第52話 ブレイクタイム

 フラムの強力な炎拳で、弾薬は青白く輝く氷の結晶を数え切れないほどに拡散させる。


「クソがァ!」


 レックスは腕を前でクロスさせて大量の結晶を受ける。肉を抉り骨を砕き、傷付いた部位を僅かに凍結させる。


「なんだこれ……ッ! 焼ける! 冷たいのに焼けるように熱い!」


 逃げ場のない空中で渾身の合体技を受けたレックスは、程なくして力なく地面へと落下して行く。


 地べたに落ち、多くの部位に凍える寒さと焼ける熱さを感じているレックスはもがき苦しんでいる。まるで、打ち上がった直後の魚のように。


「美味かったか?」


 フラムはレックスの頭の上で足を振り下ろした。

 ゴチャ、という人間からは出る事の無い音がレックスの頭から奏でられる。頭蓋や脳みそと呼ばれるものがあらわになり、私はそこで彼らを見ることが出来なかった。


「うっ……」


 生理や献血などで血は見慣れていても、人間の頭部から出る血肉はさすがに許容出来ない。


 私の様子を見て不信感を抱いたのか、フラムは私に近寄り背中をさする。


「大丈夫かスノウ? やっぱり無理させちゃって悪かったな」


 事故現場や実際に人体が破壊される瞬間を初めて見た。

(スノウはこんなグロい事を下界の獣や神にやっていたのか。本当にすごいな)


 私とフラムは鋼技こうぎ屋の中へと戻って行った。



 どこからかの、何者かの視線を受けながら。



「あぁ、また外で暴れていたな? 東京駅は喧嘩する場所じゃないぞ」


 サルがちゃぶ台に、2人分のハムとゆで卵が挟んである三角形のサンドイッチと、ほのかにリンゴの香りがする紅茶を出してくれた。

 そういえば、私は現実世界で撮影が終わったあと、すぐにこちらの世界に来てしまったため夜ご飯を食べていなかった。


 ぐぅ〜


 意識した途端にお腹が鳴ってしまった。


「ははは、食べな嬢ちゃん」


 私は手を合わせて一礼する。

 

 紅茶のカップを持ち上げて口へ運び、リンゴの香りと茶葉の風味を確かめる。1口含むと、それはとても繊細な舌触りで、匂いと味がお互いを邪魔しない良い紅茶だと身に染みた。

 

 次に、お皿に乗っているサンドイッチを手に取り、三角の端から口へ頬張る。

 マヨネーズ風の味わいがするソースに、黄身の固さが丁度良いゆで卵、塩気の良いハムがサンドイッチとしての美味しさを十分に示していた。


「美味しい……」


 まるでカフェに出てくるメニューのように美味しい。こんな鉄臭い店からオシャレな朝食のような物が出てくるとは思っていなかった。


「サル! もっと無いのか?」


 フラムは皿をサルに渡す。

 皿を受け取った彼は、ヤレヤレといった様子で再び部屋の奥へと歩いていった。


「ちゃんと食って、今は休めよスノウ」


 フラムのその言葉を聞き、食べ物を口に含んで、私はこの世界に来てから初めてリラックス出来た。


 ふと、緊張が緩んだのか。私は倒れ込むように寝てしまった。

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