第12話 洞窟で出会った優しい人?
「きゅ~う~。」
一頻り暴れ回ってスッキリした黒いのは、最初の目的を達成する為に山を目指して移動していた。だが暴れていたせいで疲れた黒いのは、肩を落としながら休めるところが無いかと辺りを見回す。
「きゅっ?」
すると、山の側面に何やら穴が開いているのを見つけた黒いの。近づいて見るとそれはかなり奥まで続いていて、先が見えない洞窟になっていた。
「きゅ~♪」
疲れていた黒いのは好奇心に負けて洞窟の中に入って行く。暗い所でも見えるのか?と疑問に思ったが、幽霊みたいなものなので問題無く暗闇でも見えるらしい。洞窟の壁を触り感触を確かめたり、何やら鉱石の様な物を口に含んでは吐き出したりしながら、黒いのは奥へ奥へと進んでいく。
「きゅっきゅっきゅっ♪きゅ?」
ガリガリガリガリ
「もぐ?」
機嫌よく進んでいた黒いのは、洞窟の奥で何かをしている生き物を発見した。それは、黄色いヘルメットに黒いサングラス、そして手には鋭い爪を持った土竜が洞窟を掘っている現場だった。
「きゅ、きゅ~?」
「もぐ?もぐもぐもーぐもぐ。」
ねぇ、何してるの~? なんだぁ?ここは穴掘ってるから危ないぞ小さいの 意思疎通は出来ないはずだが、何となく意味が通っている2匹の鳴き声。黒いのは土竜から嫌な気配を感じないからか遠慮なく近寄って行く。
「きゅ~?きゅっ!!」
「もぐ?もぐもぐも?もぐもぐ?」
うーん?穴掘りだ!! 何だ?興味あるのか?やってみるか? 茶色いモコモコの土竜と黒い小さな幽霊。その2匹が鳴き合って意思疎通を図っている。人によってはほっこりする場面かもしれない。
土竜が体を横に避け、手本とばかりに爪で地面を削る。ゴロゴロと岩が落ちて壁が削れて行く様子に黒いのは目を輝かせた。すると土竜は爪でその壁を指さし、次に黒いのを指す。黒いのはその意味をしばらく考えた後。「きゅっ!!」と鳴き声を上げて壁の中に入って行った。
「もぐ!?」
壁の中に消えて行った黒いのを見て驚く土竜。しばらく待っても帰って来ない黒いのを心配して洞窟の中をウロウロと歩き回る。この土竜、この世界では珍しい心優しい種族なのかもしれない。
「きゅっ!!」
「もぐ!も~ぐ~ぅ・・・・。」
壁の中から出て来た黒いのは土竜に向かって手を挙げながら戻って来た事を伝えた。黒いのが無事に戻って来たのを見て土竜は安堵の溜息を吐く。
「きゅきゅっ!!きゅ~きゅっ!!きゅきゅきゅ!!」
「もぐ?もぐもぐ?もぐもぐも?」
戻って来た黒いのは、手を精一杯広げながら土竜に何かを伝えようとした。
見つけたよ!!こーんなに広い場所!!早く掘って!!
うん?何か大きな物を見つけたのか?そこまで掘ればいいのか?
微妙にずれているがおおむね意図が伝わった土竜は、黒いのに急かされるように洞窟を掘り始めた。土竜の鋭い爪はどんどん壁を崩していき、功績が出たら土竜は餌としてそれを食べて行く。黒いのはそんな土竜の仕事ぶりに目を輝かせながら邪魔にならない様に後ろから見学していた。
ピシッ!!ガラガラガラガラ・・・・。
「もぐ?もーぐー!?」
「きゅ♪きゅ♪きゅ♪」
土竜が掘り当てたのは鉱石の大鉱床だった。様々な功績が露出したその空間は、土竜に取っては色々な物が食べられるレストランの様な場所。まさに夢の大食堂だった。
その光景に驚き、鳴き声を上げながら固まる土竜。その様子を見て上機嫌な黒いの。だがそのほっこり空間は長くは続かなかった。
ドシン、ドシン、ドシン
「ぐ~も~!!」
「「「「「「「「ぐ~も~!!」」」」」」」」
土竜たちが開けた穴とは反対側から、何やら重い足音が響いて来た。よく見ると反対側にも大きな穴が開いていて、そこから何か出てくるようだ。鳴き声とともに姿を現したのは、黒い毛並みに赤い目をして、白いヘルメットをした土竜たちが出て来た。
「もぐぅ!?」
「きゅ~?」
「ぐも!!ぐもぐも!!ぐ~も~!!」
「「「「「「「「ぐ~も~!!」」」」」」」」」
なっお前達は!! だ~れ~? と反応を返す黒いの達。黒い土竜はというと、誰だ!!俺達の縄張りだぞ!!お前等やっちまえ!! かますぞー!! という感じで戦闘態勢に入っていた。
「ぐ~も!!」
「「「「「ぐ~も!!」」」」」
「ぐも~!!」
「「「「「「ぐもー!!」」」」」
「もぐっ!!」
「きゅっ!?」
黒い土竜達のリーダーが号令の鳴き声を出すと、取り巻きの土竜が地面から岩を掘り出して頭上に構えた。次に発したリーダーの鳴き声で取り巻き達は、その持ち上げた岩を黒いの達に投げ始めた。
黒いのと一緒に居た土竜はとっさに黒いのに覆いかぶさって黒いのを庇う。黒いのは土竜の突然の行動に動けなかった。
ドゴッ!ガンッ!!ドドドドドッ!!
「もぐぅっ!!もぐぅぅぅぅぅぅ・・・・。」
「きゅっ!?きゅきゅきゅきゅ!!」
土竜の体に岩がぶつかる音が響く。苦し気に顔を歪ませながらも必死に黒いのを守ろうとする土竜。本当に珍しい、心優しい土竜。その苦しそうな顔に心配になって声を掛ける黒いの。
「もぐ、もぐもぐ。もぐもぐも。」
ドガンッ!!
「もぐっ!!もぐぅ・・・・・・。」
「きゅっ!!きゅきゅきゅーーーー!!」
「ぐもぐもぐもぐも♪」
「「「「「「「ぐもぐもぐも♪」」」」」」」」
心配そうな黒いのに心配するなと笑顔を浮かべながら声を掛けた土竜の頭に、鉱石の塊が命中した。どうやら黒い土竜達が岩で埒が明かないと露出していた鉱石を掘り出して投げたようだ。
黄色いヘルメットが割れ、頭から血を流して倒れ込む土竜。割れたサングラスから除く小さくてかわいい目には必死に自分の体を揺する黒いのの姿が映っていた。そして黒いのに怪我が無い事を確認した土竜は、そのまま意識を失ってしまう。
その様子に楽し気に笑い声をあげる黒土竜達。土竜の体を揺すっていた黒いのの耳に、その笑い声はかなり不快に響いた。
「ぐも!!ぐもも!!」
「「「「「「「「「ぐも!!」」」」」」」」
よくやった!!次はあのチビだ!! 了解!! とやり取りをする黒土竜達。黒いのは自分を守ろうとした黒土竜達を許せなかった、そして、黒土竜達から立ち昇る嫌な気配に怒りのままに本能を解放した。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐもぅ!?」
「「「「「「「ぐもぐも!?」」」」」」」
バクンッ!! メシャ!!バキャ!!グシャ!!ガリゴリ!!ガギゴギ!!ゴリンッ!!ベキベキ!!ガリガリ!!ゴリゴリ!!グチャグチャ!!カリコリ・・・・。ゴクンッ。
黒いのは黒土竜のリーダーだけを口に入れ、他の黒土竜に見える様に咀嚼した。口の中で血を流しながら体がバラバラになり、磨り潰されて行く黒土竜のリーダーの姿に取り巻き土竜達は顔を蒼褪めさせていく。そして最後に黒いのは黒土竜のリーダーを“飲み込んだ”。
「ぐぅぅぅぅぅぅうばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「「「「「「「「ぐもーーーーーー!!」」」」」」」
叫び声を上げ、他の黒土竜達に襲い掛かる黒いの。黒土竜達はそんな黒いのから必死に逃げようと穴の中に飛び込むが、大口を開けながら逃げ込んだ洞窟を追いかけてくる黒いのからは逃げられなかった。
複雑な洞窟の全てを回る黒いの。黒土竜の発するあの嫌な気配を的確に感じ取り追いつめて行く。ほどなくして巣も含めた全ての黒土竜が黒いのに食われ、咀嚼される。
バキバキ、ゴリゴリ、メリメリ、ゴクンッ
「きゅ~・・・・。」
全ての黒土竜を食べ終わった黒いのは、いまだに血を流して倒れている土竜の元に戻って来た。血は止まる事無く流れ続け、このままでは土竜は出血多量で死ぬだろう。その顔もどこか血の気が引いて白くなってきているように見える。
何とか血を止めようと手で傷口を抑えるが、小さな黒いの手では抑えきれずに血はどんどんと流れて行く。
「きゅ~・・。きゅ~きゅ~・・・・。」
「ぐばぁっ!!」
「きゅっ!?」
ペロペロ、カリカリ、モグモグ、もごもご、ぷっ
何とか助けたい、そう思う黒いの。すると、胸の宝石がキラリと輝いたと思えば突然体の口が開き土竜を飲み込んだでは無いか。初めて自分の意思以外で開いた体の口に驚く黒いの。そんな黒いのの事は気にもせず、体の口は土竜の体を咀嚼し、何かと混ぜ、口から吐き出した。
吐き出したそれは人の形をしていた。短い手足に樽の様な体、茶色い髪に地面に着きそうな程長いひげ。筋肉質の手には土竜の爪の様な材質で出来たつるはしとハンマーが握られていた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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