第14話 バイバイお山、騒がしいね森
「偉い目にあったわい・・・。」
「ふふふ、これからよろしくお願いしますわね。あ・な・た♡」
「きゅ~?」
翌日の朝。昨日寝ていた場所からゲッソリとした顔で出て来た元土竜と、その土竜の腕を取って幸せそうに頭を寄せるリーダーの姿があった。黒いのはそんな様子の2人に近寄り首を傾げる。
「お前さん、どこに行っておったのじゃ・・・。助けを呼んだのに様子を見にも来んとは・・・。」
「ふふふ、神様からお許しは得ていると言ったでは無いですか。」
「きゅ?きゅ~、きゅきゅ!!」
「あっ待てどこに行く!!」
「あぁ神様お待ちになって!!」
何やら文句を言っている元土竜に、幸せそうなリーダー。その姿に元黒土竜に任せれば土竜は大丈夫だろうと思った黒いのは、手を振りながら上昇していき、そのまま壁の中に姿を消していった。
黒いのを呼び止めようとする2人、だが黒いのは広場の天井から出て行ったのですぐに追いかける事も出来なかった。
そんな騒ぎに起きて来た元黒土竜達。黒いのの様子から旅立ってしまったと聞いた者達は嘆き悲しんだ。だがそこでリーダーが、元土竜と結ばれたと報告した。
神はそれを確認してから旅立った、と言う事は元土竜を長にして、群れを大きくしていくのが黒いのの願いだと勝手な憶測も付け加えたことで、元土竜達に結婚&出産ブームが巻き起こった。
もちろんそんなに急激に人口を増やせば食い扶持が増えて即座に群れが破綻してしまう。元土竜は自分が生まれた時に持っていたつるはしとハンマーを使い、鉱石を掘り出し始めた。
その鉱石を持って、近くの話が出来る種族を探した元土竜は、森の中でエルフと出会った。最初は警戒していたが、お互い黒いのに縁があるという事でエルフとの交流が始まり、宝石と果物のブツブツ交換が始まる。後に彼らは、黒いのを追って来た人によってドワーフと名付けられた。宝石と鉱石を掘らせれば一流で、生涯1人だけを愛し添い遂げる愛情深い種族だと。
人との交流で鍛冶技術を手に入れたドワーフは、掘り出した鉱石や宝石を加工する術を手に入れてさらに職人として名を轟かせていく。黒いのに作られた同士、エルフと協力して森と山周辺の環境保護も行った。
そんなドワーフの地下王国には、今も初代国王の使っていたつるはしとハンマーが、当時の形を保ったまま飾られている。
そんな未来を知る由もない黒いのは、ドワーフの洞窟から抜けて山の頂上にたどり着いた。
「きゅーーーーっ!!」
山の頂上には大きな口が開いていて、その中では赤く輝くマグマがボコボコと音を立てて泡立っていた。そんなこの世の物とは思えない光景に、勘当で鳴き声を上げる黒いの。
だがマグマはボコボコと泡を立てるだけで何も起こらず、暑すぎて近づけない黒いのは早々に飽きてしまった。
「きゅ~・・・・きゅっ?」
何か気になる物は無いかなぁと探す黒いの。すると、エルフのいる森とは反対側の森が何やら騒がしくなっている事に気が付いた。
「きゅぅ~♪」
何かあるかなぁと楽し気に山を下りて行く黒いの。騒ぎの元を訪れると、そこには木々と同じくらいの体躯の牛と、これまた木々と同じくらいの体躯の虎が争っていた。
「ぶも~!!」
「ぎゃう!!」
虎は牛の後ろに隠れている子牛を狙っている様だ。牛の方は母親だったのだろう、必死に子牛を守ろうと
「ぶも!!」ゲシッ!!
バキバキバキ!!「も~・・・・・。」ガクリッ
どうやら勘違いだったようだ。後ろ足で子牛だと思っていた牛を蹴り飛ばした大牛は、木に衝突して絶命した牛を見てあれは自分の獲物だと虎ににらみを利かせる。よく見たら牛の歯には牙があり、肉を食べるのだと解る。誤情報をお伝えした事をここで謝罪いたします。
「ぎゃう!!」
「ぶも!!」
「きゅ~?」
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぶもぉぉぉぉぉ!!」
おっと、謝罪している内に2匹が黒いのに気が付いた様だ。突然現れた黒いのに驚きの一瞬固まるが、即座に威嚇の鳴き声を出して黒いのを牽制する。どうやら黒いのもあの牛を食べに来た敵だと判断したようだ。
何をそんなに大声上げているだろう?と首を傾げていた黒いの。すると2匹が突然黒いのに向かって突っ込んで来た。
「きゅ!?」
「がぁう!!」
「ぶもぉ!!」
「きゅ、ぐばぁっ!!」
「にゃっ!?」
「もー!?」
メリメリ、ボリボリ、くちゃくちゃ、ゴクン。
2匹が黒いのに向かって走って来るのをこれ幸いと大口を開けて待ち構えた黒いの。2匹は自分の突進の勢いを殺せず、そのまま黒いのの口の中に消えて行った。そして咀嚼が終った黒いのは2匹を飲み込んだ。
ついでに先ほど吹き飛ばされた牛も体の口の中に入れて咀嚼して飲み込む。そうこうしているうちに他の動物達が姿を現した。
「めへぇ~!!」
「ばう!!ばう!!」
「にゃ~ん。」
「しゅるるるる。」
先程の牛や虎と同じように体の大きな羊に犬、猫に蛇がお互いを牽制しながら黒いのににじり寄る。どうやらこの森は体の大きな物が強く、そして強い者を食べれば自分も強くなるという、まるで動物版蟲毒の様な森だったのだ。{間違ってないよな。ぺらり(土地の資料を見る)間違ってないな、よし。}
「べへぇ~~~!」
「がぁう!!」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「シャーッ!!」
「ぐばぁっ。」
「「「「!?」」」」
もぐもぐ、ゴクンッ
黒いのを狙って近寄って来た4匹は、だれが黒いのを襲うかで自分達で揉め始めた。黒いのがそんな隙を逃がすわけがない。羊が犬に、犬が猫に、猫が蛇に、蛇が羊に飛び掛かり、団子状になった所を一口で食べた黒いのは、そのまま4匹も飲み込んでしまった。心なしか咀嚼の速さも上がっているようにも感じる。
「ぎゃーぎゃーぎゃー!!」
「ひゃーん!!ひゃーん!!」
「ぴゅぅっ!!ぴゅぅっ!!ぴゅぅっ!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「きゅ~・・・。ぐばぁっ!!」ゴグンッ
次に襲ってきたのはカラスとキツネとマーモットと熊。やれやれと肩を竦めながらこれも咀嚼する黒いの。
この一連の作業はこの森で育った体の大きな動物達が居なくなるまで続いた。そのすべてを飲み込み続けた黒いのは、ポッコリとしたお腹をさすりながらぷかぷかと宙に寝転がっている。
するとそこに、何やらガチャガチャと音をさせて歩いて来る集団が現れた。お揃いの鎧を身に着けたのは、この森の近くに在る街、ヨクブーカの兵士達だった。
「・・・・。こいつか?」
「えぇそのようです。」
「本当に我が国の実験結果の成果がこれなのか?全く強そうに見えんが?」
「ですが、森に放った獣たちの反応が全てここに集まっています。こいつが、全てを喰らいつくした物です。」
「お前が言うならそうなのだろう。おい、着いて来い。」
「きゅ~?きゅっ。」プイッ
何やら自分を取り囲むようにしている兵士達、その中で隊長と思われる人が、1人だけ鎧ではなく白衣を着ている人に話しかけている。どうやらこの森にいた動物達はヨクブーカの実験に使われた物だったらしい。
そして、その結果だとみなされた黒いのに隊長らしき人は指輪を見せながら着いて来いと命令する。だがお腹一杯の黒いのは動きたくなかったのか顔を背けた。
「・・・・・言う事を聞かないのだが?壊れたのか?」
「おかしいですねぇ。この指輪があれば装置が動くはずなのに・・・。」
「もう一度試すか。ほら言う事を聞け!!着いてくるのだ!」
「きゅ~う。」プイッ
「・・・・・・。やはり駄目みたいだぞ?」
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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