第46話 レックス

 鋼技こうぎ屋の外へ出ると、紫色のパーカーに赤紫のパンツを履いている男が立っていた。その男の右手には、刃がグリップにまで反っている手斧が握られていた。


 「お前らがエスを殺った神殺し共だな?」


 私はこの時、初めて神と対峙した。自分に向けられる殺意と、空気が震えるような威圧感を肌で感じている。


「スノウ、病み上がりなのに立つなよ。俺がやる」


 フラムは私の前に手を出し、私が武器を構えようとするのを遮った。本物のフラムが私に話しかけ、私を守ってくれようとしているこの状況に少しドキドキしている自分がいた。


「俺は神の『レックス』だ。そこのお前、名を名乗れ」


 レックスと名乗る神はフラムを指さした。それに答えるよう、フラムは軽く跳ねて首を回し、親指で鼻を拭った。


「俺はフラム、フラム・カグツチ!」


 フラムはレーヴァテインに魔法を込めたのか、実際に生で見るレーヴァテインはとても綺麗に燃え盛り、その熱が私にまで伝わってくる。


「フラム・カグツチ、お前は俺の空腹を満たしてくれるか?」


 レックスは顔半分の鋼鉄から赤い筋を浮き出させる。その筋は、次第に恐竜のTレックスのように角張った頭蓋と顎を形成していった。

 口元からはふつふつと煮立ったヨダレが流れ、腕からはメキメキという謎の音が聞こえる。


「フラム、援護は必要か?」


 私はスノウのようにフラムへ問いかけた。フラムは私の方を振り向かず、その黒く長い髪をユラユラとたなびかせてこう言った。


「心配いらない、こいつは俺がやる」


 その瞬間彼からは、戦闘経験の無い私ですら伝わる闘気を放った。現実とは違い、本当にここで命のやり取りが行われる。

 私は私の選択した道を少し後悔してしまった。


 

「オラァ! 『神食かみはみ』!」


 レックスは手斧を縦に大きく振り下ろした。フラムはそれをひらりと避けると、避けた地面にレックスの手斧の風圧で歯型のような痕がつく。


「オラオラオラァァ!!」


 レックスは止まらずに手斧を振りまくる。歯型の風圧は四方八方に飛んでいき、フラムの服の端や瓦礫など様々な物を噛む。


 フラムはレックスの猛攻を避けるばかりで、反撃をするような動きは見せない。


「どうしたァ!? フラム・カグツチ!」


 レックスはグリップまで反っている刃をべろりと舌で撫で、反撃をしないフラムに手斧を振り続けている。


 (フラムはなんで反撃しないんだろう。戦う前の構えもまだとってないし……―――ッ!)


 私は戦闘の構えを取れていないフラムに気づき、レックスの攻撃を止める方法を考えた。


 (死にたくない、まだ生きたい、でもフラムが戦う準備が出来ないのだとすれば、レックスを何とかして止めないと……)


「レックス! こっちだ!」


 私は震える手足を叩いて鼓舞し、絶対にフラムなら助けてくれると信じてレックスに走る。


 (これしかない……私が頑張らないと! スノウになるんだ私は!)


 ガンブレードを肩に担ぎながらレックスの前まで近づき、手斧を振っている彼にガンブレードを振り下ろした。

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