第16話 アイリちゃん2

 十二月に入った。

 直美さんの事が忘れられず、山本に心配される程、僕は腑抜けになっていた。

 そんな有り様だから国際学概論の講義は全く頭に入っていない。今回も試験を落としそうだ。就職が決まっていても単位を落とせば卒業できない。頭ではわかっている。直美さんの事なんか早く忘れなきゃいけない。しかし、どんなに忘れたいと思っても直美さんでいっぱいだった。


 山本に女の傷は女で癒すんだと言われて、アイリちゃんに電話をした。アイリちゃんの方から会いたいと言ってくれたので、大学の後に駅で待ち合わせた。

 白いコートを着たアイリちゃんは茶色かった髪を黒くしていた。目もカラコンはしてなくて、黒かった。

「就活始めたんです」

 外見について言うと、アイリちゃんはそう言った。

「行きましょう」

「どこに?」

 アイリちゃんが耳に口づけるように言った。

「ラブホテル」

 びっくりした。

「優介さんに言われた事、ずっと考えてたんですよ」

 恥ずかしそうにアイリちゃんが言った。

「いいの?」

「はい。優介さんはエッチしたい男の人ですから」

 そう言ってもらえたのが嬉しい。

 久しぶりに少しだけ明るい気持ちになった。


 アイリちゃんとラブホテルに入り、休憩ではなく宿泊コースにした。

 部屋も一番高い所を選んだ。決断をしてくれたアイリちゃんの為にそれぐらいの事はしたかった。


 部屋に入るとキスをした。

 それから丸いダブルベッドにアイリちゃんを押し倒した。

 コートを脱がして、セーターを脱がして、キャミソール姿にして、こっちもコートを脱いで、セーターを脱いで、上半身裸になった。

 アイリちゃんにキスをせがまれて深いキスをした。舌を絡ませて、アイリちゃんの口の中を舐めまわした。

 それから、アイリちゃんのキャミソールと、ブラジャーを脱がせた。

 張りのある白い肌とピンク色の乳首だ。乳首を吸うと、アイリちゃんが艶めかしい声をあげた。反応がどんどん大胆になってくる。

 アイリちゃんを強く抱きしめた。


「直美さん」

 思わず、そう呼んだ。

 高ぶっていた感情が一気に覚める。


「ごめん」

 アイリちゃんから離れた。

 これ以上は出来ない。


 山本の言葉が身に染みる。

 ――世の中にはエッチしたい女と、したくない女の二種類しかない――。

 アイリちゃんは後者だ。

 いくら若くて好みのタイプでも、ダメな物はダメだ。

 気持ちがついていかない。

 僕が抱きたいのは直美さんだ。

 直美さんに会いたい。

 顔を見たい。

 声を聞きたい。

 直美さんが恋しくて堪らない。


「最低ですね」

 アイリちゃんはそう言って部屋を出て行った。

 その通り。アイリちゃんを直美さんの身代わりにした僕は最低野郎だ。

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