほんの一瞬なのに数時間の出来事のような感じがした。


 ・・・!

 やった!!

 やったよ!!!

 150メートル生身で飛び降りてやったぜ!!!

 爆破も防いだぞ!!!



「ふたりともよくやった!!!」


「やりましたわ!!!」


「凄いです! ソフィアさん!!」



 3人でひっついたままでジャンプして喜び合う。

 いちど緩めた腕にもう一度力を入れて彼女たちを労う。

 あまりに無謀な、あまりに奇跡的なチャレンジだったのだから。

 思わず3人、大声で叫んでしまった。


 ・・・あ! こんなことしてる場合じゃねえ!!

 すぐに状況を思い出す。



「喜ぶのは後だ!!」



 俺は急いでジャケットとカーディガンを外す。

 慌てていて手が震えていたが何とか結び目を緩められた。



「ここにいると狙われ・・・る・・・?」


「武様!?」



 視界の端に黒ずくめの奴が数人見えたところで。

 俺はがくんと姿勢を崩す。

 ふらふらと目が回ってしまい前後不覚になった。

 傾いてソフィア嬢に身体を預けてしまう。

 しまった、これは魔力不足!?

 ソフィア嬢の魔法でぜんぶ持っていかれたのか・・・!?



「ごめ、魔力不足・・・あいつら、敵だ、戦え・・・!!」


「さくら様!! 遠方をお願いしますわ!」


「ええ!!」


「武様、命に代えてもお守りいたします!! 竜角剣クリスナーガ!!」



 呼吸が浅い。情けなく膝をついてしまう。

 くそ、足手まといかよ!


 さくらとソフィア嬢が固有能力ネームド・スキルの武器を携える。

 見上げた先に凛々しく構える姿が、ラリクエゲームで見たそれと重なる。

 ああ、こんな美しいふたりの姿を間近で見られるなんて!

 緊急時なのにそんな呑気な感想が頭を過る。


 ・・・敵は確か能力者!

 一筋縄ではいかない・・・!



「奴らも、具現化リアライズを・・・、油断、すんな・・・!」


「はい!!」



 畜生、息も絶え絶えだよ!?

 ここで失神するわけにはいかねえ!

 魔力・・・集魔法だ・・・!

 どうせ動けないんだ、せめて動けるくらいに回復を。


 そう思って集中を始めようとしたところで視界の端、遠方が煌めいた。

 ・・・狙撃!?

 狙いは・・・暗殺目標のソフィア嬢!!



「ソフィア!!」



 動け俺の身体ああぁぁぁ!!

 俺は無我夢中でソフィア嬢に飛びついた!



「きゃっ!!」


「がぁ!?」



 ソフィア嬢を突き飛ばし・・・。

 その迫り来る何かが俺の肩口を貫く。

 飛来物に強く弾き飛ばされた俺は2メートルくらい横に転がった。

 遅れてだぁーん、という銃声を耳にすると同時に焼けるような痛みが全身に走り抜ける。

 撃たれた・・・!! 即死しないだけ御の字・・・!!



「武さん!? よくも・・・!!」



 怒りの声をあげたさくらが狙撃方向に狙いをつける。

 青い魔力がザンゲツにほとばしる!



「其の陰も貫かん――追跡矢チェイス・アロー!!」



 転がりながらも何とか意識を保つ俺の目に映ったさくらの矢。

 それ、誘導する矢・・・!!

 既に上級の汎用能力コモン・スキルを使えるって!?

 さくら、どんだけ能力高いの!?


 発射された矢は青い閃光となって狙撃者がいるであろう方向へ飛んでいく。

 魔力で相殺しない限りあの矢からは逃げられない。

 さくらの強い魔力で放たれたものは実質、回避不能だ。

 スナイパーは行動不能となったことだろう。



「おいでなさい、その命、燃やす覚悟があるなら!!」



 ソフィア嬢が凛とした声をあげる。

 3方向からこちらへ走ってくる黒ずくめの暗殺者に対してだ。

 やつらは陰のゲハイメ・シュターツポリツァイ。

 復活したドイツ王国が抱える秘密警察ゲシュタポに属する反乱分子だ。

 身を喰らう蛇ウロボロスに唆された裏切り者でソフィア嬢を狙っている。

 それぞれ、刺突剣レイピア長剣ロングソード斧槍ハルベルトを構えていた。


 常人であれば3方から同時など対処できるはずもない。

 だが構えているのは人類の尖兵、ソフィア嬢。

 彼女の構えは『騎士の構え』。

 竜角剣クリスナーガを地面に垂直となるよう胸の前に持っている。

 目を閉じて集中し間合いを測る。

 その刀身にエメラルド色の魔力が揺らめいた。

 彼女の全身にも魔力がばしんと駆け巡る!



「参りますわ!! ――疾風怒濤シュトゥルム・ウント・ドラング!!」



 ソフィア嬢が目をかっと見開く。

 その口上と同時。

 突風が吹き荒れた。



「ぐわっ!?」


「ぎいぃ!?」


「ぎゃあ!?」



 彼女が地を蹴ったかと思うと、迫っていた3方向からほぼ同時に悲鳴が聞こえた。


 ・・・え!?

 その全体攻撃、ゲーム後半でかなり強くしないと使えないやつじゃない!?

 風魔法の加速を利用して超高速で動き、疾風怒濤の勢いで敵全員を切り裂く荒技!


 その一瞬で勝負はついた。

 黒ずくめ3人はばたりと倒れる。

 俺の記憶では暗殺者は4人。

 たぶん・・・これで終わった。

 ゲームでは苦戦してたのに・・・なにこの強さ?

 でも命がかかってるなら楽勝に越したことはねぇ。


 ふたりは周囲を見渡し警戒した後、俺に駆け寄ってきた。



「武さん!! ご無事ですか!?」


「ああ、武様!!!」



 さくらは俺の傷を確認している。

 ソフィア嬢は俺に縋ってきた。



「・・・良かった、急所は外れてます! 早く止血を!」


「武様! 武様!! ああーーー!!!」


「ぐっ!? 痛ぇって・・・。 死なねえから・・・」



 出血はしているけれど、たぶん動脈はやってない。

 さくらの見立てどおりなら平気。

 何となく感覚でわかるようになってしまった。

 それより魔力不足も相まって朦朧としてんだよ。

 泣き喚くソフィア嬢の揺さぶりで意識にトドメをさされそうだぜ。



「ふたり、とも・・・怪我、ないか・・・?」


「はい!」


「無事です、無事です! わたくしは無傷ですわ!! 武様!!」


「良く、やった・・・。あと任せた・・・」



 もう良いよな。

 負けイベント・・・ひっくり返してやったぜ。

 こんなんで死なねぇぞ・・・。


 俺はそう頭の中で呟くと激しい痛みに苛まれながら意識を手放した。



 ◇



 気がつくとそこは知っている天井だった。

 もう何回目だよこれ。誰か教えて。

 ここは・・・寮の俺の部屋だ。

 どうにかして戻って来たのか。


 身体は無事そうだ。

 両腕も胴も動く。

 撃たれた場所もほとんど違和感がない。

 胸から肩にかけて血が滲んだ包帯が巻いてある。

 触ってみると痛みもなかった。うん、平気。


 上半身を起こしてみる。

 すぐ横、ベッドの脇にソフィア嬢が突っ伏していた。



「ん・・・」



 俺が動いたせいかソフィア嬢が声を出す。

 ・・・ああね、付き添いしてくれてたのか。


 よくあそこから生還したよ・・・。

 MVP、ソフィア嬢の頭を撫でる。

 命の恩人だよな。

 俺が奮起させたとはいえ乗り越えたのは間違いなく彼女の勇気。

 きっともう恐怖克服イベントをこなさなくても頑張ってくれる気がする。



「ソフィア」


「・・・んん、はい。ソフィアですの・・・」



 寝ぼけてんな。

 金色の眉の下に可愛く並んだ金色の睫毛。

 こんなまだ子供っぽい雰囲気さえある女の子。

 それがあんな活躍すんだから。


 よほど俺が心配だったのだろう。

 あれから着替えてもいない格好の彼女。

 寝てしまうまで一緒にいてくれたのか。


 時間を見ると23時。日付は・・・22日だ。まだ変わってなかった。

 こいつらが俺を連れて帰って、聖女様あたりが治癒してくれたのかもしれない。

 ほんと皆に助けられっぱなしだな。



「ソフィア」


「ん・・・あ、武様・・・」



 気付いた彼女はゆっくりと顔を起こし、きょろきょろとしていた。

 俺と同じように状況を思い出しているのかもしれない。



「付き添ってくれてたんだよな、ありがとう」


「・・・た、武様! お変わりは!? お身体は問題ございませんか!?」


「ああ、もう大丈夫だ。お前のおかげだよ」


「良かった! ほんとうに・・・ああ・・・!!」



 涙を浮かべ顔をくしゃっと歪ませて。

 うわずった声で彼女は飛びついてきた。



「ああ、武様・・・!!」


「よく頑張ったな、ソフィア」



 もういちど彼女の頭を撫でてやる。

 ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。

 ちょっと苦しいけど嬉しい痛みだ。



「うう・・・!! ほんとうに・・・無茶ばかり・・・!!」


「皆、無事だったよな? 良かったよ」


「あああぁぁぁ・・・!!」


「ははは・・・」



 同じ日に二度、こうして泣きながら抱きつかれる。

 なんだか泣き虫に思えてしまって自然と笑ってしまった。



「ぐすっ! な、なにが可笑しいのです!? どれだけ心配したと思っていらっしゃるの!?」


「ごめんごめん。無事だったからさ、なんか安心したら笑っちゃって」


「ほんとうにもう・・・!」



 嬉しげに不満を口にすると、ソフィア嬢は俺から離れ後ろを向く。

 ハンカチを取り出し顔を整え、乱れた髪もさっと整え、居住まいを正した。

 そうして俺に向き直って、きりっと真面目な顔をした。



「武様、改めまして。本日はお助けいただきありがとうございました」


「俺の方こそ助けられたぞ、ありがとな。お前がいなけりゃあのまま駄目だった」


「ですが、怯えるわたくしに勇気をくださったのは武様ですわ」



 ソフィア嬢は俺の右手を両手で取った。

 目を閉じてその手を彼女の胸の前に導く。



「武様」


「どうした」


「わたくしが恐怖したあのとき、武様のお言葉が心に響いてまいりましたの」


「・・・」



 響いた?

 もしかして探究者クアイエレンスのこと?



「『立ち上がれ、誇り高きクロフォード家の果敢なる令嬢』と」


「!?」


「『どんな恐怖にも負けない強者になれる』。他ならぬ貴方のそのお言葉でわたくしは克己に至りましたわ」



 は?

 アレで俺の考えてることが伝わるの?

 単に意思を曲げるだけじゃねぇのかよ!

 そんな超能力テレパシーみたいな力なんて聞いてねぇ!



「そ、そうか。俺も必死に祈ったからな、勇気づけられたならよかったよ」


「きっと共鳴したのかもしれませんわ」


「・・・え?」


「いえ、そうに違いありませんわ! でなければあのように強く感じ入ることはございませんから!」


「そ、そうかな?」


「ああ、武様! ソフィアは嬉しゅうございます!!」



 唖然としている俺にまたソフィア嬢が抱きついてきた。

 ・・・。

 ・・・。

 待て。

 待て待て待て!

 たぶん、まだ、共鳴してない!

 そうじゃないと困る!!



「ふふふ、これでわたくしが武様にいちばん近いのですわね」


「・・・ちょ、ちょっとソフィア!?」



 またぎゅうぎゅうと抱きしめてくる彼女。

 ちょっと妖しい雰囲気が出たところで、押し付けられる彼女の豊かな胸を意識してしまった。

 その感触に驚いて、彼女の肩を慌てて押し返す俺。

 ああもう、顔が赤くなってる自覚あるぞ。



「ああ、武様。そんなに恥ずかしがらなくても。このまま朝までご一緒に・・・」


「待て待て待て!! 俺が良くない!!」


「大丈夫ですわ、わたくしが教えて差し上げますから・・・」



 知ってるよ!! そういう意味じゃねぇ!

 ちょっと待って!

 その蠱惑的な目、色仕掛けじゃなくて本気だよね!

 ベッドに四つん這いで乗ってくるんじゃない!



「ソ、ソフィア、ほら、俺、風呂入ってないし今日は疲れてるから・・・」


「気持ちが盛り上がっているときに致すのがもっとも良いのですわ!」


「俺は盛り上がってねぇ!」



 ちょっとソフィアさん? 顔が上気してますね?

 呼吸が荒くなってません?

 これ俺じゃ止められないやつじゃねぇの!?


 逃げようにも後ろは壁。

 しかも手当のために脱がされたのか下着姿だよ俺!

 部屋から脱出できねぇじゃん!



「はぁ・・・武様、ご安心なさいませ。わたくし、どんな性癖でも受け入れられますのよ。盛り上げて差し上げますわ」


「そういうことじゃねぇ!!」



 咄嗟の言い訳も見事に潰さないで!?

 どんな性癖でもってどういうことだってばよ!

 そんな万能性癖だなんてゲームじゃ語られなかったよ!

 じりじりと迫る金髪お嬢様にとうとう壁際まで迫られてしまう。

 そうして腕を伸ばして俺の身体を絡め取ろうとする。



「ちょ、待、待って!!」


「ほら、目をお閉じになって」



 あーーーーーー!?

 綺麗な顔が迫ってくる!!

 ダメダメダメ!!

 誰かーーーーーー!!


 そんな俺の祈りが通じたのか。

 あと僅かというところでがちゃりと部屋の扉が開いた。



「失礼します。ソフィアさん、付き添いを交代しま・・・!?」



 そして時が止まる。

 追憶のモノクローム。


 だがソフィア嬢は逞しかった。



「あら? さくら様。今から熱い一夜を過ごしますので、交代はもう結構ですわ」


「・・・な、な、な・・・」



 しれっと、お引取りくださいのジェスチャーするソフィア嬢。

 こちらを見て状況を把握したさくらは・・・。


 うん、ここからでもわかる。

 ワナワナと震えてる。

 これは・・・爆発5秒前ですね。

 凛花先輩にキスされたときに見たよ。

 うん。俺も一緒に怒られるやつ?



「な、に、を、やっているのですかーーー!!!」



 後日、俺は寮の管理人さんから夜は静かにするようにという注意をもらった。





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