第20話 森であった人にエルフと名付けましたわ!
皆様お久しぶりです、ヤクアですわ。今私達は蛙さん達から教えて貰った、使徒様の向かった方角に向けて巡礼の旅を続けている途中ですわ。
「お嬢様、だんだんと森が深くなってきました。十分お気を付けください。」
「えぇ解っていますの。ですが、この森からは使徒様の力を強く感じますわ。恐らく心配はいらないでしょう。」
「なんと!!この森も使徒様が作り替えられたと?」
「えぇ、そのように感じますの。」
胸に下げた使徒様のお守りを強く握ります。そうするとこの森が使徒様のお力で溢れているのが感じ取れましたわ。ここを通った事は確実。であるならば我々も後を追うのみです。
「きゅあ?」
「大丈夫ですよ。お祈りをしていただけですから。では先を急ぎましょう。偵察に出ているライヒは戻って来ましたか?」
「いえ、まだ戻って来ていません。」
「そうですか・・・。無事なら良いのですが。」
ガサガサガサ!!
「お嬢様下がってください!」
森の中で先に危険な物が無いか見に行っていたライヒの安否を気遣っていると、傍に在る藪ががさがさと音を立て始めました。ゼバスが私を庇うように前に立ちます。そして、じっと藪を見ているとそこからライヒが飛び出してきました。
「お嬢!!お嬢!!っ!!」
「どうしたんですの!?」
「この森はまずい!!すぐに逃げるんだ!」
ヒュッ!!ガッ!!
ライヒが叫ぶのと同時に、こちらに矢が飛んできましたわ。矢は私の傍の木に刺さり、ビィィィンと音を立てながら震えています。
「誰ですか!!」
『お前等こそ誰だ。ここは神の園である。無断で立ち入らないで頂こう。』
森中から声が響いてきます。これでは相手の位置が解りませんわ。
「お嬢様、ここは一度引くべきです。」
「そうだぜお嬢!!命あっての巡礼だろ!!」
「いいえ、私は最初に言いました。この巡礼の旅では命を掛けねばならないと。お守りを握り、祈りを捧げなさい。使徒様が何を望まれているか分かるはずですわ。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
私の言葉に巡礼の同行者たちはお守りを握り、祈りを捧げていますわ。あぁ、使徒様のお力が巡礼者達に満ちて行きます。どうか我等をお救い下さい・・・・。
『むっ?その気配は・・・・。』
「何か知っていますの?」
『我等の神と同じ気配・・・・よく見れば着ている衣服も神を模した物・・・・。黒く聡明で穢れを払う神を知っているか?』
私達が祈りを捧げていると、森の声から問いかけが飛んできました。この世で浄化を行えるのは使徒様しかおりません。
「知っていますわ。私達は使徒様に浄化された信徒。このお守りがその証ですわ。」
私は森に向かってお守りを高々と掲げます。すると、木の上から見目麗し男性の方が飛び降りてこられました。手には弓を持っていらっしゃいます。
「これは失礼した。同じ神を信奉する仲間であったとは。私は神よりこの地を任されたもの。まだ名前すらない新たな種族の物だ。」
弓を背中に背負い、頭を下げる男性。新たな種族と言う事はゴブリナさん達と同じ立場と言う事ですわね。
「こちらにも、使徒様が作り替えた種族の方達が居ますわ。」
「きゅあっ!!」
「なんと!!同類もいらっしゃるとは!!重ね重ね攻撃して申し訳ない。どうか我等の村に来ていただけないだろうか?ここに来る前の神の御業に興味がある。」
「構いませんわ。私たちもここで使徒様が行った奇跡を書き残さねばなりませんもの。」
「失礼だが、あのお方は神では無いのか?」
「・・・・そうですわね。神と呼んでも差し支えないかもしれません。ですが、この世を自らの足で歩き、世界を見て浄化している事から使徒様、もしくは神へ至る修行の最中である方だと私達は考えていますわ。そして、神になる前であれば神と呼ぶことは不敬。ですから使徒様とお呼びしています。」
「なるほど・・・・では我々も使徒様とお呼びしよう。村はこっちだ、着いて来てくれ。」
案内された場所では草を編んで作った家が並んでいましたわ。そして広場の様な場所には小さな気が一本生えていました。
「あれは?」
「使徒様よりお譲り頂いた種から生えた御神木だ。我らはあの木と、森に神自身が植えられた樹木を守護している。」
「なるほど、森全体を作り替えたのですわね。」
「さすが使徒様です。」
「ところで、貴方達の元の種族はなんでしたの?こちらの方々はゴブリンでしたの。変化してゴブリナとなりましたわ。」
「トレントだ。元は悪しき木の化け物であったが、使徒様が我々を浄化して作り替えて下さった。そして樹木を守る使命を与えて下さったのだ。」
なんと!!使徒様より直接使命を授かれるなんて羨ましいですわ!!でも使徒様は喋れませんから名前が在りませんのよね・・・。そうですわ!!使徒様の第1の信徒である私が名前を付けて差し上げましょう!!
「使徒様・・・・この者達に名前をお授けください・・・・。」
「何をされているのだ?」
「お嬢様は使徒様と交信して、貴方達の種族名を授けようとしています。ゴブリナという種族名もお嬢様がお付けになりました。」
「なんと!!それはありがたい!!使徒様より名を賜れず、難儀していたのだ。」
使徒様を模したお守りが手の中で光り始めます。そして私の頭の中に1つの言葉が浮かびましたわ。
「エルフ・・・・エルフですわ。悠久なる者という意味ですわね。」
「エルフ・・・そうかエルフか。使徒様の名づけであれば喜んで受け取ろう。我らは今日からエルフ族を名乗るぞ!!」
男性の声で、その場にいたエルフ達は完成を上げていますわ。個人名は自分達で考えて頂くとして、今日からこの人たちの種族はエルフですわ!!
「種族名を教えて頂き感謝する。例と言っては何だが、宴会をしようと思うが参加して頂けるだろうか?」
「同じ使徒様を信奉する物として是非参加いたしますわ。皆さんもエルフさん達を手伝ってくださいませ!!」
「感謝する。皆の者!!今日は外の世界に居る同胞を歓迎する宴だ!!神より預かった神樹の実を用意するぞ!!」
そう言うな否やエルフさん達は森に消えて行きましたわ。私達は自分の寝床と、宴会の準備の手伝いを手分けして行いました。そして、日が暮れると宴会が始まりましたわ。私達はそこでさらに驚く体験をしましたの。
「この赤い実はなんですの?」
「使徒様より預かった神樹の実の1つだ。赤い実と言う意味でアッポと名付けた。こちらの紫の粒粒が付いているのがグレプ。黄色いのがオレジ。黄色く細長いのがバナだ。」
「これらは全て使徒様が?」
「あぁ、これらは芳醇な匂いを周囲に放ち、味も絶品だ。狙う輩は多い。特に空からくる害獣が厄介でな。恐らくそれで弓の名手である我等をエルフに作り替えて守るように仰ったのだろう。」
さすが使徒様!色々と考えておられますのね!!このヤクアますますあなた様を信奉します!!
「ささっ、食べてくれ。」
「構いませんの?」
「もし駄目なら神樹は落としてくれないのだ。あなた達に振る舞うと言ったらこれだけの量を落してくれた。余程大事に思われているのだろう。羨ましい限りだ。」
「いいえ、使徒様から直接使命を授けられたあなた達の方が立派ですわ。」
「ではお互い様だな。」
「はい、ではこのアッポを頂きますわ。」シャク
真っ赤な実の中身は逆に真っ白でしたわ。シャクシャクと軽い食感なのに、中からどんどん美味しい果汁が溢れ出して止まりません。甘さと少しの酸味で無限に食べられそうな果実ですわ。
気が付いたら私はアッポの実を芯だけ残して全て食べていましたわ。
「はっ!!いつの間に!!」
「ははは、気に入って頂けたようで何よりだ!!芯まで食べ様としたらさすがに止めようと思ったがな。」
「この黒いのはもしかして種ですの?」
「あぁ、我々は神樹を増やす事もしている。種は集めて、後日まだ植えていない場所に持て行く予定だ。」
なるほど、神樹の実は信徒に、そして種は森の浄化に使うわけですわね。このような物を作り出した使徒様はやはり凄いです!!
「さぁさぁ!!他の物も食べてくれ!どれもうまいぞ?」
「頂きますわ。あなた達もご馳走になりなさい。」
「「「「「「「「「「はい!!(きゅあ!)」」」」」」」」」」」」
その夜はとても楽しかったですわ。エルフの方々から使徒様の起こした奇跡も聞けて大満足でしたの。もちろんお返しに私達が受けた奇跡をお話して差し上げましたわ。
「お嬢様、1つご提案があります。」
「なんですの?」
宴が終り、それぞれの寝床に帰る時になってゼバスが私に話が在ると引き留めましたわ。
「エルフ達の守る神樹の実はとても素晴らしい物です。これを、ピュリファイの街に持って行けないでしょうか?」
「街に居る信徒達にも食べさせてあげたいのですね?」
「はい、そして今だ信徒になっていない者達を引き寄せる、餌としても使います。」
「この世の物とは思えない天上の果実。それを食べたいのであれば信徒になれと?そのやり方には不安がありますわね・・・。」
「いいえ、信徒になる前に食べさせるのです。ピュリファイ教は世界を浄化する使徒様の思いを受けて活動していると。世界の浄化が終ればこのような美味がどこでも食べられる様になると言うのです。」
なるほど、使徒様は今も世界を浄化しています。今はまだ、不浄の地が多く神樹を育てられる場所はありません。(※と勝手に思っています。)ですが世界の浄化が終れば神樹の種を譲り受け、私達でも育てれば良いのですね。(※現状でも育てられます。)
「解りましたわ。ただし、その言葉が虚偽にならない様に全力で使徒様をお助けしますわよ。」
「はっ!!この命に変えましても!!」
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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