第48話 ロアー

 レックスは手斧を乱雑に振るう。それをフラムは避けて、なし、弾く。2人の戦いはとても綺麗で、格闘技がスポーツとして現実で栄えているのにも納得がいく。


 手斧を避けたフラムは殴り、殴りを受け止めたレックスは手斧を振るう。まるでいたちごっこのように見えるその様は、真似をしろと言われても絶対に出来ないようなプレッシャーがあった。


「これはどうだ?」

 

 そんないたちごっこの流れを断ち切ったのはフラムだった。彼は一撃加える行動を二撃へと変え、攻撃のテンポを上げたのだった。

 その速さに対応すべく、レックスも受け止めた後の行動を素早く、そして力強く行う。


「まだまだ行けるぜ!」


 レックスはフラムに負けじと蹴りも織りまぜて攻撃を行うようになる。

 しかし、彼は知らなかった。フラムの本領は、打撃を積み重ねてからだということを。



 フラムのレーヴァテインは焔を纏って速度を上げる。炎撃のジャブは残像が見えない程の速さで、ローキックは隕石の如く力強く、体当たりは重機機関車のような速度で重くレックスにぶち当たる。


 一撃、また一撃とレーヴァテインは熱を帯び、とうとうレックスはその速さに追いついて行けなくなっていた。


「どうしたんだ? まだまだ行けるんじゃなかったのか?」


 紅の細い手甲と朱色のブーツは、グツグツと煮え滾るマグマのような音を発している。ぶん殴り、蹴り飛ばし、そうして帯びた熱はフラムの戦闘力を神以上のものとしている。


「はは! 『疾風弩闘しっぷうどとう』!」


 橙色だった炎は紅蓮に変わり、打った拳や蹴りに残炎を長く残す。レックスに当たる攻撃は先程までの速くて重いだけではなく、打った部位が僅かに溶解するほどの高温で乱打されている。


 フラムは止まる事を知らない。レックスが必死に避けようとフラムの拳の軌道を変えるが、レーヴァテインに触れるだけで焼け爛れる。

 フラムの接近戦はあまりにも強すぎて、下界での修行以外にも強さの秘密がありそうな予感がした。


「ぐ、ああああぁぁぁ!!」


 レックスは突如として叫び出す。その咆哮は、フラムからの連撃による苦痛の叫びなのか、はたまた彼自身の戦いへの飢えから来る渇望によるものなのか、私には分からない。

 

 しかし、レックスの咆哮の直後、フラムの手足から出血するのを私は左眼で捉えた。

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