第18話 美味しいもの食べ過ぎてお腹痛くなっちゃった・・・。なんで皆喜んでるの?
「きゅっ♪きゅっ♪きゅっ♪」
黒いのは宴に参加しながら動物人間達と一緒に踊っていた。手を取り合って出鱈目に飛び跳ねているだけだが、それでも黒いのは楽しそうに鳴き声を上げている。
そんな黒いのの周りでは他の動物人間達も一緒になって踊っていた。黒いのが楽しそうだと言うのも理由だが。それ以外にも、自分達の体と心が何かから解放された事を感じ取っていたのかもしれない。
その宴は夜遅くまで続いた。黒いのは途中で眠くなりうとうとし始める。その事にいち早く気が付いた猫人の女性が、黒いのを抱き抱えると「きゅぴー、きゅぴー。」と寝息を立てながら眠ってしまった。
猫人の女性は他の仲間達から黒いのを抱っこした事を羨ましがられながら、街の教会で黒いのを寝かし付けた。黒いのが寝た後も宴会は続き、ほとんどの街の人が酔い潰れる事で宴会は終わった。
「きゅあぁぁぁぁぁぁ・・・・・・。きゅっ?」
翌日、教会で目が覚めた黒いのは、自分の他にも一緒に寝ている人達がいるのに気が付いた。それは昨日チーズを持って来てくれた猫人や、最初に体を作り替えた女性達だった。
黒いのの横にはいつの間にかあの赤ん坊も寝かされていて。赤ん坊の方が先に目が覚めていたのか黒いのの籠手の指を掴んで口に咥えていた。
「にゃむにゃむ。」
「きゅっ!?きゅきゅきゅ!・・・・きゅ~。」
赤ん坊が指を食べている事に驚く黒いの、だが急に動かしたらこの子猫が怪我をするかもしれない。黒いのは最後あきらめたように指を吸わせながら、赤ん坊を抱っこした。
「きゅ、きゅ、きゅ、きゅ~。」
「にゃにゃ~ん。」
「きゅ~♪」
指を吸わせながら体を揺すって赤ん坊をあやす黒いの。その知識は何処から来たのかと突っ込みたいが、どうやら魂からにじみ出て来た記憶の様だ。黒いのの前世は一体何なのだろうか?
それはさておき、黒いのが子猫の赤ん坊をあやすと、赤ん坊は黒いのの体の揺れが面白かったのか両手を伸ばして喜んだ。黒いのは赤ん坊が口から指を離してくれて喜んだ。
「ふふふ、使徒様は優しい方ですね。」
「赤ん坊をあやせる何て、やはり断罪者ではなく守護の使徒様なのよ。」
「命の守り手様ね。でも教会で教えられる姿とは似ても似つかないわよ?」
「それは教会の連中が歴史を捻じ曲げたのよ。教会が言っている事は嘘で、私達の目の前に居るあのお方こそが本物なのよ。」
「私達を助けてくれたものね。あり得るわ。」
黒いのが騒いだことで目が覚めた女性陣が、赤ん坊と戯れる黒いのの姿を信奉者の目で見守る。そして、教会で教えている守り手が黒いのだと勝手に結論付け、信仰心を深めていた。
「さぁ、使徒様に美味しい朝食を食べて頂きましょう。チーズと牛乳がお気に召したみたいだからその両方を使った料理を作るわよ。」
「男連中は酔い潰れているから、消化に良いリゾットにしましょう。」
「使徒様、この子の面倒を見て下さってありがとうございます。さぁおいで。」
「フシャーーッ!」
「きゅっ!?きゅっきゅっきゅ~♪」
「にゃ~ん、ゴロゴロゴロ・・・・。」
「あらあら、しょうがない子ねぇ。すみません使徒様、その子の面倒をもう少し見ていてください。」
「きゅっ!?」
「お願いしますねぇ~。」
「きゅきゅ~!!」
女性陣が全員起きだし、朝食の準備を始めるようだ。赤子の母親も黒いのにいつまでも面倒を見て貰っては悪いと、クロノから赤ん坊を受け取ろうとする。だが、赤ん坊の方が母親の元に帰る事を嫌がり威嚇までした。
黒いのが慌てて赤子をあやすと、喉をゴロゴロと鳴らして黒いの体に頭をこすり付けている。それを見た母親は、黒いのに子守を任せて自分も朝食の準備に行ってしまった。
困惑する黒いのは、母親を呼び止めようとしたが時すでに遅く、朝食の準備に行ってしまった。
「きゅ~・・・・。」
「にゃん!!」
楽しい事も終わってそろそろ別の場所に行こうと考えていた黒いのは、赤ん坊を放っておく事も出来ずに教会の中で面倒を見続けた。もし赤子の世話が無ければ朝食の準備中に黒いのは居なくなっていただろう。
動物の感なのか、ことごとく黒いのが街を出るタイミングを潰していく街の人達、今回は赤子の母親のファインプレイで黒いのは旅立つことが出来なかった。
「きゅ~♪」
「使徒様は本当に牛乳とチーズが好きですねぇ。おかわりどうですか?」
「きゅっ!!」
「今お持ちしますね。」
女性人達が朝食を作り終え、現在皆で朝ごはんを食べている所だ。子猫もお腹が空いたのか黒いのの体にある宝石をチューチュー吸っていたが、母親が来たことでそちらに移って今お乳を貰っている。
黒いのはやっと赤ん坊から解放され、女性陣が作ったチーズリゾットを食べていた。おかわり迄平らげた黒いのは満足そうに宙に浮いている。すると、お腹の中から ゴロゴロゴロ と何かが動く音がし始めた。
「きゅ?きゅぅぅぅぅぅぅ・・・・。」
「使徒様?大変だ使徒様が苦しそうだぞ!!」
「だれか医者を、医者を連れてこい!!」
お腹を押さえて苦しそうにする黒いの。その姿を見て周りに居た人達が慌てだす。ヤギに変化してメガネを掛けた医者が黒いのの様子を見に駆け付けた。
「どれ使徒様のお体が我々と一緒かどうか分からんが見てみよう。」
「頼むぜ先生!!」
「きゅぅぅぅぅぅぅ・・・・。」ゴロゴロゴロ
耳をお腹に当てて音を聞き、鼻で匂いを嗅いで異常が無いかを調べ、手でお腹を触診する。動物の体になってまだ1日と立っていないのにどうやら体の使い方は心得ている様だ。そして、診察が終わって難しい顔をするヤギ先生。
「どうなんですか先生!!」
「体の構造がやはり違うから何とも言えんが・・・・・。食べ過ぎじゃな。」
「「「「「「へっ?」」」」」」
「使徒様はどうやら普段、我々が取っている様な食事はされておらん。別の何かを食べて居る様じゃ。今回は始めて我々と同じものを食べ、おいしさのあまりに食べ過ぎてしまった様じゃ。こんな小さな体じゃから無理も無いがの。使徒様はリゾットをどれほど食べられたのかの?」
「あっそれなら10杯ほど。」
「確実に食べ過ぎじゃの。吐いてしまった方が楽なんじゃが・・・・。今は無理か。」
「きゅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・。」ゴロゴロゴロ
ヤギ先生の質問に、黒いのの世話をしていた猫人の女性が手を挙げて答える。ヤギ先生は女性の回答を聞いて食べ過ぎだと断定した。苦しそうにお腹を押さえて転がる黒いのの背中をゆっくりと撫でるヤギ先生。すると、黒いのの体の口が開いた。
「おべぇっ!」
カンッ!!ゴンッ!ガラガラガラガラ!!
「なんと!!こんな物が腹に入っておったのなら苦しむのも当然じゃ!!ほれゆっくりでええから全部出すのじゃ使徒様。」
「おべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
黒いのが吐き出したのは、兵士達が持っていた剣や鎧だった。森の中で動物に変えた時は剣と身に着けられる鎧を持たせていたが、街を襲った時は全て奪っていたらしい。黒いのが吐き出した剣や鎧、他にも鍋やフライパン等の金属製品をみて、集まっていた人の中にそう言えば無くなっていたなと気が付いた人達が居た。
「きゅ~・・・・・・。きゅぴ~、きゅぴ~。」
「全部出たかの。吐き出して体力を使ってしまった様じゃ。しばらく寝かせて置こう。」
「私が運びます。」
「なぁ、これ色が変わってないか?なんか白いっていうか輝いてるっていうか・・・。」
「言われてみれば・・・・。ちょっと見比べてみよう。」
この街の兵士が黒いのが吐き出した剣を見て変化に気が付く。そして、一緒に見ていた兵士が自分の剣と見比べると、明らかに黒いのが吐き出した方が白く輝いていた。
「おぉっ!!やっぱり変わってる!!」
「つまりこれらの武具に鉄製品は使徒様が祝福された物なのか?それってつまりは神具じゃないか?」
ざわざわと騒ぎ始める人達、自分の物だとは思うが使徒様が祝福した物を独り占めする事等出来ないししたくない。でもそれが自分の為にして貰った祝福だったら使徒様の思いを無下にしてしまう。黒いのが吐き出した物品の扱いに困る人々。そこに、牛隊長が姿を見せた。
「落ち着け皆の者!!使徒様は宴のお返しにと神具を授けて下さったのだ。元の持ち主が解る物には使徒様から特別な感謝が込められていると見える。持ち主が解る物についてはそのまま返却し、残った物は皆で話し合い、遺恨の残らない様に分配するのだ。」
牛隊長の言葉で動き始める街の人々、黒いのは人を飲み込むときにかなり多くの鉄製品も一緒に飲み込んでいた様で、話し合うまでも無く街の人全員に吐き出した物品が行き渡ってしまった。
「使徒様。此度の恩恵に皆感謝しています。ありがとうございました。」
なぜか今の体のサイズに合うように変化してしまった鎧を身に着けた牛隊長は、教会で寝かされている黒いのに向かって感謝の言葉を口に出しながら祈りを捧げる。他の街の人達も同じように、分配された神具を持って祈りを捧げた。
後に、獣人と呼ばれる人達の街はこうして始まった。生まれてくる時に1つ、祈りの道具を選ぶ風習が残り、強靭な身体能力と祈りの道具を使った仕事を己の職分として発展していく。
各個人の特性を生かした獣人達の文化は人よりも進み、人が妬みの上で起こした戦にも勝ち続けた。中でも直接黒いのに変化させられた人々は神獣人と呼ばれる程強く。中でも黒い猫の神獣人は黒いのには及ばないが浄化の力を宿していた。その猫の神獣人が黒いのの宝石を吸ったあの赤子である。
茶色い子猫が将来黒猫になって黒いのの後継者として見られる等とは知らない人々。その原因となる黒いのと言えば、また赤ん坊と一緒に寝かされてスピスピと寝息を立てているのだった。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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